#27 初日にやらかすその精神
部屋に戻ったベイル。そこにはクリスとギーザス、メルもいる。
新一年生の方にはテリーが今回の件を説明しに行っていた。
「この、バカ野郎が!!」
ギーザスは思いっきり叫んだ。
「……まぁ、いきなりあんなことを言ったジャック・ハウエルズにも非があるのは確かだが、まさか初日からこんな騒ぎになるとは思わなかった」
「あー、その事なんだけど。何であのハウエルズって奴は急遽そんな事を言い出したんだ?」
ギーザスの質問にクリスは言いにくそうに言った。
「これも魔族の襲撃によるのだがな、一度ある一部を除いて全ての領土が無くなって貴族や平民が王都に集まっていたというのは知っているか?」
「「知らない」」
ベイルとメルが同時にそう言うと2人は冷や汗を流す。
(そういえば、ベイルは……あれ? あの時、吹き飛んでいたよな? というかあの時にいつの間にか現れてどこかに消えたんだっけ?)
当時の事を思い出していたクリスだが、すぐに正気に戻って説明を続ける。
「まぁ、大半の領土が魔族の襲撃で撤退を余儀なくされてな。その際にとある少女が公爵家の領土を文字通り吹き飛ばしたり、とある家の当主が生身でジーマノイドを斬り捨てて行ったりしていたが――」
「え? どこにいるのそいつら?」
「あー、その件に関してはいずれ会えるから良いとして、だ。まぁその事があって難民が続出した。今ではバルバッサ公爵が自分たちの傘下貴族や領民と共にかつての領地を取り戻しているし、野菜などの生産量もそこそこ回復している為、かなり改善されている。だがそれでも難民を食わせる、というのはかなり難儀だ。特に魔族の侵攻が激しく、今では王国も元共和国側に位置する土地のほとんどを魔族に取られている」
「……そんな事があるのか」
ギーザスはそんな事を知らなかった事もあり、本気で驚いていた。
「流石にテリーもそこまでは説明しないだろうが、実際のところ王国はかなり危険な状態だ。だが人だけは増える。全く、先祖は本当に厄介な種を残してくれたよ」
「それに関しては本当に同意だよ。人類種最弱の身でありながら神に姿が近いからと他の種族を迫害したんだろ? ただのゴミだよ」
「…………えっと、何でそんなこと知ってるんだ?」
クリスが聞くとベイルは平然と答えた。
「俺がいた場所ってのは人間の迫害が強くてね。実際今の人間も「亜人憎し」となっていて暴走しているからお互い様ではあるけど。あ、先に言っておくけど教えないし、もしこの国がそこを攻撃するっていうなら俺が敵に回るけど?」
「…………ああ、その時は是非とも伝えておこう」
そうすれば絶対に進軍は止めるだろう事は容易に想像がついたクリスはそう答える。ベイルと敵対してまでそんな事をする必要なんて考えられないのだ。
「ま、それはともかくとしてだ。時間は少し前になるが、王都から北部に行くとエクランド大公領が存在するんだがそこがとうとう魔族に襲撃された。その数週間後にエクランド領のエースだったブロン・エクランドも死亡して戦力にガタが来ている。だからその傘下であるハウエルズが人材を集めようとしてあの話に繋がる、というわけだ」
「……貴族としてはその状況をどうにかしたいが故の暴走、か」
ギーザスが代弁するとクリスが頷く。
その様子を見ていたベイルはメルの方を見ると顔を青くしていた。その理由を知っているベイルは思わずつぶやく。
「エクランド、か」
「正直なところ、あそこは結構悪い噂は多いからな。あそこに人が行けば大体の領民は搾取されるだろうかな」
「どういうことだ?」
ベイルが尋ねるとクリスはため息を吐く。
「あそこの男兄弟の女癖の悪さは有名だからな。ブロンが死んでから精神異常を起こしている女が何人も見つかっているという話だ。だが権力が強すぎて強く言えないっていうのがな。しかも彼らはジーマノイドで活躍していた事もあってかなり自信があるそうだ」
「実際、ジーマノイドがあるから平民は逆らえないってのもあるしな。しかも軍に入隊しても今度は権力が邪魔をする。全く、面倒ったらないぜ」
「それに本来はベイルやギーザスの事もあるから説明をした後に全員を俺らクリフォードの傘下に入ってもらうつもりだったんだ。それをあの馬鹿が勝手に行動してこんな面倒な事になった。勘弁してくれ」
そこまで言ったクリスはある事に気付いてベイルに伝える。
「そうだベイル。ジーマノイドの貸し出しは早く申請しておけよ」
「……え? ジーマノイドは持ってるけど」
ベイルがそう言った時に2人は唖然とする。特にギーザスは信じられないという顔をした後に両肩を掴んだ。
「い、一体どうやって調達したんだよ!?」
「え? 普通にジーマノイドがあったからそれを利用して撃破して回収したけど?」
「……ギーザス。もうこいつに常識を求めるな。というか常識を求めちゃいけないんだ」
「あ、うん。そうだな。そうだよな」
2人は諦めて遠い眼をする。
この時ベイルは自重していたが、2人が帰った後にメルに声をかけるか。
「じゃあ、今日は一緒に寝るか?」
「え? 良いの!?」
「ああ。それくらいはな」
だがメルはその数分後に本当にただ寝るだけで「まぁわかってたわよ」と拗ねながら眠った。
校長室にて今回の事情を聞いた校長――ジョナサン・ホーグラウスは頭を抱えた。
本来ならばクリフォードが獲得しようとしていた者たちをハウエルズの人間が邪魔をして、挙句の果てに平民と決闘騒ぎとなっている。特に後半に関して理解ができない。
普通、平民ならば貴族に対して平伏するもの。だがこのベイルという存在はよりにも勢いが削がれているとはいえ実質エクランド大公家の部下の子どもに対するその発言。家族を潰されても文句は言えないだろう。
だが最近よくあるのだが、件の男は家族構成無し。孤児と思われるが入学費は完全に支払い済という。なんでも冒険者ランクがBランクになっているのでおそらくはそこで稼いだ金だとは思われるが、だとしてもあり得ないだろうと結論付ける。
ちなみに彼に関してはある男からの忠言があり、そこにはこう書かれていた。
『何か問題を起こした場合、ただちに死人が出ていないか確認する事。また、無理だと思うがシャロンには絶対に隠す事。仮に問題が起きてもこの少年は絶対に退学にしない事』
それを書いたのは自分の兄のウォーレンだが、ここまで書くとすれば一体何があるか。1つだけ思い当たる節があった。それはベイル・ヒドゥーブルという、シャロンの危機すら救った幼い英雄。
さらには王国の技術発展に大きく貢献した人間であり、貴族。この学園を卒業すれば新たな大公として台頭するのは間違いないとは言われていた男だ。そんな子どもだったがおよそ3年前に行方不明になり、断念という。
(なるほど。元は貴族だからその性根が抜けないというわけか)
ため息を吐くジョナサンは今朝の朝礼である指令を出しに行く。理由はともあれ調子に乗った平民に対して躾が必要だ、と。
その時、ドアがノックされる。ジョナサンが返事をすると2人に声をかける。
「実は君たちに話があるんだ」
昨日の騒ぎは瞬く間に広がっているようでベイルから距離を置く者が多かった。貴族からはゴミを見るような目で見て来るがベイル個人としてはどうでも良さげだった。
周りからの視線を諸共しないベイルは昼休みでメルと並んで食堂で昼飯を食べている。
「凄い胆力だな」
「それはお前らだろ。メルはともかくお前らは別に離れても良かったのに」
今日もベイルと一緒にいるギーザス、クリス、テリーの3人。普通に離れると思っていたベイルには意外だった。
「いや、お前から眼を離したら何をするのか予想できないからな。監視だ、監視」
「真剣に家の人間辺りと結婚させる必要も考えるほどだからな」
「……実はちょっと昨日の決闘騒ぎはスッキリしている」
テリーが最後にそう言った事で2人がテリーを見ると、テリーは身を縮ませる。
「ご、ごめん」
「ま、こっちだって急に人員が取られそうになっているんだ。流石に思うところはあるさ」
クリスも同意するように言うが、ギーザスは素直になれない。
「ま、でも正直なところギーザス的には良かったかもな。可能性としては冒険者に復帰するという道もあるんだろ?」
「まぁ、せっかくだしダンジョンにソロで挑戦してみたいっていうのはあるよ」
「凄いよね。たった2年の内にAランクなんてそう簡単になれるものじゃないよ」
「父親が名のある冒険者だったからその辺りに理解があってね。だから昔から鍛えられる事ができた……まぁ、どこかの誰かさんみたいな無茶なことはしていないけどさ」
そのどこかの誰かさんは食事を終えた後にメルとイチャイチャしている。その姿を見てテリーは彼女がいる事を羨ましく思っているが、クリスは別の事を考えていた。
「あー、そろそろ昼だぞ」
「あ、もうそんな時間か」
既にみんな食事は終えている。立ち上がってお盆を戻し、服を着替えてグラウンドに集まった。
この学園は昼からトレーニングを行う。それを専門にする部活に入っていなければ、ジーマノイドの操縦は秋ぐらいから。それまでは主に体力、戦闘技術の強化がメインとなる。そうじゃなければこの理不尽な暴力がありまくる現代を生き残れないからだ。特に冒険者を経験したものは絶対に言う。「もっと鍛えておくべきだ」と。
ベイルたちも時間内に到着すると整列する。チャイムが鳴ったかと思えば2人の教員が入ってきた。生徒の数は大体120人に対して教師は2人。男女1人なのはそれぞれに配慮しているからだろうか。
「さて、全員揃っているな」
ざっと確認した男がそう言うと、自己紹介せずに話を始める。
「今日は魔力の操作から始める。あそこの台に向けて1人ずつ魔法を飛ばして今の魔法力を確認しよう。これで今後の指標になるはずだ。それとベイル!」
「はい」
呼ばれたベイルは返事をすると教師が手招きをする。周りはてっきり暴れるかと思えば特にそんな事をせず、そのまま前に出て来た。
「お前は特別メニューだ。授業が終わるまでにこのグラウンドを100周しろ」
そう言われて全員が引いた。
このグラウンドは1周が5㎞ある。それが100周となればほとんどの人間は無理だろう。なにせ走行距離は500㎞となり1分間で8.4㎞は走らなければいけないぐらいだ。いくらなんでも無理なのだが、ベイルは何も空間に手を突っ込んで3m程の何かを出す。
「ん? 何だそれは?」
「ロードカウンター。事前に設定した距離と目標を登録。走者を登録する事も可能だし、面白いギミックもある。で、スタート地点はどこ?」
「ああ、ここだ」
指定された場所に設置してボタンを押したベイル。するとロードカウンターが周囲を検索して1周5kmの値を算出し終えた。
「おい。それは本当に正しいのか?」
「じゃあ走ればいいじゃん」
「何?」
「何を驚いてるんだよ。可視化されている情報が正しいかわからない、信用できないというのであれば自分で走ればいい。それくらい余裕だろ?」
ベイルの言葉に汗を流す男性教諭。ベイルは腕のブレスレットに触れて何かをする。女性教諭はそれを見て注意しようとしたが、むしろベイルが不利になると気付いて止めた。
「良いだろう。お前の主張を認めよう。では走ってこい」
そう言われてベイルは人体であり得ない速度で走り出した。一般的な人間で見れば全力疾走のような速度だ。それを見て別の場所にいた生徒の1人が呟く。
「まさか……」
「どうしたの?」
「いえ、なんでもありません」
その生徒は首を振ってあり得ないと思う。いや、思う事にした。
授業は再会されて魔法用の練習台に向けて魔法が発射される。それを見てギーザスがため息を吐く。
「どうしたんだよ」
「いや、正直魔法は自信が無くて……」
「私もまだ風魔法しかできないわ」
そんな自信の無さを吐露する2人。だがテリーはずっとベイルの方を見ていた。
「どうしたんだ、テリー」
「いや、凄いなって思って」
「どういうことだ?」
「ベイル君、ずっと重力魔法を操作しながらあのスピードで走っているんです。しかも自分のスピードを損ねないレベルで。あれだけの操作技術をあの歳で身に着けるなんてありえません。実質宮廷魔導士レベルですよ」
テリーが感動しながら言っていると、すぐ近くにさっきの男性教諭が話を聞いていたようだ。
「ちょっと待て。どういうことだ」
「あ……」
今気付いたテリーは慌てる。
「つまりあいつはズルをしているってことか? あぁ?」
「ち、違います! あの魔法は――」
「結局のところズルだろう! おいベイル!」
たまたま近くに来ていたベイルがスピードを落とそうとするがかなりスピードが上がっていたので止まるのに時間がかかった。
「どうしたんだよ?」
「お前、魔法を使っているんだってな」
「ああ、重力魔法を少々。これが意外とき――」
「今すぐ解除しろ」
そう言われてベイルは固まった。
「えっと、何で?」
「当然だ。魔法みたいなズル行為など認められるか」
「違うわ! 俺が使っているのは重力魔法はあくまで制限の――」
「良いか! 魔法は禁止だ!」
「だから俺の奴は制限の――」
「絶対に禁止だ! それを破ればお前を退学にする!」
そう言われてベイルはため息を吐いた。これ以上言っても埒が明かないと思ったのもあるが、ジーマノイドにまともに乗っていないのに退学というのは嫌だった。
「……わかったよ」
左手首についているアクセサリに触れて操作した後、そのアクセサリを消す。テリーから見ても女性教諭から見ても魔力特有の波動が無くなったのは確認済。そしてベイルが地面を蹴ると地面の一部が消し飛ぶと同時にベイルが吹っ飛んだ。そいのせいで距離を一気に稼ぐことになるのだが、それを魔法を使用したと判断したのか男性教諭は怒鳴る。
「このチート野郎が! いい加減にしろ! 魔法を使うなと言っただろうが!」
「使ってねえ!」
「だったら今のはなんだよ!」
「普通に走ろうとしたら力の加減を間違えたんだよ! ずっと重力魔法をかけて動きを制限していたからな!」
だがそれが実は普通の人間よりも強い程度にまで力を抑えていた。もっとも寝る時は流石に寝ているとはその制限はかけていない。ただ寝るだけだから問題ないというのもあるが、寝ている間にベッドがダメになるのは忍びないからだ。
「嘘を言うな! 全く、少しはやるかと思えば結局は詐欺師ということか」
「……は?」
「当然だろう。魔法があればあらゆる事が簡単になるしな。これだから魔法使いは――」
ぶつぶつと文句を言う男性教諭は生徒たちに続けるように言おうと近づくが、唐突に女性教諭は男性教諭を突き飛ばした。
「な、何をするんだ!?」
「ごめんなさい。ですが、生徒を守るのは教師の役目でしょう?」
そう言った女性教諭は周囲に自分ができる再硬のバリアを張る。
「きゅ、急に何をするんだ! これは問題だぞ!」
「生徒の身の安全を優先したまでです」
「な、何を馬鹿な事を――」
その時、その男性教諭は後ろから思いっきり殴られた。女性教諭が頑張って張ったバリアのおかげで男性教諭のダメージはすさまじいが、破壊される事は無かった。
「おいゴミ、お前仮にも貴族様の学校の教師だろ。何で魔法についてここまで理解が薄いんだ?」
「な、何を言う! それにいきなり教師を殴るとはどういう了け――」
ベイルはさらに男性教諭を裏拳でぶつけて吹き飛ばした。ここまでされて他の生徒たちは理解する。
「俺に言わせれば魔力を測るだけの的当てに何の意味なんて無いさ。むしろ強くなりたいって言うならダンジョンにでも突っ込んでやれば良い。そこで生き残った奴だけを選別すれば良いだけだろ? なのに何だ? ただの馬鹿が何をほざく」
「調子に乗ってんじゃ――」
瞬時に距離を詰めたベイルは男性教諭の懐に入りながら身体を捻ってスカイアッパーを放って打ち上げた。かなりの威力でもろに顔面に食らった男性教諭は空中に浮いているまま全く動けなくなった。そしてベイルが目の前に現れ、ただひたすらに一方的に何度も殴り続けた。
「確かに魔法は便利だ。極めれば初級魔法とて連弾を放てるし自由に空を飛ぶことができる。だけどな。それは相応の努力の果てに手に入れる力なんだよ」
ちなみにこの間にもベイルはただひたすら殴っており、既に男性教諭の肉体にベイルの攻撃を受ける程の体力は無い。なのにベイルは男性教諭を足場にしてさらに上昇する。その際に男性教諭は仰向けになったがベイルが調整していた。
「何も知らねえカスが、人の努力を否定するような事をほざいてんじゃねえッ!」
そう言い放ったベイルは重力で加速した蹴りをまともに食らい、グラウンドに叩きつけられた。クレーターが生み出されており、その惨状を見た誰もが思っただろう。あ、死んだ、と。そしてそれは正解だった。
そもそもベイルの必殺技を食らえば普通の人間は助からない。一部ガタイが良い上に日頃からその耐久訓練を行っている者は別かもしれないが、ギーザスが本気で死を覚悟する程の一撃を、重力も加わった垂直蹴りとしてまともに食らったのだ。普通は無事では済まない。
ベイルはAEDの様に電気ショックを与えて息を吹き返したところを、体力と傷や毒、麻痺などの弱体ダメージも治す2つの効果を持つことでそう呼ばれるデュアルポーションを突っ込んで回復させた後、クレーターを元に戻して女性教諭に瓶を5つほど渡す。
「死にそうだったら延命の為に渡してやって。久々に本気でトレーニングと言えるような事をさせてもらったお礼として」
「…………えっと」
「どうした?」
「次回からしばらく出席しなくていいです」
女性教諭からそんな事を言われてベイルは驚いた。
「あ……やっぱりマズかったですか?」
「まぁ、流石に。それもありますが相手は元Aランクの冒険者でベイル君は実力を示したわけですし、難易度が高い空間固定や重力操作を披露してみせたので問題なし、こちらでは教える事は無い、ということで。ジーマノイドの操縦開始時期になったらまた改めて連絡いたします」
そう言いながら女性教諭はバインダーに挟まれている紙に書かれたリストの、ベイルの名前の欄に「S」と書いてベイルに見せた。
「えっと、良いの?」
「元々嫌がらせであなたにあんなことをさせていましたからね」
「……え? 嫌がらせ?」
ベイルは本気で驚いていた。
「ええ。何でもあなたのダラしないところを見せたら良い事があるとか、なんとか」
そう言われてベイルは少し考えて納得した。
「下らない。そんなに実力が知りたいなら直接戦えば早いのに」
「……あと、個人的にスッキリしました。正直魔法使いがチートだズルだってうるさかったんですよ」
「わかる。大体、こっちだって美少女を怪我させかけたから全力で操作方法覚えたっていうのに」
ため息を吐くベイルを見て女性教諭は好感を持つ。
「じゃあジーマノイド触る時に連絡よろしく。それと先生――その程度の魔力量で俺は倒せないから」
耳打ちしたベイルは女性教諭から一度離れた後、笑みを浮かべてからメルの方に何かを仕込んでから空を飛び、どこかに向かう。
その様子を見ていたアメリア・バルバッサは唖然としていた。
「ど、どうしました?」
取り巻きの1人が声をかけると、アメリアが頭を抱える。
「だ、大丈夫。慣れない光景に理解が追い付いていないだけです」
そう答えたアメリアだが内心気が気じゃない。というか何故今まで彼の存在が話題にならなかったのかわからなかった。ベイルと聞けば彼女もまた食いつきそうなのだが、その辺りの事は連絡が入っていない。
(ギーザスは知っているみたいだけど、私が引退するまでは姿も知らない。彼が知っているという事は私たちが引退した後に来たのかもしれないけど、だとしたらカリンから情報が入っていてもおかしくはないはず? ……いや、でもカリンなら、シャロン殿下に近い私に情報が行くように事はしないし、知らない間に距離を縮めている可能性もある。というか、絶対にそうする)
記憶を失う前のベイルはカリンの事は気にしていたが、悪評が広まってはいけないと思ってカリンとは距離を取っていた。兄のグレン曰く「カリンの事は気に入っている」とはいえ、だからこそとも言っていた。だがそれでもベイルはカリンと一緒に寝なかったし気付いても別の場所に移動していたのだ。
(いえ、だからこそ、ね)
ずっとシャロンのところにいたからカリンは姉である自分に伝えずずっと一緒にいることを選んだ。なるほど、と。
アメリアは一度思考をリセットする。そして今するべきこと――ギーザスを見て睨んだ。もっともそれは別の意味と勘違いされる事になるのだが、それはまた別の話。
初日の授業が終わり、先程の女性教諭は校長室に訪れる。そこには静かでありながら殺気を向ける自分の上司がいた。
「まぁ、座りたまえ」
そう言われて女性教諭は断りを入れて着席。目の前に校長のジョナサンも座ると早速本題に入った。
「さて、今日の成果だが早速入院者を出すとは思わなかったよ。そして君は彼に対してなんとジーマノイドの操縦するまでは来なくて良いと言ったそうではないか」
「……ええ。確かに彼にそう伝えました」
「まさか君が裏切る事になるとは思わなかったが――」
ジョナサンの言葉を遮った女性教諭は言った。
「無理です」
「どういうことかな?」
「校長は本来あるべき事の為に平民として扱われている彼に対して平民らしさを求めているかもしれませんが、無理です。また、彼の魔法の扱いは既に上級どころか欲望があればこの国の秩序そのものが崩壊するほどです。おそらく校長先生、あなたでも無理かと」
そう断言した女性教諭に対して怒りを露わにする。
「では何故、あなたは彼を授業から追い出したんです?」
「……私は教師として正しい選択をしたつもりです。というか――」
一度ため息を吐いた女性教諭。そして気まずそうな顔をして堂々と言った。
「彼のような化け物に憧れてもし他の生徒が真似したら間違いなく死人が出ますよ。今回見た限り、ちゃんと話をするだけならできるのですから放置する方が安定です。それに他の授業はしっかり聞いているのでしょう?」
「それはまぁ、そうですが……」
「でしたら様子を見ましょう。幸い、彼に対してちゃんと向き合ってくれる友人もいるようですし」
決してそれで更生ができるとは思えないが、とりあえずは様子見しようと説得する。
「はぁ……そうですか。あなたの言う事はわかりました。とりあえずはそうしましょう。では、行っていいですよ」
ジョナサンがそう言った事もあり、女性教諭は立ち上がり、挨拶をした後に部屋の外に出る。しかしジョナサンはその女性教諭を始末しようと魔法陣が書かれた紙を出して魔力を注ごうとした時、
――バンッ!!
どこからか何かの音が聞こえる。振り向いた後に音がした後ろを見るがそこには何もない。
(……気のせいか)
ジョナサンが振り向いて気を取り直して魔力を注ごうとした。しかし魔法陣が書かれた紙は燃えていた。
その頃、女性教諭の肩から音もなく人知れず、機能を停止させられた使い魔が落ちて消滅した。近くには人の形をした影があったがどこかに消える。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
いつもお読みいただき、また応援ありがとうございます。
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これでベイル君は放課後自由になりました。というか、あんな異次元戦闘方法が普通扱いされたらそれこそ人類は自然に消滅しそうなんだけどなぁ。
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