#18 異常すぎる戦闘力

 その頃、ヒドゥーブル領に戦いが起こっていた。

 ヒドゥーブル家にはベイルの功績もあってジーマノイドは今では5機に増えてすべてが最新機種。しかし魔族側も15機動員しておりフェルマンとロビンが中心で戦っている。そんな時にフェルマンの元に1本の連絡が入った。脱出シャトルの準備ができたということらしい。


『ロビン、準備ができた。今すぐシャトルに戻れ』

『兄さんはどうするんだよ』

『私はここに残る。他の皆も行ってくれ』


 それを聞いてロビンたちは動こうとしなかった。


『いや、ダメだろ』

『何をよそ見しているんだ!』


 魔族側のジーマノイドが仕掛けて来る。それに気付いて他の者たちが反応するが、それよりも先にフェルマンが切り伏せた。


『やっぱり俺もここに残る』

『何をやっているんだロビン。お前はまだ――』

『だからと言って兄さんを見捨てるわけには行かないだろ!』


 槍を器用に振り回して魔砲を防ぐロビン。そして向かって来る魔族側のジーマノイドをコックピットを突き刺して撃破する。


『『『え?』』』


 周りから驚きの声が漏れる。それもそうだ。今の突きで2機同時に貫いたのだから。


『やっぱりな』

『どうした?』

『ベイルが言ってたんだ。ジーマノイドも突き詰めれば武器と大して変わらない。既存の攻撃も再現できるシステムも存在しているってさ』

『そうか。じゃあ、俺も』


 そう言ったフェルマンはおそらく自分の戦闘スタイルを使用したのだろう。脚部から煙が上がっているが今ので1度に3機も破壊したのである。今で合計10機倒した事になり、魔族側は残り5機。流石に警戒を始めた。


『は、話が違うぞ!』

『さっき連絡でヒドゥーブル家の元領主とその妻を討ち取れたと連絡が来たからこちらも行けると思ったのに』


 そんな会話が魔族同士で広がるが、その隙に2人が襲い掛かった。

 この2人はラルド、レイラと違ってこうまで活躍できるのではやはり若さだった。あの2人は長年生身で戦ってきたが、この2人は違う。生まれてしばらくしてジーマノイドが存在し、ベイル程では無いにしろかなりの操縦練度を誇る。それにベイルからのアドバイスとしてロビンには先程のような事を聞いていたのだ。

 もっと言えばジーマノイドはヘッドギアが受信する脳の電気信号を瞬時に読み取り、技も再現する機能もある。あの2人も戦える為シュトムは派遣されたが、こちらの場合はフェルマンが甘く見られていたというのもあるが。

 さらに補足するならば、彼らの機体と両親に支給された機体では大きな違いもあった。

 ヒドゥーブル家の人間に支給されているのはベイルが使用しているドレイクーパーの量産カスタム機、王国に支給されているのはドレイクーパーをさらにスペックダウンさせたモビルクーパーという機体だ。ドレイクーパーとモビルクーパーには大きな違いがある。

 まず1つは当然ながら機体スペック。ベイルは並大抵の機体ではまず機体性能が付いて行けずに機体各所に損傷を起こしたのだ。元々身体スペックはもちろん高いが差し引いたとしても3分で機体が爆散仕掛ける事態になるとは本人も思わなったらしい。

 故に王国はベイル専用の機体を作り、ドレイクーパーが完成した。もっとも同時にベイルがそのダウンスペック機を開発しているなどとは夢にも思わなかったが。

 さらにマリアナの事で分かった事だが、ヒドゥーブル家の人間は軒並み身体スペックが高い。その時の身体能力が意外に低かったのがフェルマンだったがそれでも基準値を超えていた。その為ヒドゥーブル家だけは量産機とはいえドレイクーパーが下賜される事になったが両親の所属はあくまで王国軍。しばらくすればともかくだが、今軍内でのヒドゥーブル家の立場は悪すぎる事もあるがモビルクーパーをカスタムチューンしていたのだ。

 スペックとしては従来機を大きく超えていたとはいえ、それでも魔族のネームドに勝つことができなかった。


『この、人間風情が!!』


 その時、叫んだ機体とは別に1機、ロビンを狙って突っ込む。しかしそれを阻止しようとフェルマンが割って入る。


『邪魔をするな、人間!』

『邪魔をさせてもらうさ! こちらの領土を侵しているのはそっちなんだからな!』


 そう叫びながらフェルマンが次々と魔族のジーマノイドを大剣を振るい破壊していく。その様を見てロビンは驚いていたが隣にいるロイは当然と言いたげだった。


『ロビン様、他の者を連れてここから離脱を』

『だ、だが――』

『向こうの援軍が来ました』


 魔族側のジーマノイドがさらに現れる。それを見てもロビンはなおも戦おうとしているが、ロイがそれを諫めた。


『そこまでです、ロビン様。あなたは他の方と共にここから離脱を。あなたも貴族であるならばあなたと言う戦力が今ここで朽ち果てるのは得策では無い事はわかっているでしょう?』

『……わかった。だが、2人ともちゃんと戻ってこいよ!』

『言われなくても。私も両親に殺されたくはありませんので』


 その言葉を聞いたロビンは他の者を連れてそこから離脱。少ししてヒドゥーブル家から領民を載せたシャトルが発進した。

 魔族は脱出を阻止しようと銃口を向けるが、ロイが先に撃破する。


『おや、勘のいい。今あの魔族が狙ったのはリネット様が乗られているシャトルです』

『……何?』

『魔族のみなさん、1つ警告させていただきます』


 ロイがフェルマンの代わりにそう言うが、魔族側は聞く耳を持たないのかロイに向かって攻撃してきた。しかしそれをフェルマンが大剣で防ぐ。


『こちらにおあしますわヒドゥーブル家最強の剣士にして領主のフェルマン・ヒドゥーブル。死にたくない者はすぐに離脱を推奨します』

『黙れ! 我ら魔族にそのような臆病者など1人も――』


 瞬間、フェルマンが近くの機体をぶった切る。しかしそれだけに留まらず真空刃が飛んで周囲にいる建物はもちろん、近くにいた機体が切断された。

 その様を見て周囲が唖然。


(まぁ、そうなりますよね)


 確かにベイルを始め、ヒドゥーブル家はその血族一人一人の戦闘力は異常だ。だがここ最近のフェルマンの事を知る者ならば間違いなくこう思うだろう。不釣り合い、と。

 実際ある事をきっかけにフェルマンは弱くなっていった。しかしそれは心にある枷がはまってしまった為。だからこそこの状況はフェルマンにとっては最高の状況とも言えた。


『別に俺は昔とは違う。だがな――俺たちを殺すというのならば話は別だ』


 その言葉に冷や汗を流すロイ。ふと彼は昔の事を思い出す。

 突然いなくなったフェルマン。地獄の森とも言われている魔の森で大きな音がして見に行くと、破壊された大剣にダークパンサーの死体が山積みにされていたその光景。そして、ケロッとしているフェルマン。

 そう、別に何もベイルだけでも無いのだ。それでも普通の子どもはもちろん、大人でも安易に足を踏み入ってしまえば死体に代わると言われているのが魔の森なのだが、フェルマンは自分の力を求めて幾度と無く森に入っていたのだから。もっともそのせいでベイルが山で基地を作っていても誰も気にしていなかったのだが。


 その頃、バルバッサ邸付近もまた魔族に襲われていたが、シルヴィアとポーラの活躍によって魔族は呆気なく掃討されたのである。

 2機の頑張りに周囲は唖然。特にシルヴィアは得意の魔法で躊躇いなく一掃しており、ドレイクーパーから降りて来た彼女には驚愕と警戒の視線を向けられる。


「お、お疲れ様シルヴィアちゃん。助かったよ」

「だったら少しはその視線を誤魔化したら? あなたたちの才能が無いばかりにこっちまで出張る羽目になったんだから」


 グレンに対する言葉遣いがなっていないのはもちろんだが、何よりも今のシルヴィアはとても荒れていた。だからと言ってもそんな事情は公爵領の人間には関係無い。


「貴様、グレン様になんて口の利き方を――」

「偉そうにしている癖に戦えない無能に敬意を払えって? 経緯を払ってもらえるぐらいまともな存在になったらどう?」


 そこに同じくドレイクーパーから降りて来たポーラがシルヴィアを叩く。


「何するのよ」

「あなたこそ何をしているのか気付いてる?」

「わかっているわ。こいつら無能の面倒を見ているだけに過ぎない。意識が低いカスにまともに私たちと同格扱いしているのだから感謝ぐらいはしてもらいたいものね」


 そう吐き捨てたシルヴィアはそのままどこかに行く。それを聞いて周りはシルヴィアに対して睨むが視線に気付いたシルヴィアが本気で睨むと怯み、耐性が低い者は腰が引けて座り込む。


「あんまり虐めてやるな」

「ですが、アイツらは所詮子爵ですよ! その身でありながら次期公爵であるあなたにそんな口を利くなんて――」

「だとしても、そもそも子どもを戦わせている私たちに落ち度があるのは当然だ」


 グレンの言葉に全員が顔を引き攣らせる。


「確かに、特別扱いしていると言われたらそれまでだがな」

「――た、大変ですグレン様! 魔族がまた――」


 その言葉を聞いた瞬間、シルヴィアは持っていたボトルを捨てて機体に乗り込むと先に出撃。


「……仕方ない。シャトルの準備をしてくれ。領民は――」

「ほとんど避難は完了していますが、まだすべては――」


 その時、急に雷が鳴り始めた。ポーラも既に乗り込んでおり、少しして出撃する。


「ポーラちゃん、シルヴィアちゃんを頼む!」

『わかりました。グレン様もお気をつけて』


 グレンもまた自分のジーマノイドに乗り込んで戦闘を行おうとすると、機体が敵機を感知。それは本来あり得ない事だった。

 バルバッサ領はヒドゥーブル領の西北西に位置する。そして王都自体はバルバッサ領から西南西の地点にあるため、南から敵が来ることは南側の領土が陥落している事を意味していた。もしくは、何らかの手段で攻め込んできているか、であるがそんな事は今のグレンはどうでも良い。


(これはもう、放棄するしかない!)


 本来ならば残るべきではあるが、グレンにとって残念であるが両親はもちろんアメリアとカリンでは戦力にならない。つくづく自分の趣味がここまで生きるなどと皮肉に感じた。

 その時、グレンの機体に連絡が入る。


『グレン、領土を放棄する。お前はこちらと合流しシャトルに乗れ』

「わかりました。ではあの2人も――」

『捨て置け』


 そう言ったアーロン。自分の父親の言葉にグレンは反射的に反発する。


「何を言っているのですか!? 彼女たちは我々の為に尽力してくれているのですよ!」

『冷静になれ。今この場において何が優先か、少し考えればわかるだろう』

「ならばなおのこと、私はいりませんね」

『何?』

「下世話な話を承知で言わせてもらいますが、今この場において生き残る必要があるのは我々ではありません。彼女たち2人です。あの2人がいれば強い子どもが生まれる可能性もある。それに私が死んでもそちらには既にアメリアとカリンがいる。カリンには悪いですが今後は彼女に尽力してもらいましょう」


 遠慮なしに言ったグレンはそのまま通信を切り替えてポーラとシルヴィアに言った。


「2人とも、冷静に聞いてくれ。我々は自領より撤退する事が決まった」

『そんな……』

「殿は私が務める。ポーラちゃん、シルヴィアちゃんと共にここから離脱してくれ」

『え、でも――』


 困惑するポーラ。しかしそれを冷静に受け止めたシルヴィアが確認した。


『ここを放棄するって事は、何もかも消し飛ばした方が良い?』

「……そうだな。領民には悪いがシャトルと君たちが離脱次第、私が自爆を――」


 言葉の途中にスピーカーから舌打ちが聞こえて来た。


「え? 今の舌打ちは――」

『吹き飛ばすなら話が早い。私にやらせろ』


 そう宣言したシルヴィアが次々と魔族側のジーマノイドを撃破。ミサイルが飛んできたがバルカンで吹き飛ばした。


 その光景をカリンが顔を青くしながらがモニター越しに見ていた。

 これまで彼女は相手が男爵令嬢だからと言って差別しなかったが、それでも段々と自分の好きな相手を超え、本性を剥き出しにする親友を見て顔を引き攣らせる。

 やがて領民の収容が終わったという報告を聞き、自分たちが乗るシャトルを始め次々と発射されていく。


「シルヴィア……」


 心配そうにするカリン。最後のシャトルが発射されたという報告を受けて連絡を取るが出たのはシルヴィアの姉のポーラ。彼女は顔を青くしていた。


「あの、シルヴィアは……」


 なんとも言えない顔をした後、モニターを操作したポーラはある映像を映し出す。それはリアルタイムの映像で今もなおシルヴィアは戦闘を続けていた。

 その事でカリンは怒りそうになったが、スピーカーから漏れた声に背筋が凍る。


『これでようやく、うるさい奴らがいなくなった』


 そう言ったシルヴィアは杖で地面を突く。すると彼女は離脱するが魔族は当然追おうとした。そう、追おうとしたのだ。

 しかし彼女以外の機体はその杖が突いた場所に集まって行く。家屋も何もかもがその地点を中心に吸われ、ぶつかっていった。


『な、何を――』

『機体が……動かない……』

『何故だ。何が起ころうとしているんだ!』


 恐怖する魔族たち。そんな彼らに対して声をかけているのかシルヴィアは笑顔で言った。


『ああ、やっと全力を出せる』

『…………は?』

『どいつもこいつも、ベイル兄様が天災を起こしたからと責め立て、戦慄し、しかもその能力を得ようと私たちを襲って来るなんて、本当に馬鹿みたい。ザコゴトキガ雑魚如きがイキガッテイイリユウニナラナイトイウノニ粋がって良い理由にならないというのに


 よく見ればそれは味方側の機体もあったが、生体反応は無い。いや、仮にあったとしてもシルヴィアは絶対に助けないだろう。


『本当に鬱陶しい。権力しか持たない雑魚が存在する事自体鬱陶しい。だから見せてあげる。人間が……いいえ、スベテノセイメイタイ全ての生命体ワタシタチ私たちヒレフス平伏すのはトウゼンナノダカラ当然なのだから


 アーロンは先程の命令を聞いていたのかと戦慄を始めた。


『さようなら、弱者さん。『インフェルノエクスプロージョン』……世界よ、ベイル兄様がどれだけ慈悲深い存在か思い知るが良いわ!!』


 そう唱えた事で全員が戦慄。そしてそれは魔族側も同じだった。

 シルヴィアは2つの火種を飛ばして機体の隙間を縫うように移動し中心部に到達した瞬間、火種同士が勢いよく衝突し、大爆発を起こした。それは領土すら消し飛ばすレベルの物。


『な、なんだ……おわ――』

『何だこれは、いや、ちょ――』


 魔族の機体が次々と座れ、爆発に呑み込まれて行き最後には蒸発という未来を辿る。さらに空から隕石群がバルバッサ領目掛けて降り注いだ。


「あ……ああ……」


 顔から血の気が失せ、震え上がるアーロン。それを支えようとするが、目の前で消し飛ばされた自分の領土を見て同じ恐怖するレティシア。スピーカーからシルヴィアの高笑いが聞こえて来た。

 そしてさらにシルヴィアはとんでもない事を言う。


『後はこれを他の4国にも仕掛けたら面白わね』

『本当に止めなさい! そんな事すれば戦争になるわよ!』

『ならないわよ。他の国には人が住んでいるところすべてに仕掛けるもの』

『良いからとりあえず来なさい!』


 ポーラに怒鳴られて渋々ついて来るシルヴィア。しかし彼らにしてみれば爆弾が背中から追って来る、そんな感覚だった。




 それから少しして、王都には様々な場所より貴族や領民たちが集まっていた。王宮にある謁見の前には貴族たちが集合していた。特にヒドゥーブル家に集まる視線は凄い。命を張って生き残っていたフェルマンやバルバッサ領を爆発四散させたシルヴィアなど話題に事欠かない存在がいるからだろう。特にフェルマンに関しては妻であるリネットやロビンですら驚いており、シルヴィアはシルヴィアで視線を辿って手を振ると貴族たちは怯え始める。ウォーレンは一体何をしたのか時になったが今はそれどころじゃないと思い咳ばらいをしてから言う。


「残念な知らせがある。ヒドゥーブル夫妻が我々を庇って魔族と交戦し、討ち死にされた」


 それを聞いて視線がヒドゥーブル家に集まるが誰も相手にしない。シルヴィアですら涙を流そうとせず、口を開いた。


「それで、こんな時に私たちを集めて言う事はそれだけですか? それなら私は休むことにしますが?」

「いや、その、悲しくないのか?」

「悲しいと言えば嘘になりますが、だからと言って泣いているわけにはいかないでしょう? それだけなら休みます。そこにいる如何にも重鎮そうだけどその実足手纏いでしかない雑魚共の様に弱体化している事も理解できず死にたくないので」


 シルヴィアは辛辣な言葉を吐いて部屋を去る。レオナルドが何かを言っているように見えるが、いつの間にかその言葉を封じられていた。シルヴィアが外に出て離れていったのを機にフェルマンやロビン、ポーラと急遽服を用意されたマリアナもすべてユーグに押し付けて外に出る。


「では話の続きだが」

「いや、良くないだろう!」

「諦めろ。あそこであの家族が暴れてみろ。この場に残っている者で生き残るのはユーグ君ぐらいだ」

「ちなみに私はあなた方を守るつもりはございませんので」


 ユーグがそう言った事でその場が沈黙で包まれた。


「な、何を言っているんだ……そもそもお前たちがこちらに技術を提供していれば――」

「自分の身すら守れないカスに用は無いのです。当然、他の皆様の同様です。特に元聖女様はよく言い聞かせておいてくださいね。この戦争が終わればとりあえずレリギオン神皇国には消えてもらおうと考えている程なので」

「……ユーグ君、君も外に出ていなさい」


 ウォーレンはそうフォローを入れるとユーグは一礼してドアノブに手をかけてある事に気付いて言う。


「ああ、もし我らを魔族に当てて始末しようと思っているなら無駄だと言わせてもらいましょう。ここに追い込まれた以上、こちらも出し惜しみをするつもりはございませんので」


 それだけ告げてユーグも部屋を出る。

 ウォーレンは少しばかり今回の会議に参加させたのはミスだったと反省した。


「恐ろしいですね」


 テレーシアの言葉に首を傾げるウォーレン。彼女は元聖女であり特異な能力を持っている事は知っているが何を言おうとしているのかはわからない。


「今、あのユーグという坊やとシルヴィアという少女から荒々しいオーラを感じました。おそらくレリギオン神皇国を滅ぼそうと思っているのは真実ですね。だからこそホーリアには止めるように言ったのですが」


 そう呟くテレーシア。ウォーレンは胃に違和感があったので反射的に抑える。彼の苦労はまだ続く、誰もがそう思った。




 魔族国家アワードーン。そこにシンボルとして、また魔族たちの象徴して魔王城が立っており、会議室にはそれぞれ内大陸に出撃した者たちがホログラムとして映し出されている。

 唯一上座にいるヴァイザーは今回の件の報告を聞いていた。


「……やはり、立ち塞がるのはヒドゥーブル、か」


 内大陸には5つの国家が存在する。それぞれに魔獣を含めかなりの数を投入してほとんどの地域を制圧。残りは各国王都やそれに類する場所のみと言う話になっていた。だが一部ではヒドゥーブル家の人間がとんでもない技で盛り返し、こちらの軍を退けるという事をしてくれているのだ。特に報告に上がっている2人――長男のフェルマン・ヒドゥーブルに三女のシルヴィア・ヒドゥーブル。特にシルヴィアの方はベイルが死亡したという報告以降、一番弱く幼い彼女を捕えて自分の子種を仕込もうという動きが活発になり何度も誘拐されて精神が不安定になっていたと聞いている。だからこそ狙い目だと思ったがむしろ周囲の魔族のジーマノイドを巻き込んで災害級魔法「インフェルノエクスプロージョン」で何もかも吹き飛ばすという行動に戦慄すら覚えた。それがこの少女と考えるしかないのだからあの子どもたちには恐れ入った。

 普通ならば、魔法を始め亜人すら存在するこの世界ならばベイルの怨霊が取り付いたが故などと思うだろうがヴァイザーは違う。それは無いと断言できた。


「まぁいい。引き続き攻略を進めよ」

『良いのかい? それは向こうにとっても想定外だと思うけど?』


 シュトムに言われたがヴァイザーは鼻で笑う。


「協力者に関してなら心配ご無用。アレを投入する」


 会議場に戦慄が走る。


『陛下、それは問題では? 能力のほとんどの移植し、我らと共に戦えるとはいえ理性に関して言えば異常値を叩き出しています』

「ああ、本物と違って理性もない。実際与えた者は全員漏れなく仕込むほど旺盛だ。だからこそ今あの場に投入する必要がある」


 モニターに様子を見るために移す。そこには複数の魔族の女性が裸で、白目を向いた状態で倒れている。そして今も所謂行為中だが既に使い物になっていないのか最後に達した瞬間、適当に捨てた。

 娘を持つ身としては吐き気を催すが、同時に戦力としては申し分ない存在。ヴァイザーは通信回線を開く。


「待たせたなゾムク。仕事だ」

『ようやく俺様の出番か。それにしてもこいつら、全く根性ねえなぁ。これくらいであっさりと堕ちやがって』

「それほど激しいという事だろう? それにお前のソレはオリジナルをベースとしている。つまりはだ」

『……向こうにも良い女がたくさんいる、ということか』


 もしこれがバレれば魔族との関係はもちろん、激怒しゾムクに対して殺意を向けるだろうが向こうに着いたとしても後の祭り。そして最後の仕上げとして内大陸に存在する生命体を完全に殲滅する。それがヴァイザーの計画だった。その際ゾムクは気に入った女を何人か持って帰るだろうが、そうだとしても人間の末路は決まっていた。


「行ってこい」


 ゾムクはそのまま部屋を出ていく。気持ち悪い笑みを浮かべた後に部屋を出てヴァイザーは通信を切るが本音を言うとこんなクズを自分の妻や娘に絶対に会わせたくないと思った。




 ふと、視界が明るくなることを感じた。目を覚ましたその少年だが、いきなり押し倒されて唇を奪われる。

 生前からの影響か、それとも元々本能としてはその辺りの機能が強いのか知らないが相手を押し倒した。


「……ん?」


 自分がいる場所は王宮の端にあるシャロンの隣の部屋でも無く、自室でも無く、ましてやバルバッサ家の客間でも無ければ基地でも無い事に気付いた少年は辺りを見回す。


「随分と激しいわね」


 自分の下にいる女を見て、見覚えがある女性だと気付いた少年はこのままでは重いかと思って退いたが相手はベイルを逃がすつもりは無いのか抱きしめた。


「……もしかして、あの時の女の子?」


 そこで少年は匂いで思い出して少女を見る。


「久しぶりね、ベイル。」

「……ということはまさか、ここは――」

「そう。魔族国家アワードーン。その魔王城の一室で私フィア・シュヴァルツの部屋なのよ」


 ベイルは内心ガッツポーズする。

 あの時ベイルは何も死ぬつもりなど無かった。感覚を共有しているのでどのジーマノイドよりも接続係数は高いがその分魔力の消費が激しい。転移する際も適当だったのは確かだ。

 だがベイルは少し不思議な感覚を味わっていた。それはなんというか、身体機能の低下。


「もしかして俺、お前に何かされてる?」

「違うわよ。あなたは今、お父様に力のほとんどを奪われてしまって満足に動かせない状態なの」


 笑顔でそう言われたベイルは顔を引き攣らせる。


「だからベイルはもう戦えない。あなたは一生私の愛玩性処理動物として飼われるの。だから諦めなさい」

「なんかとんでもない発言が聞こえたんだけど!?」

「事実よ。あなたは私の性欲を満たす。そして私はあなたの子どもを産む。最高な関係じゃない?」


 そう言われてベイルは顔を青ざめた。当然だがそれで思考するのは将来の事。何より子どもの養育費に関してだ。

 今のベイルは言わば定職に就いていないので資金が尽きる事なんてザラだ。だからと言って自分や相手の家族に迷惑をかけるという考えは一切ない。


(いや待て、一体どこまで弱体しているんだ……)


 そんな疑問を抱いたベイル。その時彼の視界にある映像が映り、彼の逆鱗に触れた。

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