#26 究極すぎる問題児

 あれから4か月が経過した。

 ベイルは今、準備された少し大き目の制服を着て学園の正門前に立っている。

 今ベイルの他にギーザスとメルもいるが全員が紺色のブレザーに黒いズボン。靴に関してはビジネスシューズを着用しているがベイルのものは見た目がそうというだけで実際はがちがちの戦闘用だ。


「如何にも成金趣味って感じだな」

「お前は他に感想は無いのか」


 隣でギーザスが突っ込みを入れるのをベイルは甘んじて受ける。ギーザスが手加減しているのかどうか判別できたが故の行為だ。

 そう、ベイルたちは学園に入学する事に決まった。もちろん入学に試験は無しであり、ステータスは実際の授業で測るようだ。


「あとは私はちゃんとベイル君と同室になっているか、ですね」

「いや、基本的に男女別の寮だからな?」

「そんな⁉」

「何で驚いてるんだよ。普通はそうだから」


 ため息を吐くギーザス。彼は前日にシルヴィアから「疲労感で倒れるかもしれないけど、頑張れ」と言われた意味を理解した。両方自分の欲望に正直だから自分がどうにかしないといけないと思った時だった。


「――久しぶりだな、ベイル」


 ベイルの後ろから声を掛けられる。ベイルとメル、それにギーザスが振り向くとそこには茶髪のセミロングな爽やか系のイケメンが立っている。その隣に眼鏡をかけた地味系の男子もいるが、ベイルは覚えがないようだ。

 ちなみに彼らは白いブレザーを着用しているが、実はこの学園は白ブレザーを貴族、紺ブレザーを平民と分けていた。これは貴族側の要望で貴族と平民を分ける為、らしい。ウォーレンも渋々合意してこういう風になっていた。そしてベイルはその白ブレザーを見て「汚れとか気にならないのだろうか」という感想を抱く。


「知り合い?」


 そうギーザスに聞くベイル。イケメンは驚いたような顔をしているがギーザスは首を振る。


(……ああ、こいつは……)


 ベイルはおそらく交友関係が本人は知らない内に築いていたのかもしれない。そう考えるとギーザスは頭を抱える。


「ちょっと待ってろ。お前らここから動くなよ」


 ギーザスはベイルとメルにそう伝えると2人組に近付いて声をかける。


「あー、もしかしてベイルの知り合いでしょうか?」


 ベイルは元々貴族出身。もっと言えば貴族出身でありながらあそこまで平民生活に馴染みとんでも行為を繰り返しているのだ。そう考えるとギーザスは頭痛薬が欲しくなった。


「誰だお前」

「私はAランクの冒険者のギーザスです。言わばアレの保護者です」


 その言葉に色々と察したそのイケメンはギーザスに耳打ちをする。


「俺はクリス・クリフォード。まぁ、言わばアイツの親戚でな。陛下にアレの面倒を見るように言われてる。一応陛下からは平民からもフォロー要員が派遣される事は決まっていると話はあったが、もしかしてお前か?」

「ええ、おそらくは」

「……そうか。苦労をかけるな」


 本気で同情するクリス。隣にいる少年らしい男もどこか同情的な視線を向けた。


「まぁ、あの家の人間は基本的に破天荒だがその中でもアレは特別中の特別でな。まぁ、もう1人もいるが――」

「もしかしてシルヴィア嬢ですか? 彼女もベイルに比べれたら可愛いものですよ」

「……あー、うん。そうだな」


 遠い眼をしてどこかを見るクリスその隣にいる小さな男も自己紹介をする。


「初めまして。僕はテリー・コンラッド。一応子爵家の令息です」

「は、初めまして。自分は――」

「自己紹介は不要です、ギーザス。あと敬語も不要ですよ。僕はこういう話し方の方が楽なのでこのまま行かせてもらいますが、あなたはあなたらしく話をすれば良い。クリスもこう言っていますが今では色々あって私とは友人のように接してくれるので」

「そ、そうなのですか?」

「ああ。それにどうせベイルの事だから敬語とか知らないだろうしな。ギーザス、お前も慣れている話し方にしてくれ。それにAランクって冒険者の中でもかなり強いんだろ?」

「ええ……あ、うん。まぁね」


 かなりどころか実質最高クラスです。そう言った時にはこの友人関係を潰してしまいそうになると思ったのでギーザスは自重した。

 3人はベイルの所に移動すると、ベイルは3人を見て思った。


「あれ? もう友だちできたの?」

「いや、お前が記憶を失う前の知り合いだ」

「……すまん。実のところテリーは最近貴族になったばかりなんだ。実質面識があるのは俺だけでな」

「そ、そうなんだ」


 そんな2人のやり取りを見てベイルはため息を吐く。


「なんていうか、歪だよなぁ」

「安心しろ。お前以上に歪な奴はいない。しかもその子誰だよ。あ、まさかお前の彼女?」

「……はい?」


 メルの額に筋が浮かぶ。嫌な予感がしたギーザスは止めようとしたが、それよりも先に言った。


「いや、別に彼女とかじゃねえよ。言うなれば弟子?」

「役立たずならお仕置きされる展開を望みます!」

「それは絶対に回避するから大丈夫」


 そう宣言するベイル。それだけ見ればベイルに対して同情心も湧くのだが、普段の行動がその同情心を遮る。


「ともかく中に入ろうぜ。そろそろ入学式が始まってしまう」


 クリスの先導でベイルたちは集会場の方に向かう。その道中、耳が良いベイルは何か音が聞こえた。


(……まぁ、良いか)


 ベイルは何故かそれが修羅場の予感がしたので大人しく同行する。




 入学式が終わった後、ベイルたちはそのままオリエンテーションというもののために教室に移動。その最中、美人でカッコいい生徒会長の話題が多かった。

 だがベイルはどこか違和感を持っていた。


「うーん」

「どうしたんですか、ベイルさん」


 たまたま隣を歩いているテリーが尋ねるとベイルは唸る。


「いや、さっきから生徒会長を見ていたら違和感があって」

「そうですか? ですが最近のシャロン殿下は美貌も上がり一部の男子生徒からの告白が絶えないらしいですよ?」

「そうなんだ。じゃあ疲れているのってそれもあるのか?」

「どういうことです?」

「さっき話がクソ長いなって思いながらとりあえず美人と評判の生徒会長を見ていたんだけど、顔色を誤魔化しているだけで辛そうにしていたんだよね」

「へぇ……」


 興味深そうにベイルを見るテリー。彼の髪色は黒というよりもこげ茶色に近いが敢えてかわからないが前髪で視線を遮っている。ベイルはそれを敢えてしているのか測りかねていた。


「どうしたの?」

「いえ。よく見えたなぁって」

「俺の特殊能力なのか知らないのか、やろうと思えば遠くを見ようと思えば見れるんだよ。流石に千里眼クラスは無いけど視界に入る映像ぐらいなら拡大できるって感じかな。ま、使いどころ間違えれば致命傷だけど」

「――それ、本当?」


 急に声をかけられた2人は振り向くと、そこにはベイルが驚く程の美人がいた。彼女は白いブレザーを着用しており、一目見れば貴族だと理解できるのだがベイルは突然美人に話しかけられた事に少しテンションが上がっていた。


「ねぇ、今の話は本当?」

「え、うん。そろそろヤバいんじゃないかなって思ってる」


 改めてベイルはさっきの生徒会長の顔色を思い出していた。


「そう。ありがとう。参考にさせてもらうわ」


 美人はそのまま踵を返してどこかに行く。颯爽と去って行ったのをカッコいいと思いながらも既視感もあり妙だなと思っていると、隣にいたテリーが驚いていた。


「どうしたの?」

「……さっきの人、誰かわかってます?」

「いや、それが全く。というか正直驚いてる」

「私はあなたの所業に驚いていますけどね! あの人、王太子殿下の婚約者でバルバッサ公爵令嬢のアメリア・バルバッサさんですよ。よく普通に話ができますよね」

「へぇ。そうなんだ」


 と言った後でベイルはふと、思い出した。ああ、既視感はあの子からか、と。

 ちなみにベイルが思い出したのはカリンであり、向こうも綺麗な金髪であっちも金髪だと思った後に深呼吸をした後に一瞬意識が飛んだ。


「あの、大丈夫ですか。凄く幸せそうな顔をしていましたけど」

「いやぁ、美人は目の保養になるなぁって思って」

「そんな事を考えればいずれ面倒な事になりますよ。大体、美人ならばあなたの彼女もそうじゃないですか。そうやってべったりされている時点でこちらとしても羨ましいんですが」

「…………あ、うん」


 ベイルは思わず目を逸らす。テリーは少し詮索したくなったがこれ以上はと思って自重する。

 教室の中では白服と紺服は基本的に別れて座っている。混成座っているのはベイルたちぐらいのものだ。

 教師ですらオリエンテーション中に訝し気に見ているぐらいなのだが、ベイルたちは気にしていない。何故なら彼らはたった1つの目的で行動しているからだ。それは――ベイルを暴走させないという目的だ。


 オリエンテーションが終わり、ベイルは授業を決めていく。


「ベイル、お前は何を選ぶんだ?」


 基本的に放課後は同じことにしようと考えていたクリスはベイルにそう聞くと既に決めているベイルは意気揚々と紙を見せた。

 この学園では放課後にそれぞれ専門の勉強が行われる。ベイルは当然ジーマノイドが選択されていた。他の候補も同じ授業。候補の意味が全くない。


「なるほど。じゃあ私はベイル君と同じにしますね」

「ストップ」


 メルの手を止めたベイル。


「お前はお前がしたい事をすれば良いさ。わざわざ俺と合わせる必要無いし、そもそも戦いたくない」

「でも……」

「あと俺って戦う時に人は変わるし――」

「それは今更よ」


 そう言われてベイルは顔を引き攣らせる。


「それに、私はベイル君の専属なんだからベイル君以外と別のコースに行くつもりは無いの」

「…………ん?」

「お風呂も寝る時も一緒だからね?」

「それは流石にマズくない?」

「大丈夫。将来の夢はベイル君のめ――」


 ベイルは慌てて口を塞いだ。そんな様子を見てクリスはギーザスに尋ねる。


「……もしかしてあの子ってかなり病んでる?」

「あー……少なくとも将来の夢はベイルのお嫁さんってことぐらいは。でもその割にはカリン嬢がベイルに近付いても同類を見る目で見ていたんだよな」


 ギーザスの言葉にクリスは心当たりがあった。それはシャロンだ。

 ベイルを絡んだ時のシャロンは積極的でベイルの功績を考えてあらゆる令嬢を自分と一緒に自分の男に差し出そうとするほどの狂気を見せた事がある。もっとも第一夫人は譲るつもりは無いらしいが。

 ちなみにその計画は相手が断固拒否したので無くなったとは聞いていた。


(というかベイルって、普通に女難だよな……)


 弟すら王位の為に殺そうとする王女に学生になってベイルと寝ようとするヤンデレ気味の巨乳。そんな2人を比べながら大して変わらない事に気付き、ため息を吐く。


「まぁ、とりあえず先に寮に向かおうぜ。ここで話し合ってても埒開かないし」


 クリスの提案にベイルたちは寮へと向かう。初日は入学式とオリエンテーションぐらいで終了。明日からは本格的に授業、放課後はクラブ活動が始まる。

 クラブとはその名の通り様々な目的で会合を行う。実の所強制ではないので別に所属する義務もない。事実平民は通いながら金を稼ぐために冒険者として活動したり、または近くの店でバイトに精を出したりと若い内に行動をすることが多い。そしてベイルもまたその事には一切興味は無い。だからその間にメルを鍛えるなり以前に拾ったガラクタで何かを作るつもりだった。

 5人が寮の方へ移動すると豪華絢爛という言葉が似合いそうな寮の隣にそこそこ大きな建物だが質素という言葉が似合う造りをしている。貴族用の寮は1棟だが平民用は同じ造りが5棟もあるが、張り出されている部屋割りを見てギーザスは愕然とする。


「もしかして、男女別じゃないの?」

「……魔族が攻めてきた時に人口が減ったからむしろ子作りは推奨されているのかもしれない」


 ギーザスが泣きそうになっているのを見てクリスがそう補足する。ベイルもまさかこんな事態になっているとは知らずに思わずクリスに尋ねた。


「そんなに酷かったのか?」

「まぁな。当時はある機体が開発されて間もない頃でさ。ろくに準備ができていない状態で各所に同時に強襲されたぐらいなんだよ。俺たちのところはいざという時の為に技術発展に余念が無いし、テリーの親父さんが当時はその辺りに明るくて助かった部分もあったからなんとか領民や俺たち子どもを連れて逃げ出せたけど、領民を助けずに逃げて来たところとかは取り潰しになったらしい。まぁ、それもあって貴族不足だからこそ今ではこうして敢えて確執を作り、競争心を煽っているとか」

「最近はありませんが、ヒドゥーブル家のように単身でダンジョン攻略したり、戦績を残したりして貴族になったりという手法もありますし」

「……そんなに貴族になりたいかな。なったら領民の命を犠牲にしたりとかしないといけないし、場合によっては足手纏いの為に先陣を切らないといけないだろうし。それはそれで憧れは起るのかもしれないけど結局は実力が伴ってできる事だしさ。正直、俺には理解できない」


 ベイルがそう溢すがそれに関しては実はギーザスはなんとなくわかる気がした。

 ギーザスも冒険者。彼もAランクになるまで様々な経験をしてきた。自分勝手な奴とか若造と侮り命令を聞かない奴とか。そういう点ではまだベイルはまだマシな部類に入る。

 そもそもギーザスにとって背中を任せらえる奴は少ない。ベイルもどちらかというとその部類には入らないが、実力に関しては信用できる。というか、不意打ちとは言え本気で殺そうとして本気で死を覚悟させる相手とかそういない。それが同い年とかシャレになっていない。媚びを売る気は無いが可能な限り敵対は避けたいところだ。


「しかも兄弟同士で当主の座を争うとか普通にあるんだろ? 逆に凄いわ」


 それを聞いたクリスは思った。そう考えるとヒドゥーブル家は異常が過ぎると。

 というのもフェルマンは本当のところ当主なんてしたくない。嫁が好きすぎて当主になった事だけは後悔していたが、その本領を発揮する事になればジーマノイドすら生身で斬り落とす活躍を見せた。それが今、とんでもない事になっているのもクリスは知っているが口に出さない。


「と、ともかくそれぞれの部屋に行こう。今後の事とかあるが、とりあえずは荷解きとかあるだろうしな」

「「今後のこと?」」


 ベイルとメルがそう聞き返すのでテリーが答えた。


「ええ。少し後に分かるでしょうが、この学園では少々厄介なことがありましてね」

「ふーん…………あ、もしかして平民限定各寮対抗ジーマノイドバトルロワイアルとか?」

「そんなものねえよ!」

「えぇ……俺、ジーマノイドに乗りに来たと言っても過言じゃないのに」

「「勉強しろよ!!」


 ギーザスとクリスの2人に突っ込まれたベイルはうんざりとする。




 その夜、ベイルは荷物を置いた後にメルとギーザスと共に食事を済ませた後に自室に戻った。


「結局あの2人は来なかったな」


 ベイルがそう溢す。ギーザスは思わずニヤッと笑った。


「何だ? 初めて会った奴に心開いたのかよ?」

「そういうわけじゃないさ。ただクリスの奴を鍛えたら結構強くなりそうだし。あと個人的にテリーが何か持ってそうなんだよな」

「あ、そう」


 なんとも言えない顔をするギーザス。

 そんな風に男2人の会話をニコニコと見ているメル。ベイルが友だちと話をしているのを見て微笑ましく思っていたのだが、白いブレザーを着用している一団がこちらに来ているのを見てベイルの後ろに隠れた。


「どうした?」

「……あの人たちなんですが」

「……? 何で貴族がこっちに来ているんだ?」


 ギーザスも何も知らないのかその一団を訝し気に見ている。ベイルはメルを抱えてギーザスと目配せして少し駆け足で移動して部屋に戻る。

 その間に一団は部下が用意した祭壇のようなものを準備し、1人の男がそれに登る。


『聞け! 平民共!』


 拡声魔法を使っているのか周囲に声が響く。突然の物言いに全員が驚いて窓の外を見た。


『今日からお前たち平民はこのジャック・ハウエルズが仕切る事になった!』


 突然の宣言に全員が目を丸くする。ギーザスは慌ててベイルを見るが、ベイルは既に戦闘態勢に入っていたのでとりあえず止めた。


「落ち着け。ここで暴れても意味が無いって!」

「…………」

『そこの平民共! 何か意見でもあるかぁッ!』


 白制服の者たちがベイルとギーザスを見る。ギーザスが先に何かを言おうとする前に割って入る。


「何をしている、ハウエルズ!」


 その声の主はクリスだった。


「臆病者のクリフォードが、一体何の用だ?」

「それはこっちのセリフだ。そもそもこの集会は夜のオリエンテーションが終わった後だという話になっているはずだが」


 クリスとテリーも来たのでベイルとギーザスもその台の方に移動をする。


「そんなのはそっちの都合だろう。今年の新入生はこちらがもらうとする」

「そしてそれもこっちが貰う事になっていただろ。何を急に話を変えているんだ」


 言い争いを始める前にギーザスはテリーに声をかけた。


「テリー、これは一体どういうことだ?」

「その件ですが……そうですね。簡単に説明を――」

「――その必要は無いわ」


 ジャック側の女がテリーを睨む。テリーはその視線に怯んでいるが今度はその女が怯む番だった。何故なら、ベイルが割って入り女に対して殺気を飛ばしたからだ。

 女が怯むとガタガタ震え始めるのでギーザスが突っ込む。


「何をしているんだよ」

「え? これ睨めっこじゃないの?」

「何でそんな発想に至るんだよ、お前は」

「なんとなく? で……えっと、ジャバウォックだっけ?」

「ジャック・ハウエルズだ! お前、俺が誰だかわからねえのか?」

「何故俺が、たかが雑魚に対して興味を抱かないといけないんだ?」


 その発言にギーザスは戦慄した。相手は侯爵家であり、本来ならば平民が口を利く事も許されない存在だ。そんな人間相手にベイルは「雑魚」と言い放った。


「この2人の様に何か見どころがあるわけでもない。ギーザスのように結果を残したわけでもない。いきなり現れて何の説明も無しに俺たちを下っ端扱いするような奴にヘイコラする趣味は無いわけ。お分かり?」

「ちょっ、何を言っているんだお前⁉ クリスとテリーに仲良くしてもらっている俺が言うのもなんだけど、相手は貴族だぞ!?」

「落ち着けよ。高が貴族ってだけじゃないか。しかも何の説明も無しに従えとかろくに説明する気もない所を見るに完全に平民を自分たちの欲を満たす為に動いているだろ?」


 ジャックの取り巻きの1人がベイルに対して抜剣。ベイルを殺そうとした。ベイルの侮辱罪に当たるその言動だからこその行動だろう。だが相手が悪すぎた。

 振り下ろされたその剣はベイルに当たる前に吹き飛ばされた。その事に驚いた取り巻きだが、その隙にベイルは相手の顔を蹴り飛ばす。


「……ほう」


 ギーザスもクリスも、テリーですら唖然とする中ジャックは笑みを浮かべる。


「なるほど。その生意気な口はその為か。良いだろう。お前は特別枠として俺の側近にしてやる」


 ジャックはそう言うが当のベイルはそんな事を了承するわけが無かった。むしろため息を吐いて言い捨てる。


「頼み方がなってねえぞ雑魚。お前が平伏せ」


 全員が、固まった。流石のジャックですらベイルの言葉が理解できずに聞き返す。


「い、今……なんと言った?」

「だから、頼み方がなってない。平伏せって言ったんだよ。当然だろう? お前みたいな雑魚に付き従ってやるんだから、平伏して願い請うべきだろう」


 あまりの発言に話を聞いていた者たちは流石にベイルの常識を疑った。ただメルだけは「まぁ、当然ですよね」と思う。


「……お前は、自分が何を、誰に対して言っているのかわかっているのか?」

「逆に聞くけど、お前如きが俺を御しれると本気で思ったのか? むしろ困るんだよな。何の魅力も無いし粋がるのだけは一人前なの。むしろ思考を整えて出直して来い」


 そこまで言う必要があるのか? というかそこまで言うのか、この男は。

 そんな思考がぐるぐる回るギーザス。その思考は先程テリーを睨んでいた女だった。


「いい加減にしなさい! 平民の分際で――」


 おそらく彼女は貴族で、平民に対して平伏するなどあり得ない。むしろ平民が貴族である自分たちを称えるものだという思考にまみれていたのだろう。実際、そんな思考があったのかもしれない。だがあまりにも場が悪かった。

 ベイルは突然その女の顔を殴り飛ばした。軽く2階ほどの高さまで吹き飛んだ女はギーザスに受け止められた。


「ちょ、ベイル⁉ なにやってんだお前! 相手は女の子だぞ?!」

「興味ないよ。別に相手が女だなんだって関係無いし、そもそもそれが何?」

「べ……ベイル……?」


 流石にギーザスもその思考は追い付けなかった。


「男だろうが女だろうが、そもそも性別なんて関係無い。確かに俺は女は好きだけど敵対する奴らに対してまで慈悲をかけるほどお人よしじゃない。むしろギーザスは助けたつもりだけど、アレくらいの高さなら受け身を取るよ。それで死んだらこれまで自分が貴族だからと、女だからと努力を怠ったせいだし」

「……べ、ベイル」

「なるほど。よくわかった」


 ため息を吐いたジャックはベイルに対して手袋を投げつけるのをベイルは受け止めた。本当は拾わせるつもりだったのだが、まさか受け止められるとは思っていなかったジャックは少し動揺する。


「決闘だ、平民! 貴様の歪んだ思考を破壊してやろう!」


 そう宣言したジャックはそのまま立ち去ろうとするが、ベイルが呼び止めた。


「待てよ」

「何だ?」


 手袋を返したベイルは受け取ったのを確認して堂々と言った。


「邪魔だから返す」

「何だ? 逃げるのか?」

「いや、別にそんな防御力を考えていないクソグローブなんて要らないんだが。で、どこ行くの?」

「……何?」


 言われた事が理解できなかったジャックは聞き返すが、ベイルは馬鹿にするように言った。


「決闘するんでしょ? だったらやろうよ、今すぐに」


 ジャックも周りも唖然とする。


「な、何を言って――」

「まさか挑んでおいて逃げる、なんて言わないよね」

「何を言う。こちらの準備ができていない――」

「いや、準備って何さ。こっちは準備できてるけど? え? 逆に聞くけど準備できてないの? その癖に決闘挑んだの? あり得ないだろ」


 それを聞いた全員も訳が分からなかった。まさかこの状況で平民が貴族と決闘をすることが決まるのもそうだが、まさか平民側から今から決闘をしようと誘い、挙句に準備ができていない貴族をけなすとは思わなかったのだ。


「ふざけるなよ貴様! 貴族の決闘にも礼儀というものが――」

「……なんだよ、つまらない。すぐ戦えるわけじゃないのか」


 あからさまにやる気を無くすベイル。そんな舐めた態度に完全に苛立ったジャックは魔法陣を展開した。


「アースショット!」


 飛んできたアースショットをベイルは食らうのではなく身体を捻りながらキャッチしてそのままアンダースローで返す。


「アースショットを返した、だと?」

「とりあえず今のは出会い頭の牽制だとして受け取っておくよ。あ、場所の確保と日時指定よろしく。怖かったら人をたくさん連れて来て良いよ」


 そう伝えながら寮に戻るベイルの後を追うギーザス。今の彼はベイルを全力でぶん殴りたかったが、その隣にクリスもやってきてベイルに声をかけた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

いつもお読みいただき、また応援ありがとうございます。

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そして最後に一言。こんな平民、嫌すぎる!!

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