第2章 その悪性、葬り潰すは人外無法

#21 捨てられた少女

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近況ノートで報告した通り、とりあえず話数分の書き溜めはできたので定期的に更新しきます。

一応、ロボット要素は多くなったかと思われます。不幸分も増えましたけど

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 ベイルがいなくなって3年が経過した。

 その間に魔族は元ブルーミング共和国に拠点として残った4国の連携を分断するように領土を広げた。それ故に人間同士の分断を妨げる為だ。そんな魔族の領土に2つの筋が見える。


「何だ、あれは?」

「どこの機体だ?」


 見た事が無いタイプのものが上空を飛行している。魔族の方では今上空を浮かんでいる機体のように鳥のような機体はない。

 その機体は真っすぐと魔族の領土では無く人間の領土、王国の方へと――具体的にはその北部で現在第一目標であるエクランド大公領に向かっていた。

 状況はすぐさま報告され、味方の機体が魔族の基地からジーマノイドが2機出撃。飛行船のようなものに四つん這いに近い状態に乗っていた。


「そこの所属不明機、一体どこの機体だ! すぐに所属とIDを言え!」


 しかしその機体の持ち主は応答しない。むしろ速度を上げてやり過ごそうとする始末だ。

 だから彼らは最後に伝える。


『今すぐ答えろ。返答が無い場合は撃ち落とす』

『……1つ聞きたい。このまま進めば戦闘区域に入るようだが、どことどこが戦闘をしている?』

『何? どういうことだ?』

『生憎俺が知っているのは、ここから先で人間と亜人が下らない喧嘩をしているという事しか知らなくてね』

「下らないだと! ふざけるな!」

『もう良い、その言葉だけで十分だ! 落ちろ!』


 攻撃を開始する魔族たち。しかし向こうはいとも容易く回避してそのままスピードを上げて突っ込む。


『ならばついて来ると良い。その先でお前たちもまとめて狩らせてもらう』


 エクランド大公領に差し掛かると同時にその機体は人型へと変形した。両腕にライフルのような武装を持っており、それで次々とジーマノイドを無効化していく。

 エクランド大公側はほとんど壊滅状態。何体かが既に街に入り込んでおり、人間たちが避難をしている。魔族側の中にはその人間も狙っている者もいたが、その敵に対して何かを飛ばして武装を破壊した。


『な、何だ!?』


 死角からの攻撃に焦る魔族。その時、先程の2機が現れて所属不明機に対して攻撃を仕掛けた。だが所属不明機は攻撃を回避し、上昇してその機体を蹴り飛ばすと飛行ユニットが突然闇に呑まれて消えた。

 そんな不可思議な状況に疑問を抱きながらも今は着陸しようとする魔族の兵士。その間にも所属不明機は別の機体を攻撃する。


『どこの誰とも名乗らない奴が!』


 所属不明機が攻撃を回避した事で射線上にいた別の魔族側の機体に直撃。フレンドリーファイアをした事で動揺するが、所属不明機は構わず機体から飛行ユニットを分離させた。


『お前のせいだ……お前のせいでぇえええええッ!!』


 エネルギーソードを抜いて所属不明機に機体が接近。しかし牽制もクソもない、ただの突貫に逆に接近した所属不明機は機体を大きく揺らし、コックピットハッチを無理矢理開けて中身をシートごと出して飛行ユニットと同じように闇に呑まれていった。

 そんな状況になり、魔族側は所属不明機を狙い始める。所属不明機は逃げようとせずに次々と武装を破壊して無力化していった。しかも機体は機能不全を起こし操作を受け付けなるというおまけつきだ。

 魔族たちは機体を放棄の為に自爆装置を作動し、離脱。だが機体は爆発しようとせず、すべて闇に呑まれていった。


「一体、どうなっているんだ?」


 そんな疑問を漏らす事になりつつ所属不明機を警戒していたが、所属不明機に向けて一筋の光が放たれる。それをエネルギーソードで切り払って弾いた所属不明機。頭部ユニットの青色のツインアイが乱入者を確認した。


『こちらシュトム・バットス。援護する』


 灰色の機体が現れ、離脱した魔族たちが盛り上がった。


「で、出た! シュトム少佐のヘラクレス!」

「我ら魔王軍のシンボル!」

「というか、もう敵の大将を討ち取ったというのか!?」


 周りは騒ぎ始めるのでシュトムは鬱陶しく思った。その間にもシュトムの機体――ヘラクレスは所属不明機に攻撃を接近。その間にこれまで弓だった主武装が大剣に変形。それを見て所属不明機も大剣を召喚して迎撃した。


『その剣、まさか――』


 最後まで言う前に剣を滑らせて接近。相手の攻撃をいなした所属不明機は接近してその場で回転して斬りつける。同時に背後から高速で接近する黒い物体に気付いたシュトムは後退した。


『まさか、お前は――』


 物体が所属不明機の周囲を飛ぶ。自在に飛ぶその姿を見てシュトムはさらに警戒した。すると所属不明機も後退した。


『ま、待て!』


 飛行形態に変形する所属不明機。シュトムはすぐさま近くの基地に要請を出そうとするが、一瞬で姿を消した事で中断する。


『……まぁいい。使える機体は……』


 自軍の反応を追うが、今この場でいる機体は自分しかいない事に気付いたシュトム。その状況にシュトムはため息を溢した。




 エクランド大公領から少し離れた場所の砦。そこには近隣の村はもちろん、エクランド邸周辺から逃げて来た者たちで溢れかえっていた。


(まさか……まさかこんな事になるとは……)


 エクランド家の当主であるオービスは小太りで茶髪の男である。そんな彼が悔しそうにロビーで待っていると部下を引き連れた男性が現れる。


「お……おお! これはサイラス殿下! まさかこのような場所でお会いできるとは……」

「オービス公、話は聞いている。しかし驚いたな。まさか貴行の所がこうも簡単に崩壊するとは」

「……私の不徳の致すところです。弟を犠牲にしてようやく逃げ出せました」


 オービスの言葉にサイラスは内心ため息を吐く。だがオービスはまだ言い終えていないのかある言葉を出した。


「それと1件、報告があります」

「何だ?」

「弟が、ブロンが残した言葉にこうありました。"斧剣"が現れた、と」


 その言葉に砦中に動揺が走る。

 "斧剣"とは、今王国はもちろん他3国でも話題になっている魔族側のネームドであり、捕虜から聞いた話では魔王直下の魔族が指揮する部隊。その脅威はすさまじく、他3国では既に被害が出ていた。


(とうとう、ここにも現れたということか)


 魔族はかなり慎重だった。元ブルーミング共和国を滅ぼしてからは他4国の分断の為に各国の関所を占拠。気付いた時には既に遅く自分たちは後手に回っていた。だからこそ王国は国力の強化を図り始めていた。


(やはり、後手に回り過ぎているな)


 現状、王国は魔族によって完全に包囲されている状態で、ある一族を中心に個々の指揮が高いからこそ生き延びている状態だ。実際魔族側も元共和国の統治がメインなのか本腰を入れては来なかった。

 どこか油断があったのは確かだが突然すぎて付いていけていない。サイラスはただ頭を抱える。


「父上に現状を報告するとしよう。場合によってはここも落ちてしまうだろうな」

「……申し訳ございません」

「気にするな、とは言えないが貴殿らが生き残ってくれたのは幸いとも言えるだろう。今は休んでいたまえ」


 そう言われて内心思うところはあれどオービスは安堵する。だが彼の不安要素はいくつかあった。




 その頃、豪華ではあるが人がいなくなり、寂しさすら感じるエクランド邸に1人の人間の姿があった。全身をフード付きのコートのようなもので覆い隠しており、風貌からは性別がわからない。ただわかる事と言えば誰もいなくなった屋敷に敢えてやってきたのだ。

 屋敷中の書物をすべて残らず自分の左にある黒い穴に入れていく。


『面白い物が見つかったぞ、マスター』


 その人間の頭の中に声が響く。


「面白い物?」


 声からして男だ。その男は自分の頭からした声に返答した。


『ああ。ここの領主はかなり特殊な趣味を持っているようだ。奴隷売買の記録が見つかっている。法律を照らし合わせているが基本的にこの国は奴隷契約は禁止されているようだ』

「つまりはこの領主が独自に人間を奴隷にして売っていた、ということか」


 自分で言っていてため息を吐く男はそれでも書物の回収を進める。いわば火事場泥棒なのだがそれでも止めない。

 どうせこの領土は奪われてしまうのだから、その間に自分の手掛かりを掴んだ方が良いだろうという判断だ。

 実際、ほとんどの人間が逃げおおせている。シュトムも結局は自分以外がやられていた事に気付いて基地の方に撤退している為、この地域の制圧部隊はまだ来ないだろうとも考えていた。流石にあの中身のパイロットがシュトムだとは知らないが、彼はこれまで自分はなんだかんだで撃破するか機体を奪っていたが、あの戦いで直感的に苦戦すると感じ、引いた。

 男は不思議でならなかった。頭の中で声がする事もそうだが、何より自分がジーマノイドに乗った途端に興奮し、まるでここが自分の戦場と言わんばかりに猛威を振るっていた。生身でも戦える事は知っていたが、ジーマノイドに乗るとそれ以上の感覚を持っていた気もしている。


「とりあえずその証拠はまとめておいて」

『意地の悪いマスターだ』

「いつの代か知らないが、ここの当主は人間を売買するような悪い人なんだ。チクられても文句は言えない」

『だがマスターがしている事もまさしくそれだろうよ』


 頭の中にする声に図星を突かれたが、少しして意地の悪い笑みを浮かべる。


「俺がしているのは本と言う文化遺産を保護しているだけさ。本来なら消えるはずの貴重な資料を吹き飛ばさずに保護をしているだから褒められるべきだろ」

『果たしてその主張が通るかな』


 男が顔を背けると自分とは違う男の声がした。男は咄嗟に身を隠すと自分よりも10は年上と思われる男がボロ服を着た女性たちが列を成していた。まるで男に怯えるようなその姿に彼は段々と目を細める。

 この部屋にある資料はほとんど回収していた。他の部屋も大半が別の者が回収しているのでこの屋敷の資料はほとんど回収したと言っていい。ちなみに彼は宝石類は全く興味が湧いてこないので放置していた。


『どうする、マスター。如何にもな状況だが――』

「放置安定だな」

『酷くないか?』

「数が多すぎる。そもそも俺は英雄でも無ければ彼女たちを賄える立場に無い。精々あの男に影を付けてマーキングする事ぐらいさ」


 それを聞いて男の頭に響いている声の主はため息を吐く。


(……どれだけ否定しても、この男の本質は基本的には英雄だ)


 そうでもしないといずれという仮定とはいえ、助けようと行動しない。声の主にしてみればそのような保険を掛ける男に対して呆れを持ってしまう。それでも見放す、なんてことはできないのだが。


『俺は見捨てた方が良いだろうがな』

「俺もそう思うんだけど、流石に同族を完全に……」

『どうした?』

「いや、同族すら食い物にする人間って本当に罪深いって思ってさ」


 粗方探し終わったところでどこかで何か爆発する音を聞いた男は嫌な予感がする。


『悪い知らせだ、マスター。どうやらこの施設が爆発している』

「今すぐ影分身たちに余っているパーツを回収させてくれ」

『安心しろ。既にしている。あと大量の金貨や銀貨を見つけたそうなんだが――』

「回収」


 何の迷いもなくそう言った男。命令を下された影分身が資金を回収した。


『俺が言うのもなんだが、マスターには躊躇いというものは無いのか?』

「嫌だなぁ。こういうお金は回収するのが吉なんだよ。どうやら向こうは資金の事は完全に忘れているみたいだし、ここは回収してやるのが優しさじゃん」

『……で、本音は?』

「奴隷なんて生み出しているカスがどうなろうかなんて知った事じゃない」


 車のようなものが遠ざかって行く。それを見て男はニヤニヤしていた。

 男は改めて周囲の気配を探ると顔を引き攣らせる。


「……ねぇ、気のせいかもしれないんだけどさ」

『安心しろ。気のせいじゃない。地下の方に人類の反応がある』


 そう言われて男はため息を溢し、さらに自分の影から黒い人型――闇魔法『影分身』を出し、彼らにある命令を下して問題の場所に向かった。

 階段を降りていたが途中で面倒になったからか、途中から壁を蹴って降りていく。だがその階段は外れだったのか反応があった場所には壁があったので正拳突きで破壊した。


『無茶をするな』

「別に手が痛いわけじゃないからな」


 男はそのまま反応がある場所に移動。ドアが2つあったので男から見て右側のドアを開けるとそこは拷問部屋だった。アイアンメイデンに電気椅子など多種多様のものがある。


「……」


 無言でそっとドアを閉めた男はもう1つのドアを開ける。そこはとても臭く、我慢できるものじゃなかった。


「…………あ」


 そして男はその中にいる人を発見し魔法をぶっ放した。




 私がここに閉じ込められてどれくらい経ったのだろうか。少女――というには既に女性的特徴が出ている彼女は疑問を抱く。今日の食事はまだだろうか、と。いつも起床時間になったら点けられるはずの電気すら点灯していない。


(……何かあったの?)


 彼女のいる場所は地下15m程の場所。隣は昔ながらの拷問室になっているが幸いな事に彼女にはまだ使われていなかった。

 それでも彼女にとっては時間の問題だろう。特に何かをしたわけでは無いが、この家はあまりにも自由にし過ぎた。


 彼女の出生は特殊だった。この土地を納めるエクランド大公――その前当主がたまたま入って来た、礼儀は正しいが何の後ろ盾も無い平民のメイドに目を付けた。最初はそのメイドも嫌がったが家族を人質に取られて止む無く相手をする事になる。

 しかしそれから数ヵ月後、彼女にも妊娠したサインである悪阻が起こり始めた。よりにもよってそれが前当主の前でやってしまったのだから好感度は下がった。その時に言われたのは「相手の前で吐くなど狂っている」だった。

 その言葉を聞いてメイドは恐怖をした。既に50にもなるであろう男が悪阻を知らず、自分の子どもを宿した相手に向かってそのような事を言い放つことに。


(……嫌だ)


 メイドはしばらく男から相手にされなかったが、やがて彼女の身体が大きくなっていった事で彼女は逃げ出すようにその場から逃げようとしたが相手の男の趣味で従士たちの相手をさせられる事が決まった。だがメイドはすぐに身のモノを捨ててその場から逃げ出した。追手も出されたが幸い彼女は姿を消す魔法が得意だった事もあり、逃げ切る事ができた。

 誰も、異常な感覚を持たない地に逃げて行った彼女は身重の状態で逃げ切る事ができずにその場で倒れる。

 幸いなのは自分が既に安全な街にいた事だったのだろう。彼女は近くの病院で入院し、女の子を出産した。

 話を聞いた医師が村長に掛け合って退院後に病院で働かせてくれた。ここならば倒れても問題ない、と言う話だった。


 しかし、少女が5歳になった頃に状況が大きく変わった。

 病院の前に貴族が、それも公爵や侯爵が乗るような豪華な馬車が村に現れたのだ。


「やぁ」


 現れたのは青年。だが彼女はその青年を知っていた。


「オービス……さま……」


 何故ここにいるのか、どうして気付かれたのか、様々な疑問が彼女の脳をよぎる。

 この時点のオービスはまだ細く、イケメンではあった。それでも彼の父親の様に意地の悪い、気持ち悪い笑みが顔に張り付いている。


「な、何の用ですか?」

「自分の妹を迎えに来たんだよ。何でも、そろそろ王家が王太子になったサイラス殿下の婚約者を決めるというのでね」

「か、帰ってください! 私は何もあなたと関わる気など――」


 彼女は自分の娘を守るように移動する。だが向こうがいるのは訓練を積んだ従士であるため抵抗しても無意味だった。


「返して! それは――」

「我々エクランド家の血を継いだ娘だ。一介の人間が割って入れる問題では無いのだよ」

「――お待ちください!」


 そこに男が割って入る。眼鏡をした黒い髪の、一見すればどこにでもいる優男のような風貌をしていた。


「君は?」

「裏手で行っている病院の院長を務めています。私の子どもと妻に何の用ですか?」

「君の子どもは私の父の娘、つまり私の妹なんだ。君の娘は連れて行かせてもらうよ」

「や、止めてください!」

「……そうか。ではこうしよう」


 そう言い、オービスはは懐から袋を出して男の足元に投げる。中から金貨が出てきた。


「え……?」

「これは気持ちだ。中には確か……100枚程だったな。これで君の娘を連れて行くとしよう」


 男は固まってしまった。まさか自分にこんなものがと考えた後にあの時の事を思い出した。

 自分がまだ勤め始めた頃、身重だった女性が目の前で倒れた。突然の事で驚いた男は動揺したが、安全の為に近くにいた人と協力して病院に運び込んだ。

 今では自分の妻となってくれたその女性が動揺している姿を見る。


「……いりません」

「何?」

「全く、勿体ない。これだけのお金があれば救える命もあるというのに……」


 そう言った男は零れた金貨を元々入っていた袋に入れてしっかりと紐を結んでそう簡単に零れないようにした。


「よろしい。これで商談は成立――」


 そして優男と思えない程全力で袋を投げて返した。その金貨の袋がオービスの顔に当たる寸前に気付いて手で止める。


「これはどういうことかな? もしくはお金はいらない、とでも?」

「そのような汚物は必要ありません。そして私の娘をそのようなもので渡す気はありませんし、渡したくもありません」


 そうはっきりと言った男にオービスは笑みを浮かべた。


「……なるほど。どうやら私は勘違いをしていたようだ。良いだろう。あなたの気概に免じてここは引かせてもらうとしよう」


 オービスはそう言うと部下を連れて引き返していく。それに安堵したが男は流石に危険と思い、病院に関わる権利をすべて村長に渡して親子3人で家を出ていく。

 その事に気付いたオービスだが、彼は敢えて泳がせた。いわばこれはショーの一環として仲間内で盛り上がる事にしたのだ。そしてそれは大盛況だった。

 最初は男が犠牲になった。青年に対して金貨を投げて返したその勇気もそうだが、彼は意外と剣術を納めていたので従士たちは苦戦した。もっとも、それは演出で1人の若者によってあっさりと潰されたのだが。

 麻酔も無く、生きたまま両足を折られた。それでも最後に足止めの為に若者に剣を突き立てた。

 彼を称えるならば類いまれなる才能を持ったその若者に対して、心を折らず、決して血の繋がらない人間に対して最後まで紳士的にいた事だろう。それは彼の命の灯が消えるまで続いた。

 しかし若者はその男に敬意を払わずにハンマーでいつものように砕く。その光景に流石の従士と言えど耐え切れなかった。ある程度粉砕した後にちょうど崖だった事もあって男の死体を蹴り落とす。


「後でここを掃除しておけ」


 そう指示した男はそのまま逃げている親子を探したが中々見つからず、親子が捕まるまで7日間もかかった。

 それからしばらくして親子は引き剥がされる。

 しばらくしてオービスはある報告を受け、女性の前に現れる。見るとその女性のお腹は大きくなっていたのだ。

 これまで従士たちの健康管理のために女性を使ってきたが、こうなると話は別だった。


「なるほど。あの男との子どもか」


 そう呟いた後にオービスは従士に指示を出して彼女を介抱する。突然待遇が良くされ、食事も出された。最初こそ手を付けなかったが女は自分の子どもの為に次第に手を付けるようになる。

 やがて彼女は出産した。誰にも邪魔される事が無く、ただ平然と娘を産んだ時と同じように子どもを産んだ。立派な男の子だった。

 正直なところ彼女は安堵していた。あれだけの仕打ちもあったが産後の経過も問題なく彼女は立ち直っていく。

 それから2年が経過した。オービスが彼女の娘と出産祝いを持ってきた。最初は警戒こそしていたが助けてもらった事もあり彼女は次第に安堵していた。あれだけの事はあったが流石に子どもに対して寛容――そう思っていた。

 だが自分の娘が呼ばれて部屋を出た後、朗らかに笑っていたオービスは自然な動きで赤子を殺した。


「…………………………え?」


 彼女の手の中にいる子どもにナイフを突き立てた。首を斬った事で男の子の頭が落ちて血をカーペットに付けながら転がって行く。


「あ……え……?」

「どうしたんだい?」

「あの……何で……?」

「ああ、まさか許されたとでも思ったのかい? そんなわけないじゃないか」

「……え?」

「全く。君たち母娘は悪い事をする。逃げなくてちゃんと私に相談すれば良いものを」


 女性は理解できなかった。何故自分の子どもが殺される事になるのか。

 あれだけ幸せな日々が続いていたのに。何故自分の子どもが殺されなければいけないのか。


「これは君たち家族に対する罰だよ」

「……ば……つ……?」

「そうだ。お前の娘は結局王太子の婚約者に選ばれなかった。今頃お前の娘も目の前で何が起こっているのかわからずに呆然としているだろう」

「……どういう……」

「実はこれ、マジックミラーなんだ。この向こうではお前の娘が両手で縛られて拘束されて目の前にいる。聞こえるだろう、メレディス。これからはお前は立派なレディになるように教育する事になった」


 そう、これは最初からすべてオービスが考えた事だった。


「と言う事でだ、お前が本来いるべき場所に戻ってもらうぞ」

「…………」


 急に子どもを失った事で彼女の精神は完全に限界を迎えた。

 あれからさらに数日、彼女は死んだ。生きる気力も無く、まともに反応しないためにショーとして使われたのだ。それを彼女の娘であるメレディスはただ見ているだけしかできなかった。


 もっともその彼女は今、見た事無い男に洗浄されているのだが。


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