#28 貴族との決闘

 ベイルの所業は瞬く間に学園中に駆け巡る。しかしいの一番に動きそうな生徒が動かない事もあって静観が続いた。そもそも些細な喧嘩でも悪くなくても場合によって人が消えるのがこの学園だ。ほとんどの生徒は動かないだろう。

 だが手紙を渡しに来た女生徒は気が気じゃなかった。もし気に入らならなければ前の様に殴られるのではないかと思っていたのだ。


「これ、決闘の件が書かれているから」

「ありがと。ずっと待ってたんだ」


 貴族からの決闘状を喜んで受け取る平民。しかも貴族令嬢を平然と殴った上に「あの高さから落ちてもどうにかする」と言い放てるキチガイな存在。本気で恐ろしく感じてしまう。


「どうしたの? 帰れば?」

「え? その……気に入らないから襲うとか――」

「いや、しないから」


 本気で驚いたその女生徒。


「人質に取ったりとか、性的に襲ったりとか――」

「そもそも人質を取る程弱くないし、性的に襲うとか無理。やり捨ては趣味じゃないし、そんな責任重大な事を安易にできるわけないだろ」


 最後には呆れを見せるベイル。相手は貴族家出身のご令嬢なのに口の利き方を正さないのはいつものスタイルだが、その女生徒は余計な事を言って死にたくないのでその事は指摘しない。


「そ、そうなんだ。とか言ってあの女に手を出したりしてるんじゃないの?」

「…………大丈夫。たまに飛ぶけどすぐに正気に戻って我慢してる」

「あ、うん」


 目がマジだった事もあってそれ以上女生徒は突っ込む事は止めた。


 手紙を受け取った後、ベイルは封を切って中を確認する。場所もしっかりと明記されており、午後の授業中に向かう事にしようと思っていた。

 あの騒ぎから既に数日は経過している。試合の日はしっかりと入力されており、今の時間帯で言うならば翌々日。次の土曜日となる。ベイルは内心お疲れ様だと思いながらもとりあえずは自分ができる事をしようとしていた。

 例えば身体トレーニング。そもそも昼からの授業が休憩を挟むとは言え実質2時間以上拘束される。だがベイルがそれを空く事になれば暇になるので、その2時間を使って普通の人間にはできないトレーニングをしているのだ。ちなみにそのトレーニングを見た人は唖然としたが、ギーザスも納得する。それもそのはず、5階建ての寮で自由形の長距離走をしているなら誰でも思うだろう。わかりやすく言えばパルクール、というものだがベイルの場合は完全に自由型である。

 そんな事をしているベイルだったが、ある場所に安全を確認していると、そこでは不思議な事が起こっていた。


(……ん?)


 下を見ると、そこでは白いブレザーを着用している若い男女が2人でいた。別にどこに誰がいようが問題では無いのだが、時間が問題なのだ。

 本来ならば午後からの戦闘訓練に出席する必要がある。ベイルはあまりにも強すぎるので自由時間となっているが他の2人は違う。ベイルはそこでカメラを出して撮影した。すると音が聞こえて誰かが上を見て来るが、予備動作で反応したベイルは身を隠した後に安全確認と称して下を見ると女生徒の方と目が合った。

 女生徒は焦っているが男の方が宥めた後に男の方が手招きをする。ちょうど降りようと思っていたので着地する。


「初めまして、ベイル君。まさかこの高さから落ちても平気なんてね」

「…………」


 ベイルは特に答えない。というよりも目の前の男が誰だったのかと考えている程だ。


「どうしたんだい? 挨拶したんだ。君も挨拶ぐらいして――」

「あー……えっと、誰?」


 途端に男の方が顔を引き攣らせる。まさか自分の名前が出てこないとは思っていなかったらしい。


「ぼ、僕はカイエル。カイエル・メイジャーだ。これでも辺境伯の出身なんだよ」

「…………そうか」

「で、話があるんだけど、今回の事を黙っていてもらえないかな?」


 そう言われた事にベイルは驚いている。


「いや、悪いって思っているならしなければ良いじゃん」

「君にそんな事を言われたくないかなぁ? 侯爵家の人間に喧嘩を売るなんて異常だよ」

「ちゃんと説明もしない癖に偉そうにする雑魚に用は無いんだよ」


 そう言い切ったベイルを見てカイエルは異質さを感じる。というよりも今の社会を壊そうとする悪魔にも見えたのだが、その悪魔はまるで興味が無いと言わんばかりにその場から去ろうとしている。


「って、どこに行くんだい?」

「どこって、トレーニング」

「え?」

「別に俺はあんたたちの関係に口出す気は無いし、その女に手を出して「何をやっているんだ」って思わないし、ぶっちゃけどうでもいい。俺はその女に対してなんとも思わないし、好きにすればって話だ」


 そう答えたベイル。というのもその女生徒は身長は160㎝弱ぐらいで胸部も平均的。胸もそこまで大きいかと言われればそうでは無いし、何よりそこまで強そうに見えないというのもある。

 興味も薄れたし爆弾は既に確保済なのでどこかに行こうとしたが、体勢を変えて回避する。


「やれやれ。人の話を聞こうとしないんだな、君は」

「驚いたな。まさかあそこから攻撃をしてくるとは」

「当然じゃないか。君が知らないだけで僕だって強いんだよ」

「それは嘘だろ」


 思わず返したベイル。その言葉にカイエルは顔を引き攣らせる。


「何だって?」

「たぶんあんたは嫌がらせは得意そうだけど魔法戦は言う程じゃないと思う。少なくとも俺が求めているレベルには無いだろ」

「……随分と言ってくれるじゃないか」

「事実だ。かと言ってここで戦う気は無いだろ?」


 その言葉にカイエルはなんとも言えないという顔をする。


「じゃ、そういうことで」


 ベイルはそのままどこかに去って行く。その姿を見て女生徒は驚いていたがカイエルはなんとも言えない顔をしていた。




 ジャック・ハウエルズとてただの馬鹿、というわけではない。ベイルが教師を倒したという話を聞けば誰だって警戒するし、過去を探そうともする。だが出て来たものはとても少なかった。

 昨年12月に現れて冒険者登録を済ました以外の経歴は無かった。そこでギルドマスター直々にAランクになるように打診はあったがベイルが駄々をこねたことでCランクになり、ランクがランクなので積極的に任務をこなさなかったので持ち込んだ大量の魔物の件で強制的にBランクに上げる事になった。それをCランクのとある冒険者から話を聞いて頭を抱える。


(これは、人を集めたところでどうにかなるわけではないな)

 

 そう思わせたのは、やはりベイルが教師を一方的に蹂躙した上に実力的に追い出された事も含まれる。貴族に喧嘩を売っているのもあって友人以外は誰も近付かないが、平民出身の生徒からは何かをしてくれると興味を持っていた。

 さらに報告書にはいくつかの冒険者とも繋がりがあり、その中でも貴族との関係も厚い、と書かれている。ただその面子が問題だった。

 1人は幼い頃に公爵領を吹き飛ばした上に今では辺境伯が内定しているヒドゥーブル家の異端児シルヴィア・ヒドゥーブル。さらにはその専属従者で従家資格を持つマノン・セバスティアン。あと1人は戦闘力こそ劣るが王太子殿下の婚約者の妹のカリン・バルバッサ。その面子を見てジャックは手を出さない事にした。下手すれば領地が文字通り消滅するからだ。もっともそれは別にベイルと戦っても同じなのだが、まだジャックには勝機があると思っていた。

 実はベイルには決闘方法に関しては何も伝えていない。場所を指定して呼び出した。人数、使用武器に関しても無制限。ベイルが友人や女を使って現れるも良し。そうじゃないにしろどっちにしろ自分たちに逆らった事は償わせる。財力はあるのだから問題ない。強いのならばその方法は如何様にもある。そう余裕ぶっていた。




 昔の事だった。自分と懇意にしている少年が髪が伸びている事を気にして自分で切ろうとしているのを見て止めた。

 その少年は幼いながらも既にかなりの功績を上げており、散髪代ぐらい好きにしろと自分の父に呆れられて散髪を依頼。彼の髪を綺麗に整えてもらった。

 しばらくして、髪型が変わるその少年に少女は聞く。どうして髪をバッサリしようとするのだと。その時に少年はこう言った。


 ――戦闘の邪魔になるから


 その時、少女は思った。


「――この戦闘バカァッ!」

「いきなりどうしたのよ」


 突然叫び出したその少女は記憶だということを思い出す。近くには女性らしく育っている自分の右腕が驚いていた。


「あ、ごめんなさい。思わず叫んでしまったわ」

「……私は何故叫んだのか気になるわね」

「むしろ居眠りした事は起こらないんだ」

「今更でしょ、そんなの。ここ最近激務だし、仕方ないじゃない?」


 そう言いながらも彼女の右腕的な存在は紅茶を準備した。


「どうせ昔の夢でも見ていたんでしょ? ベイル君と一緒にいた時の夢かしら?」

「……何でわかるのよ」

「あなたとどれだけ長く付き合っていると思っているのよ。それに最近はいきなり決闘騒ぎを起こした問題児にご執心のようですけど」

「別にそういうわけでは無いわよ。イザベル、あなただってあの件は知っているでしょう?」


 そう言われてイザベルと呼ばれた女生徒はため息を吐く。


「ええ。なにせベイル君がいなくなってあなたが本気でキレた事件ですからね」


 それはベイル・ヒドゥーブルの名を騙り、王家に取り入ろうとする企み。少女は――シャロンは平然と現れる偽者たちにキレ、待ち合い室に毒を流し込んだ。

 本来ならば非難される行為だがシャロンは毒程度でベイルは死なない事は知っていた。というか毒を仕込まれている事に気付いた時は王女である自分の食事を奪い、食べる程。初めてそれをされた時は本気で驚いたが、怒った後に事情を聞いて冷や汗を流した。だからと言って平然と毒入りのご飯を平らげた後に平然と解毒ポーションを飲んでいる事もだが。


 ――でも毒って慣れれば味としては、いける


 そんな馬鹿な事を言っていた少年ならば余裕。王家でも大した事がないタイプのものだが毒と気付いたものは阿鼻叫喚。よほど恐ろしかったのか泣きわめく者もいた。だからこそシャロンは盛大に笑ってやったのだ。

 その事に対して猛抗議が来たが、毒程度で狼狽えないし解毒ポーションを出して普通に飲むし、毒と気付けば奪ってでも食いつくすのがベイル・ヒドゥーブルだと伝えた事で全員がドン引き。さらにはダンジョンを攻略して来いと言うと全員が逃げた。そんな異常の集合体を思わせるもう1人の男が現れた。

 初日で貴族と決闘騒ぎ、2日目に教師を沈めてからは大人しく活動する自分が知る人間とは違うが似ている存在。シャロンはどうしても気になる。特に、どうして髪を伸ばしているのか。

 

「まだ決闘まで時間があるわ。それまで寝ていなさいな」

「……うん。そうする」


 シャロンはまた眠りに着く。今度はデスクではなく隣の仮眠室にブレザーをハンガーにかけてそのまま横になる。そんな彼女を見てイザベルはため息を吐いた。


「答えはもう決まっているじゃない。彼が権力なんてただの1度も求めた事無いのに」




 食事を済ませて友人たちと話ながら指定されたフィールドに移動している最中、何度も通行止めという看板があったのでベイルはさも当然のように渡ろうとしたのを3人が全力で止める。それが何度も繰り返されていたので到着したのは決闘開始予定の10分前だった。

 観客席は貴族に逆らった平民の無様な最後を楽しみにしているのか満員御礼。立見で見ている者も多い程だ。そんな状況なのにベイルは平然としている。


「お前って、つくづく緊張と無縁だよな」

「まぁ、別に戦いが嫌いってわけじゃないしな」


 ギーザスにそう返したベイルはため息を吐く。


「どうしたんだよ」

「お前はそういう奴だよなって思ってさ」


 呆れるギーザスに対してクリスが言った。


「あー、ベイル。ちょっと――」

「もしかして、ジーマノイドを使用してくるってことか?」

「ああ」


 苦虫を噛み潰したような顔をするがベイルは一切動揺していない。それどころかニヤニヤしていた。


「じゃあ、行って来る」


 笑顔でそのまま闘技場に向かうベイル。その姿に3人は唖然とした。


「いやちょっと待て⁉ お前相手はジーマノイドだぞ?! 兵器なんだぞ!?」

「少しは動揺したらどうなんだよ! 死ぬの? お前今日死ぬの!?」

「ちゃんと対策しないと――」

「おいおい落ち着けよお前ら。俺が死ぬわけないじゃないか」


 満面な笑みを浮かべているベイルだが、次の瞬間とんでもない事を言った。


「そこに知らない技術があるなら奪う。これ世界の常識ね」

「「そんな常識あるかぁああああああああああああッ!!」」


 ギーザスとクリスに全力でそう突っ込まれるが、ベイルは気にせずに闘技場に向かって駆けていく。

 中に入るとそこにはジーマノイドが3機並んでいる。それを見てベイルはまるで憧れるモノを初めて見るような子どものように瞳を輝かせた。


『ようやく来たか平民。目上の人間を待たせるなんて随分失礼な奴だな。てっきりビビッて逃げたかと思ったぞ』


 だがベイルはその発言に現実に引き戻され、盛大にため息を吐く。


「尻尾巻いて逃げ出した間抜けがよく言うよ。その上俺を相手にジーマノイドを持ち出すのか」

『何だ? 俺様のジーマノイドをビビったか? ちゃんとあの決闘状に勝負形式に制限無しと書いてあっただろう。こんな事になればお友だちの貴族に泣きついてジーマノイドを準備してもらえば良かったじゃないか。もっとも、その程度でお前が勝てるという事は無いがな!』


 ジャックに合わせて取り巻きの2人も笑う。ベイルはその間に影を使って相手のジーマノイドからシステムを検索。中を見て落胆した。


『どうした。あまりの戦力差に怖くなったか? なら簡単な方法を教えてやる。お前が俺に服従を誓え。ついでのあの女を俺に寄こせば許してやる。どうだ、簡単だろう?』

「簡単……?」


 簡単という言葉に反応したベイルはため息を吐く。


『そうだ。ただお前の命を長らえさせる為にあの女をこちらに渡せば良い。簡単だろう? まぁ、引き渡したらどうなるか言わなくてもわかるだろうがな』

「…………ずっと思っていたんだけどさ」

『何だ?』

「この場にいる一体誰が、俺に勝てるのさ」

『…………は?』

「さっきから聞いていたらまるでお前が俺に勝てる可能性があるみたいに言っているけど、この際ハッキリ言っておいてやる。無理だから」


 ベイルはそう断言した。


「むしろあんたの勝ち筋はこの世界すべての人類種と協力する以外ありえないんだよ。それとも何? まさかお前程度のカスが俺に勝てる本気で勝てると思っていたの? いやいや、ないない」


 その発言がマズかったのだろう、ジャックは左肩に備わっている砲台をベイルに向けた。


『待ちなさいジャック・ハウエルズ! それ以上は――』


 審判を務めるイザベル・セルヴァの言葉を無視して魔砲を放つ。それをただ呆然と眺めていたベイルは直撃して消滅した。その光景に悲鳴を上げる女生徒や当然と言わんばかりの態度を取る貴族出身の生徒たち。中には嘲笑っている者もいる。


『な……なんてことを……』


 思わずそう漏らすイザベル。だがジャックはお構いなしに勝利に酔いしれている。


『馬鹿な奴だ。平民らしく謙虚にいればこんな事に――』


 ジャックが途中で言葉を切る。それもそのはず、自分の目の前に突然謎の機体が着地したのだ。

 謎の機体の出現に観客は騒然。そして機体からの通信を拾った観客向けのスピーカーから、さっき死んだと思われたベイルの声が漏れる。


『いやぁ、あの程度のしょんべんビームで死ぬ方がおかしいと思うんだけど』


 その言葉にジャックは驚きを隠せない。


『何故だ!? 何故生きている⁉ ジーマノイドの魔砲を直に受けていたんだぞ!』

『だから言ったじゃん。お前のしょんべんビーム如きで死ぬ方がおかしいって。あ、自分が見下していた相手がこうも簡単に生存して驚いてる? それはいくらなんでも舐め過ぎだ』


 するとベイルは自分の機体の砲口を取り巻きに向けて発射。さっきとは比べものにならない威力の魔砲が一瞬で2機を撃破した。


『え? 嘘? 今ので死ぬの?』

『そうだ! この人殺しが! よくも俺の友人を――』


 周りを味方につけようとしたジャック。しかしその途中でベイルの口からとんでもない事が出て来た。


『ダッサ! ジーマノイドに乗っていてそれは無いわ。恥ずかしい過ぎ。これじゃあ俺が生身で戦ってようやく接戦ってレベルじゃないか! 仮に俺の強さがおかしいって言われてもこれは酷い!』

『さ、さっきから聞いていれば何なんだよ! 平民風情が――』

『平民風情がって何なのさ。この国の貴族は危機的状況でも打開する事ができるぐらいに強いって聞いていたから期待していたのに、全然じゃないか』

『黙れ! 貴様、3年前の魔族の侵攻で一体どれだけの被害が出たと思っている⁉ 我々貴族が積極的に動いていたからこそ今の形があるんだぞ!』

『知らねえよ。だって俺の記憶は3年前から過去の記憶は無いんだもの』


 その時、審判席に座っていたシャロンが立ち上がる。


『まぁ、無駄話はここまでにするか。どうせこれ以上は無駄だし』

『ちょ、調子にの――』


 ベイルの機体がマニピュレーターに装備していた機構変形砲を空中に投げ、灰色だが輝かしい剣を取ると一瞬で黒く染まった剣でジャック機を攻撃。そこそこ戦闘経験を積んでいるのか、それともたまたまかジャックは攻撃を回避した。

 その様子を見て何人かはベイルがまだ遊んでいる事に気付く。だが今のベイルをどうこうする力は無い。


『つまらなねぇ。何だこれ。よくこの程度の力で粋がれるな。不思議で仕方ねえわ』

『お前こそわかっているのか! この俺を殺せば俺の両親は黙っていない! その後ろ盾でもあるエクランド家もな! いや、もう引き返せねえんだよ!』

『…………そっか。それは困るなぁ』


 そう漏らしたベイル。確かに貴族をこれ以上敵に回すのはマズいと考えた――と、ジャックは思った。だがその認識は間違いである。


『だろう、だったら――』

『責任取って生き残った王女と結婚して国を治めてくれって言われたらどうしよう。いや、本当にどうしよう。流石に国を治めるとか嫌だしバックレようか』


 そんなとんでも発言にジャックは唖然とする。いや、ジャックだけじゃない。今日ここにいる全ての人間が唖然とした。


『でも王女が美人だったら一見したいし、可愛いのもいるから虐殺は嫌だしなぁ。別に俺、虐殺が趣味じゃないし』

『…………いや、お前……何言ってるんだよ。国を治める立場? 王女と結婚?』

『だってそうなるでしょ。前々からわかっていたけどお前らの能力が低すぎて話にならないし、こっちはまだ遊んでいるだけで終わっているんだよ? というかさっさと連絡しろよ。何でお前呆けてるんだ?』

『…………は?』

『俺はもう他の2人を殺している。というなればいくらそいつらがただ無能すぎたとはいえ、子どもを亡くした親は感情のままに動くからお前の家やそのエクランドって家に頼むだろうよ。何だったらこの場にいる者たちの中にいるジーマノイド所有者に頼んで協力してもらってもいい。俺の言動に対してとっくに苛立っている奴らもいるだろうし、圧倒的弱者な立ち位置に落ちた今のお前に対する同情心と俺に対する一切無駄な対抗心で参加してくれるだろうよ。取るに足らない雑魚ばかりだけど』


 その言葉に貴族出身の者たちが怒号を飛ばす。しかしそれを力に変えてジャックはベイルに仕掛けるもベイルがそれを簡単に弾いた。


『思い上がりも大概にしろ! エクランド大公家には英雄がいる! ブロン・エクランドという英雄がな!』

『…………いや、そいつ両足を骨折したからって黒人狼4体相手に何もできなくて死んだ間抜けじゃん』


 ジャックは何を言われたのか理解できなかった。そして試合を見ていたとある男子生徒は思わず立ち上がる。


「どうしました、殿下」


 彼の側近であり幼馴染でもあるブルーノが声をかける。


「…………いや、納得したんだ」

「納得?」

「あいつは確かにベイル・ヒドゥーブルで、ブロン・エクランドの死にあの男に関わっている。あの男なら転移があるから仮にブロンを殺してすぐに王都入りなんて可能だ」

「なるほど。捕縛の準備をさせましょう」

「……いや、おそらく無駄だ。むしろそれが目的の可能性もあるしな」


 ――それに、その方がこちらとしても都合が良い


 その言葉は言わなかったがブルーノは察する。


『まさか、お前が……いや、お前はブロン様を助けなかったというのか!?』

『逆に敵対している奴らをお前らは助けるのか?』

『ふざけるな!』


 よほど憧れや尊敬があったのか、ジャックがキレる。


『許さねえ、この害悪が! お前みたいなのが――』

『あ、記録にはしっかり「カツアゲ中に相手の戦力比が理解できず返り討ちにあい、逃げた先で黒人狼に襲われて無様に死亡』って書いといて』

『調子に乗るな!』


 ジャックが攻撃を仕掛ける前にベイルがすれ違いざまにジャック機を切断した。


『そんな……嘘だろ……』


 ジャック機が爆散。コックピットブロックが飛んできて壁に激突した。センサー類でコックピットブロックを含めて生存者を確認するが、なんと3人共生存している。


(悪運強いな……)


 なんてことを考えていると、イザベルが勝利を告げた。


『勝者、ベイル』

『――いや、この決闘そのものが無効だ』


 そんな声が唐突に聞こえ、次々と機体が投入された。だが誰も今回の決闘で負けた者たちを回収しようとしない。


『ベイル。君には退学を言い渡す。同時に大人しくしてもらおうか。ご友人の安否を保証してほしければ、な』

『……誰?』

『ジョナサン・ホーグラウスと言えばわかるかな?』

『――そこまでにしてください、叔父様』


 スピーカーから生徒会長のシャロンが乱入。


『君は黙っていなさい。彼は犯罪者だ。そんな者にこれ以上、学園を好き勝手されるのは困る。ということでだ』

『……なるほど。良い判断だよ。確かに今の俺にとってメルよりもギーザスの方を人質に取られるのは困るから』


 そう言ったベイルはコックピットハッチを解放して外に出たベイル。両手を上げようと抵抗の見せないが、自分のジーマノイドだけはしっかりと収納した。

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