18,メタ発言
シーツに埋めていた顔をガバッと上げた
滲んでいた涙は柔らかな布に吸い込まれて、視界がクリアになる。
「ドロシー、作戦を少し変更するわ」
「と、言いますと?」
固唾を飲み込んだドロシーを見る限り、私は相当真剣な顔をしているみたい。
当然よ、真剣に考えたんだもの。
「やっぱり私はセレンディッド様と結婚する必要があるの。婚姻を結ぶことによって、国同士の親交を深めるのは私の役目よ。もう覚悟したわ」
「姫様……ご立派です……‼
ここにバードット夫人がいたら三日三晩喜びの舞を踊り続けますよ‼」
「想像できるから怖いわ」
今まで好き放題生きてきた。そろそろ大人になる時がやってきたのよ。
でも、只で大人になんかなってやらない。
「石を海の泡にされるのもごめんだし、やるしかないわ。ただそうなると、私はサラ様にとって横恋慕。 この領地のヴィランになってしまうわ」
「歴史に名を連ねるレベルでの横恋慕です!」
「そうでしょう? だから考えたの。
私がセレンディッド様を篭絡して、略奪婚。その後アラーレをコーラリウム国に流通させ、人魚達の居場所を作るよう父上を巻き込んで便宜を図って石が戻ってきたら離婚するの」
我ながら名案! ……あら。
「なんでひっくり返っているの?」
「あまりにも自己中心的な作戦にビックリしちゃいました……」
よいしょ、とドロシーを元の位置に戻してあげると、羽を整えてやる。
この抜けた羽、集めたら何かにリメイクできそうね。
「えっと、姫様? 最初から離婚すること前提ですか? ていうか、そもそも歌を歌えないですよね⁉ どうやって領主様を誘惑するんですか⁉」
「そこなのよ。こうなったら愛妾にでもしてもらって、目的を達成したらすぐ捨てられるか……」
「バカですか⁉ コーラリウム国の王女が愛妾⁉ しかも捨てられる⁉ そんなことになったら大王様が一年中海底火山を噴火させ続けますよ‼」
「じゃあどうしろっていうのよ! このままじゃ私も貴女も海に帰れないし、コーラリウム国の皆も地上に出てこれない! あの子からもらった宝も消えちゃう!」
「もう少し考えましょうよ! なにもわざわざ姫様が悪役令嬢小説の噛ませ犬令嬢にならなくていいんですって!」
「メタ発言はやめなさいよォ……‼」
ギリギリアウトよ、それ。
ベッドに寝転んでシーツを顔に被せた。
「じゃあ〝あの子〟を先に見つけ出して謝っておきます? あの時ごめんなさいっていうのと、石は海の泡になりましたって」
「待ちなさい! まだ確定じゃないわ‼」
「だって絶望的じゃないですか」
「……いいえ、ドロシー。私の心の問題だけれど、試したいことがあるの」
涙と鼻でぐずぐずになった顔を上げた。
ドロシーを不安にさせまいと思っていたけど、結局涙は隠せずじまい。
「そうよ、私が祝福の歌を歌ってセレンディット様を魅了したらいいのよ」
「でも歌えないって言ったばかりじゃないですか」
「だから歌えるようになればいいのよ」
「ど、どうやってですか 」
シーツを乱暴に頬へあてると、涙の跡を消した。
ちょっとヒリヒリするのは力加減を間違えたかしら、赤くなっていないといいけれど。
「私、思ったの。歌が歌えない理由は、きっと〝あの子〟に対する罪悪感なのよ。
罵られても、なんと思われても、一言謝れば進める気がするの。そしたら私の長年モヤモヤもきっと消えるわ。
そうよ、そこが解決できるならむしろ喜んでバツイチの肩書きくらい背負うわ!」
「(そんな覚悟を決める度胸はあるのに、なんで引きこもったのかなぁ……)」
「というわけでドロシー! 〝あの子〟を探すのわよ!」
「はぁい……」
朝日が差し込む部屋の一角で 、新たな目標ができた。
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