第3話 ぼっちのボク、悪魔を助ける②

 ボクは当初の目的である図書館をあきらめて、ワガママ少年Xを連れて家に帰ることにした。


 立ち上がったワガママ少年Xは、ネコ背だったけど背が高くて、背の低いボクとしては、少しだけうらやましい。前ならえとか、両手で腰に手をあてるポーズしかしたことない。マジでクツジョク! 前ならえの文化は、廃止にすべき!


 帰り道で、ワガママ少年Xはなれなれしく「自転車、二人乗りしよ~ぜぇ~」とか言ってきたけど、ボクは無視して自転車をおして、カレと並んで歩く。


 自転車の二人乗りなんて危ないだろ! だいたい、ボクはあんまり運動神経が良くないし、転ぶ未来しか見えない! まぁ、確かにちょっと友達と自転車の二人乗りはあこがれるけど……。


 いやいやいや、自転車の二人乗りは法律イハンだから! あれ、でも法律じゃなくて、県の条例かも。あとで調べよ。それに、そもそもワガママ少年Xと友達じゃないし!


 ふと、ちゃんとワガママ少年Xがボクの後をついてきてるか、心配になって横を見ると、ヤツはいなかった。あわてて自転車を止めて、ボクはふり返る。


「お~。ネコ~。お前、めっちゃカッコイイ漆黒じゃん。オレ様の配下に加えてやってもいいぜぇ?」


 ワガママ少年Xは、しゃがみこんで黒ネコに話しかけていた。はたから見てると、ヤバいヤツにしか見えないけど、なぜか黒ネコ側もニャーニャー言って返事しているようにも見える。


 でも、それよりもボクがビックリしたのは、ワガママ少年Xのズボンについたシッポが、本物のシッポみたくパタパタと動いている! え、どういう仕組み? 中に機械でも入ってるのかな。ワガママ少年Xは、ボクの視線に気がついて、黒ネコの頭をなでると立ち上がった。


「じゃあ、またな~。ネコ~。オレ様が呼んだら、ちゃんと来いよ」


 黒ネコは、一声ニャーと鳴いて、ボクに肛門を見せつけるように、シッポをピンと立ち上げて去っていった。ワガママ少年Xは、小走りでボクのところまで追いついてくる。


「人間界、一人で来たの初めてだからよぉ。配下は、積極的にどんどん増やしていかないとな」


 何言ってんだ、コイツ。あ、また、よくない言葉を使ってしまった。母に怒られてしまう。まぁ、たまにアニメとか、マンガに影響受けすぎなヤツっているし、そのタイプかな。でも、そんなことよりも、ズボンのシッポの仕組みの方が気になる!


「ねぇ。そのシッポ、どうやって動かしてるの?」


 ボクは好奇心をガマンできなくて、思い切って聞いてみた。


「あ~? どうやってって。シッポなんだから、動くだろぉ?」


 全然、答えになってないことをワガママ少年Xは言うと、左右にフリフリとシッポをゆらす。サバンナとかにいるヒョウとか、チーターみたいな動きだった。


「なんだよ。その不満げな顔」


 見るからに回答に納得できていない表情をボクがしていたせいか、ワガママ少年Xはあきれたようにボクを見下ろす。クソ、背の高いヤツって、やっぱムカつく。ボクはついつい言葉があらくなる。ま、心の中の言葉だし、いっか。


 そんな会話をしてたら、ようやくボクのマンションに着いた。自転車置き場に、自転車をしまい、チェーンのカギをかける。ワガママ少年Xは、またネコに声をかけていた。目をはなすと、すぐにネコに話しかけてるの、なんで。今度は、三毛ネコだ。さっきと同じように、ネコの頭をなでてから、カレは立ち上がる。


「へへっ。二体目の眷属けんぞくをゲットだぜぇ。さすが、オレ様」


 熱中しょうのコウイショウだろうか? 自まん気に意味不明なことを言われて、ボクのほおは引きつった。反応に困る場合は、無視に限る。


「ボクの家、こっちだから」


 ネコの話題は無視して、ボクはそそくさと、マンションのエレベーターホールに向かう。ワガママ少年Xも、それ以上は別に何も言わずについてきた。エレベーターの中で、二人で無言でボクの家の階につくまで待つ。エレベーターの中って本当に会話困るよね! 同じ階のご近所さんとかと、いっしょになっちゃうと、本当に困る!


 十階に到着。ボクはろう下を歩いて、エレベーターホールから五戸目の扉にカギを差しこんで開けた。念のため、外国人のように見えるワガママ少年Xに「クツぬいでね」と、クギをさす。ワガママ少年Xは首をかしげていたけど、ボクが玄関でクツをぬいでから家にあがったのを見て、マネてくれた。


 ボクが洗面所で手を洗おうしていると、リビングから声が聞こえてくる。


「早く、水飲ませろ~」


 ワガママ少年Xは、勝手にリビングのソファーに座っていた。


「それよりも、まずは手洗おうよ! 君、さっきノラネコ、さわってたでしょ!」


 ボクはカレを引きずって、洗面所にもどった。カレはちょっと不服気だったけど、しかたないなぁといった感じで手を洗う。なんで、みんなフケツで平気なんだ! 信じられないよ!


「うがいも」


 コップを差し出すと、ワガママ少年Xはますます不満げな顔をする。


「お前、爺やに似てる。世話焼き」


 言い方にちょっとムッとしたけど、おとなしくボクの指示に従ってくれてるし、今回の非礼は不問にすることにした。それにしても、爺やって、お金持ちのお坊ちゃまなのかな。そのあとも「水、水」うるさいので、ボクはウォーターサーバーの前にカレを連れて行った。


「ここのボタンおすと、水出るから」

「すげぇ」


 グラスを持たせて、ウォーターサーバーの使い方を教えてあげると、ワガママ少年Xは楽しそうに、ボタンをおして水を注いでは飲んでいる。ボクはリビングのエアコンの冷房ボタンをおして、さらに扇風機もつけた。


「あんまり飲み過ぎると、逆にまた体調悪くなるかもしれないから、ほどほどにね」


 ワガママ少年Xが何杯も飲んでるので、少し心配になって、ついつい口出ししてしまう。むむ。ちょっと母みたいになってしまった。


「うい。やっぱ、爺やに似てる。お前、世話焼き。きめ細かな世話焼き」


 カレは、ヘラヘラしながら水を飲む。


「お前、お前って、さっきから助けてやったのに、全体的に失礼なヤツだな。ボクの名前は、雄馬ゆうまだよ」


 自分でも母みたいに「口うるさいな」と思っていたので恥ずかしくなって、ボクは怒ってゴマカすことにした。


「お~、ユーマ! ユーマ、よろしくなぁ~」


 ナゾにうれしそうにボクの名前を呼ぶワガママ少年X。なにその笑顔。意味わからん。


「オレ様の名前はなぁ~」


 そうカレが言いかけた瞬間だった。


 勝手にベランダの窓が開く。カギしめてたはず……。



「アモンッ!! ようやく見つけたぞ!!」



 室内に響き渡るほどの大声がして、いきなりベランダに人が舞い降りてきた。


 え? は? 信じられない光景に、ボクはアゴが外れるんじゃないかってくらい口をあんぐりと開けてしまった。


 ここ十階だよ?

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