#17 世界の変革
火、水、風、地、雷の基本5属性。そして光と闇の特殊2属性。万能の無属性。それがこの世界における魔法の属性だ。
無属性は基本的に魔力があれば誰でも使える生活魔法を始め、回復魔法や強化魔法を指す。
基本5属性には5段階の階級が存在し、それぞれ初級、中級、上級、超級、そして最上位の階級である災害級が存在する。だが人間は大体上級ができれば魔法使いの中でエース、超級を使えるとなればそれこそ大魔導士と呼称されてもおかしくない。特に年若い青年ならばその時点で普通ならば王族が獲得に動こうとするのだ。
そしてベイルは全属性の災害級魔法を使用でき、もっとも得意なのは雷の災害級魔法「ボルテクスブラスター」。それが今災害級の名の恥じず、ジーマノイドを葬り飛んでいく。
その様を見て各国のネームドたちが戦慄する。
『もはやこの世界に何の未練もない』
そう言ったサイボーグとも言えるその存在が指を鳴らすと、どこからともなく流星が内大陸に向かって降り注ぐ。それも1つや2つでなく、5か国において確認できた数は1000を超え、続いて他4国で突発かつ全く関係の無い箇所で噴火と落雷、海は荒れ、竜巻が大量に現れて世界を襲い始めた。それにより、黒竜級の出現によって逃げていたジーマノイドにも影響が及び、次々と破壊されていく。
『何故俺が教会で子どもを兵士に作り替えられていても、疑わしきは罰せずの精神で一方的にレリギオンを問答無用で消さなかったのか。それは知らない者に対する慈悲であり、信仰というある種の先祖に対する敬意に対して敬意を示していたからだ。弱者にとってはそれが寄る辺となり、また先祖に対する敬意は俺が一生抱けないもの。だからこそ消さなかった。俺の努力は俺に合致し、こんなにも早く覚醒したがそれは運が悪ければ一生出会えない奇跡に等しい。だからこそ残したが、どうやらその気持ちはもはや不要だったようだな』
そして災害はレリギオン神皇国に直撃する。悲鳴を上げ、弱者から、運が無い者から食らいつくす災害は容赦なく牙を剥く。しかし既に先導者を失ったその国に新たなに災害を起こすのは追いうちに等しかった。
そんな状況だが黒竜級は巨人に対して息吹を放つ。だが先程よりも強固な上、息吹がむしろ消失するバリアを展開した巨人はテレポートして黒竜級に蹴りを放つ。その蹴りは黒竜級の傷付いた首を容赦なく傷つけ、吹き飛ばした。
倒れるも踏ん張る黒竜級は改めて巨人を見る。
『災害を起こし、人を自らの我儘で殺すなど神になったつもりか!』
『神? 何を言い出すかと思えば下らない。弱者を蹂躙するなど強者の特権、だろう?』
その言葉に呼応してか、巨人の肌に黒い鱗が現れる。それを見て黒竜級は驚きを隠せなかった。
『何故だ……何故我がいるのにその鱗が出る?』
『感情が昂っているだけだろ』
『黙れ! 黒き鱗は強者の、竜種にとって最強の存在にも等しい! ただのドラゴニュートが――』
『先に言っておこう、ご馳走様』
笑顔を向け、巨人がそう言った。
『何?』
『俺がドラゴニュートになった理由を思い出したのさ』
『どういうことだ?』
『俺は人間の定義する紅竜級なるものの血を全身に浴びた。その時に生き延びた事でその魔族には結局すぐ死ぬような事を言われたが、こうしてぴんぴんとしているところを見るにおそらくアレはデマだったのか。ともかく全身に血を浴びてその時に一部が口に入ったから耐性が着いて、ドラゴンの要素が身体に定着しているならば近くにあったお前の血を飲めば更なる力を手に入れられると思ったんだ。そしてそれは正解だった』
あっさりという巨人だが、目の前の黒竜級は信じられない者を見るような目で巨人――ベイルを見る。
ちなみにベイルの発言からして血を軽く飲んだように思われるだろうが、それは大きな勘違いだ。何故ならベイルの死に体はベイルが傷つけた事でできた血溜まりに入っていたのを無理矢理飲んだのだから。
『全身に、浴びた? そして生きているだと?』
『ちょっと口に含んだ程度だと思ったか? いやぁ、アイツらが余計な事をしてくれたおかげで俺は真の意味で最強となり、すべての生命体を牛耳れる存在になってしまったわけだ。これは嬉しい誤算だよ。これで心置きなくすべての世界を滅ぼしつくしても罪悪感が無い。女を毎日とっかえひっかえして考え付く限りに最低最悪の拷問を繰り返して他の王を僭称するカス共を殺せると思えると、これほど高揚できる事は無いだろう』
と、ケラケラと笑うベイル。それでも逐次魔力を周辺に送り、いつでも殲滅できるようにしている様を同じく周辺から感じている黒竜級。彼もまた目の前に存在する巨人の異常性に気付いていた。だが巨人と言えど所詮は大きくなった程度と警戒をしつつも緩め、仕掛ける。
『では死ね!』
息吹を吐く黒竜級。しかしベイルはその場から動かず、黒い円を展開して息吹を防いだ――と思われたところに黒竜級の直上から自分の息吹が直撃した。
さらにベイルは周囲に動揺の円を展開して周囲に展開していた魔法をすべて黒竜級の身体に直撃させる。
『な、何のこれしき――』
気が付けば黒竜級はベイルの姿を見失っていた。その事に気付き急いで周囲を見回すが見当たらず、防御をしていない自分の身体に衝撃が走る。衝撃の元を見るとそこにはチェーンソーが付いており、黒竜級の腹部を抉っていた。
黒竜級がもがいて無理矢理落とすと傷が塞がって行った時、同じ別の場所に刃が通る。いつの間にかベイルが戻ってきており黒竜級を攻撃したのだ。
『貴様、一体どこに――』
黒竜級はベイルが持っている剣を見て戦慄。そしてその感情は決して間違いではない。
ベイルが今持っているのはかつてとある英雄が自分と同じ黒い竜を殺した時に用いた剣の名を冠する竜殺しの剣を持っているのだから。当然、ベイルにも影響はあるだろうが元々ベイルは多少の傷程度は我慢でどうにかできる。それに今は黒竜級の素材を奪える事が楽しみで仕方なかった。
『起きろ、バルムンク』
鞘から剣を抜くベイル。抜く前や以前はまるで勇者が持つような黒い得と鍔、銀色の刀身が特徴的だった。しかし今はその見る影もなく、すべてが黒。さらには闇の力が増幅し、見るもおぞましい姿となっている。その剣は魔剣へと変貌し、さらにベイルから魔力が供給されているのを見て黒竜級は確信する。
(何故、この男から魔力が尽きぬ?)
世界に混沌を誘い、現在進行形で人々を恐怖に落として入れている。しかしそれでもベイルからの魔力が一切尽きる様子が無い。
『まさか、いやありえん。魔力が尽きぬなど、あってはならない!』
『ああ、たぶんしばらく尽きないんじゃない? 寝る前は大体魔力を魔力貯蔵庫に蓄積していたから。今ではとんでもない魔力があるし』
『……なんだと?』
『ちなみに、俺だけでも国1つ賄うくらいなら、慎ましく暮らしていたら5年くらいは持つと思う』
そう言われて黒竜級は顔を含めてすべて黒いのにも関わらずさらに青くしていく。
『まぁ、話は終わりだ。死んで俺の糧になれ』
ベイルはバルムンクを振るい、黒竜級の首にぶつけた。しかしそれを一時的に筋肉に力を入れて防ぎ切った。
(お、恐ろしい……)
バルムンク自体に竜殺しの特性は無い。しかし今のバルムンクにはその概念のような、謎の力が付与された状態だと気付いた黒竜級は凌ぎ切り、至近距離でベイルに向かって息吹を放つ。
(これでお前は終わりだ!)
そう確信した黒竜級。息吹は確かにベイルに届いた。しかし息吹はベイルの目の前に小さく存在した謎の穴にすべて吸収された。
『エネルギーに変換完了』
呟くように言ったベイル。するとバルムンクに宿るエネルギーがさらに上昇してそのまま黒竜級の首を切断――しようとする前に黒竜級はその場から消え、気が付けば上昇していた。
そしてベイルは何かを察してその場から浮かんで離れると息吹の連弾が飛んでくる。それを見てベイルは笑みを浮かべた。そう、笑みを浮かべた。ただそれだけだがベイルがするととんでもない力を発揮する。
(これはもはや人間でもドラゴニュートでもない――魔王すら超える存在と言わんばかりだな。人間共随分と余計な事をしてくれた!)
黒竜級はある事に気付いた。それはベイルが持つ異常性。
しかしベイルはそんな思考を中断させる。先程の連弾を真似したのか黒竜級に向けて電気を帯びた連弾を飛ばした。かなりの数を飛ばしているが流石に黒竜級もかなりの熟練者。攻撃を回避し、または相殺してダメージを減らす。その時、油断した黒竜級の鱗を貫いた。
『この我の鱗を貫くだと!?』
『騒ぐな。ただ当たり前の事をしたまでだ』
『当たり前……当たり前だと……』
信じられないと言いそうになる黒竜級。
気付けば周りで起っていた大災害は止み、小さな火が黒竜級に当たる。黒い炎がほとんど一瞬で黒竜級を呑み込んだ。
『何故だ!? 何故竜種最強である我に利く炎が存在する⁉ ありえぬ! あり得ぬ!!』
『落ち着けよ。ただそこにそれが存在していただけさ』
すると黒竜級にさらに何かが当たり、大爆発を起こした。
『ギャアアアアアアアアッッ!!』
悲鳴を上げる黒竜級。それほどまでにベイルが放った魔法の威力がおかしすぎた。
さらにベイルは追加を10発程放ち、黒竜級に向けて何度も雷を落とす。どれもすべて正確で悲鳴を上げる黒竜級。彼はただ、逃げ出すという選択を出したくなった。だがそれをしないのは彼のプライドが逃げる事を妨げるのだ。
(いや、もういい……)
黒竜級は自分に課していたリミッターをすべて破棄。全能力を顕現させた。それは場所によっては生命体を軽く葬る程の能力だが今のベイルを相手にしているならば話は別なのだろう。実際、全力を出さずに死ぬなど彼にとって許せなかった。
荒々しさを見せ、今度は爪や尾、さらには牙まで使って来る。ベイルは回避に専念して黒竜級から距離を取った。
『逃がすかァッ!!』
『逃げるかよ』
ベイルが黒竜級に右手を向けると、そこから黒い雷光線を放った。黒竜級は息吹で相殺せずに回避してベイルを追おうとするが相手は既に目の前――そう、目の前だ。
『何故そこに――』
ベイルの手にはバルムンクが握られている。それを振り上げた時、接近しすぎた黒竜級の肌を割いて血が飛び散った。黒竜級はそれで致命傷を負った事を理解した。
『認めん。こんなこと、認められるわけがないッ! 我はあらゆる生命体の頂点にしてその頂点! こんなところで下位のドラゴニュート如きに――』
『ブラッドカスタム、エレメントバンカー』
突然、バルムンクにベイルから出た血が巻き付き、変貌する。それはまるで杭打機というロマン兵器になった。
『そんなもので一体何を――』
ベイルはまた黒竜級から距離を取る。さらに黒竜級が追おうとしたが、ゲートがいつの間にか展開されており黒竜級は地面に激突していた。それによって大陸に地震が起こるが黒竜級は何故自分がここにいるのか理解できない。というよりもまず、転移をするという考えが無かった。
(アレは一体どこに――)
周囲を探した黒竜級はベイルの姿を見つけるが、さっきから同じところに留まっているようで次第に早くなっているように感じた。途端に黒竜級はその場にいることが危険と感じて離脱しようとするが、残念ながら遅すぎた。
そもそも彼の敗因は自分の存在で賭けに出ようと考えさせたこと。凶器とも言える狂った笑みを見せながらベイルは突然黒竜級の目の前に現れてその勢いのままベイルが付けた傷にある物体をぶつける。それはさっきベイルが生成した杭打機の杭部分。そしてベイルがあるスイッチを入れたのと黒竜級の首が地面に激突するのは同じだった。
近くにいればいるほど聞いた時の危険度が増し、爆音と共に黒竜級の首が吹き飛んだ。
『そんな……馬鹿な……』
そんな呟きを最後に彼は一切話さなくなる。だがベイルはかつてのミスを起こさないつもりなのか黒い円が現れて黒竜級の死骸を異空庫に入れた。
『さてと』
黒竜級は死んだ。つまり今のベイルに敵はおらず、これから阻もうとする者はいないという状態でもある。バルムンクを元に戻しそのまま異空庫に戻すと笑みを浮かべた。
その頃、ホーグラウス王国の王宮にて独りでに兵器が作動する。それは少し前にベイルが試作品として城に勝手に設置していた電磁投射砲であり、その名は「グングニール」と呼ばれていた。というのも射出するのが内部に殲滅でもするのかと聞きたくなるほどの火薬が搭載されている大型の槍のようなものであり、その砲台が今巨大化したベイルを狙っている。
音に気付いて姿を現した兵士たち。すると迎撃用の超音波が放射されて兵士が苦しみ始める。
「「「うわぁああああああッ!!!」」」
悲鳴を上げ、のたうち回る兵士たち。その間に発射され、一本の武骨な槍が巨人に突き刺さる。それに気付いたベイルは笑みを失わない。こうなる事を知っていた彼は自分を殺す為に敢えて発射し、貫かせたのだ。
(でも、やっぱり怖いな)
ベイルはそう思った瞬間、グングニールの槍弾は爆発。直系10㎞の範囲を消し飛ばした。
終わってみれば、痛み分けに等しかった。各国は自分たちの兵士を消耗し、ホーグラウス王国はベイルという重大な戦力を失った。それからしばらくは後処理に駆り出される事になったがあの裁判から1ヵ月が立った頃、ウォーレンは会議と称して呼び出される。
元々あの場で事実上の決別をしている以上、警戒の為にウォーレンは今回はかなり特殊なメンバーで行くことにした。とある人物から脅迫されたがそれでも心強い部下である事は確かだ、と思い連れて行く。会議の場所は白夜の棟。そこに少し大き目な馬車で乗って移動し、前と同じように2名の従者を連れて白夜の棟の人間に案内されて円卓の間に入ったウォーレンは集合した人間を確認する。前と同じ面々――と言うわけでは無く、レリギオン神皇国の席には遥か前に引退した元聖女のテレーシア・モランデンが着いている。
「言いたい事はわかるな、ウォーレン」
呼び出したレオナルドに言われてもウォーレンは何も答えない。
「すべてお前の国の人間がやったこと。お前らに責任を取ってもらおうぞ」
だがそれでもウォーレンは答えない。その様子に周りは何か言いたげで空気を読んでレオナルドが怒鳴る。
「聞いているのかウォーレン! お前に言っているのだ!」
「……責任、か」
それを聞いてウォーレンは笑い始める。突然の事に周りは驚き、その隙にウォーレンは話しを始めた。
「そんなの、お前らが取るべきだろ」
相手を馬鹿にしたような態度でそう宣言するウォーレン。
「私に言わせてみればこんな事になるなんて簡単にわかっていた。これはあくまでも私情含めてだが、実際彼はドラゴニュートになった事も含めて――いや、なろうがなるまいがヒドゥーブル家の中で最強と言っても過言ではない程だ。そんな化け物に喧嘩を売り、あまつさえみんなを逃がしているというのにどこかの馬鹿兵士共はそれを理解できず邪魔をした。その結果が大量虐殺に繋がったわけなのだが」
「黙れ! 元はと言えばあの子どもが余計な事をしなければこんな事にならなかったんだ! 大人しく死んでいれば――」
「そうなれば、ここにいる人間の大半が死んでいたかもな」
ウォーレンの言葉にほとんどの人間が固まった。だがそれはその通りだ。ベイルがいなければ今頃ここにいる人間のほとんどは死んでいた。
「だが、こちらは教皇を殺されている。その事を忘れてもらえないで頂けるわね」
「むしろそれこそそちらに責任を負ってもらいたいものだ。お前らの馬鹿な兵士のおかげで心優しかった化け物が見事に怪物へと進化してしまった。全く、こちらがしてきた努力をすべて泡にしやがって」
「元々亜人などは争いの種になるから排斥するのが我々の規律。それを無視し独自に囲おうとしていたそちらの落ち度では?」
「どうかな。少なくとも彼は人間のつもりだったさ。だからそういう風に扱っていたに過ぎない」
「大体、お前が権力で言う事を聞かせればそれでよかったではないか。何故それをしなかった」
レオナルドの言葉にウォーレンは盛大にため息を吐いた。
「そんな事、できるならば当の昔にしている。それともお前は忘れたか? お前たちの伏兵を簡単に潰せる程の力を血族が持っているのだ。言っておくがあの少年もまた異常だがベイル君の能力はアレすらも超えている。というか魔法を自在に操る上に生身で紅竜級を昏倒させる程の攻撃を繰り出せる時点で異常だ。そんなものが世界征服など企んでみろ。全員が価値なき者として今頃骨だ」
「…………ならば何故、彼らはそれをしないのかしら? いくら何でもおかしいわ」
モルガンの言葉にウォーレンは顔を背けた。
「何だ? お前は何を知っている」
「……政に一切興味が無い。そもそも長男の結婚ですら貴族としての義理に近い上、家族に対して理不尽が迫ったら例え爵位が上でも容赦なく潰そうとする。むしろ今まで私はよく努力してきた方だ」
「戯言を。そんな者が一体どこにいる。馬鹿も休み休みい――」
レオナルドが急に円卓に顔をぶつけた。ウォーレンはそれを見て顔を青くする。帝国側の従者も助けようとするが、途端に重力が襲い掛かった。
「ここにいるわよ。あなたの言う戯言みたいな存在が」
一体いつの間にそこにいたのか。気配すら感じ取れなかった存在を見てモルガンが汗を流した。
「一体いつからそこに――」
「あら、魔導国の女王と言えど私レベルには到達していないのかしら?」
「調子に乗るな!」
しかしモルガンは戦闘を行おうとした瞬間、動けなくなる。
「な、何をした?」
「周囲に糸を張り巡らせたの。それ以上触れたら大事なお肌、切れるわよ?」
ウォーレンは視線でそれ以上はしないようにと合図を出すが、レイラは一切加減をする気は無いらしい。
「では家族代表として言わせてもらうけど、私たちは一切権力とか政治とかに興味が無い。これに関しては本当よ。そもそも、何故私たちがあなたたち程度のレベルにまで落ちないといけないのかしら? 別に好き勝手するのに権力が絶対必須ってわけじゃないんだし、むしろ今回の事でなお権力に対する興味は無くなったわ」
「何を馬鹿な。そんなことあるわけ――」
「真に強ければ、たかがドラゴニュートになっただけの息子を排斥しないでしょ。つまりあなたたちは単なる弱者」
「調子に乗るなよ。そもそもお前が夫以外の男と交尾したのが原因だろうが!」
その時、レオナルドを襲っていた重力が無くなった。一瞬何のつもりだと思ったが、ウォーレンが全力でレイラを止めようとしている。
「おいレオナルド! 早く謝れ! 今の言葉はふいに口に出ただけだって謝罪しろ!」
「何を馬鹿な事を。この私のどこに謝る要素があると――」
その時、レオナルドは何かに襲われて白夜の棟の内部から壁諸共外に吹き飛ばされる。その光景を見てウォーレンは顔を両手で覆った。
「だから言ったのに……」
「ねぇ馬鹿弟子。別に良いわよね?」
「私がこれ以上止めてくれと命令したところで止まりませんよね?」
「もちろんよ」
レイラが杖を出して軽く振るうと竜巻がさも当然のように現れてレオナルドを襲う。帝国兵も既に巻き込まれて彼を助けられる者はいない。故に直撃して近くの崖に叩きつけられた。
「思い上がったカスにはお仕置きしないとね」
杖で床を叩くと直系30㎝程の小ぶりの岩がが浮いてレオナルドたちを襲った。レオナルドたちはまともな抵抗できずにただ攻撃されるだけだった。
「…………つまらないわね」
そう言ったレイラは攻撃を止める。
「なるほど。納得したわ。あなたたちがこの程度だからベイルが狙われたわけね。アレも大概人が良いからそこを突かれたか。全く」
ため息を溢したレイラは踵を返して白夜の棟に戻ろうとすると、何かに気付いてレオナルドたちに杖を向け、引き寄せた。
「な、何を――」
「そこに隠れているのは誰かしら?」
声を掛けられた事で正体がバレたと気付いたのか、子どもが姿を現した。
「どうしたの? ここに子どもが入れないんだけど」
「あ……あの……」
顔を青くしている子どもをよくよく観察すると、レイラは杖をその場で回転させた。いつの間にかレイラの杖は先端に刃が出ており鎌となっていた。
「い、一体いつから……俺が敵だと?」
「勘、よ」
レイラは一切の躊躇いを持たずにその敵の首を刎ねた。情け容赦が一切無いレイラにレオナルドは戦慄する。だがその時間は実はほとんどなかった。レイラもそれに気付いたのか3人を浮かせ、自分も飛んで白夜の棟に戻った。
一体それはどこにあったのか白夜の棟の周囲にジーマノイドが現れた。
「こ、これは魔族のジーマノイド⁉ 何故ここが――」
「ウォーレン、こっちも出させてもらおうわよ!」
「あ、ああ。頼む!」
レイラはレオナルドたちを拘束してすぐに馬車の後部に接続している車に乗り込むと、そこからジーマノイドが姿を現す。
「ウォーレン・ホーグラウス! あなたはこの神聖な場に兵器を持ち込むとは何事ですか!」
白夜の棟の関係者がそう声を荒げながら叫ぶが、近くにいたハンフリーが間に割って入った。
「中立の立場でありながらこちらを裏切った者が何を言うか。対策をするというのが当然だろう」
「ですが――」
「それに文句があるならさっさと対処しろ。それまではこちらで対処する」
するともう1機、鎧武者のような形をしたジーマノイドが現れる。白夜の棟の人間は2機も出して信じられないという顔をするが、戦いは待ってくれない。
ハンフリーはウォーレンと共に馬車に乗って操作する。そこに縛られて来たレオナルドを始め、白夜の棟の人間もやってきたのだ。
「な、何の用だ!」
「黙れ! 我らも助けろ! 報酬はたんまり――」
突然、レオナルドたち帝国側の人間はもちろん、白夜の棟の人間たちも外に追い出される。ハンフリーもウォーレンも驚いていたが、1人の少女が現れた。
「ま、マリアナ嬢⁉」
「あら。これはこれは陛下に宰相閣下ではありませんか。こんなところに一体どうして?」
今まで行方不明だったマリアナだったがポッと現れる。
「それはこちらのセリフだ。こんな立て込んでいる時に何を……いや、助かったが」
「私は少々人間に対して嫌気が刺したので旅をしていたのですが、そして綻んでいる結界を見つけたのでダンジョンと思って周囲を探索していたのですが、生憎ダンジョンは見つからず」
「も、もしや魔族の侵入を許したのはあなたですか! なんて事をしてくれたんですか!」
白夜の棟の人間であり、男性がマリアナに掴みがかってくる。するとマリアナは一切の躊躇いなく相手の股間を蹴り上げた。
「気軽に触らないでくれないかしら、ゴミ」
「ま、待て女! 我を助けてくれたら私の息子の嫁として迎えてやろう! 我はこれでも皇帝。当然便宜も――」
「どうするんです? 厳重に縛って助けるか、このまま放置して死体にするか」
「な、何故厳重に縛る必要があるんだ! それに私を殺すつもりか! とんだ教育をしているをしているようだな、王国は!」
「小物と言えど安全地帯に入ったところで抵抗されては誤って全滅させてしまうかもしれませんもの」
(まず自分が負ける事を考えていないことが凄いよな)
ウォーレンは内心そんな事を考えていると、馬が強制的に中に入れられて暴れていたが、ハンフリーがなんとか宥める。
そこにさらに人員が現れた。
「す、済まない! 私たちもどうか!」
そこには他3国の要人たちもいる。マリアナは周囲を見ると停留所のような場所を見つけ、そこには壊れた馬車と馬や人の死体を見つける。
しかしこの馬車の中にとても入れる人数ではない。そこでマリアナはウォーレンに尋ねた。
「決断を」
「全員は無理だ」
ハンフリーがその言葉の意味をくみ取り、ボタンを押して座席を収納。スペースが広がったがそれでもと言う感じだ。
同時に煙を噴出させて自分たちを見えなくした。
「だが可能な限り――」
「そこはおまかせを」
レオナルドを無理矢理倒したマリアナ。他の人間も無理矢理転がして中に入れ、なんとか人を詰め込んだ。各国の要人に対して無慈悲な行動であり、レオナルドはその扱いに対して喚くがマリアナが強制的に強制的に眠らせた。
「さぁ、早く!」
ハンフリーは素早く馬車を操作し、浮かせてその場から離脱を測る。その時スピーカーから音が聞こえてきた。
『――している。お前たち人間がベイル・ヒドゥーブルを消した事で我々は思う存分お前たち人間を断罪できる』
そんな言葉が聞こえてきて全員が戦慄した。
時間は少し遡る。
魔族側のジーマノイドは15機。対してこちら側は2機。しかし数分経過した時には既に10機にまで数を減らしていた。そこに1機、動きが違うジーマノイドがいる。
『――やはり、な』
「何がよ?」
突然聞こえて来た音声にそう返すレイラ。向こうの魔族は確信めいた反応をした。
『最初はお前たちはあのベイル・ヒドゥーブルの両親。こちらも大概かと思ったがどうやらそうでもないらしい。他の者ならばいざ知らず、私には倒せると確信した』
その言葉を聞いてレイラはもう1機――ラルドの方を見る。向こうも勝手が違うジーマノイドの操作に戸惑っているのかまともに戦えていない。実際、レイラは最初こそ不意打ちで向こうを倒せたが合流した目の前の機体は他の機体とは違う動きを見せる。腕が長いそれは腕そのものを鞭のようにしならせて攻撃する。それを回避したレイラはそのまま魔砲を小出しにして放つ魔弾を飛ばして向こうに攻撃をした。
『そう簡単にやられるような存在でも無いか』
すると向こうの機体の動きが変わった。激しく動き、翻弄する。しかしレイラとてそのような相手に後れを取る事は無い。だがその時、背後から別の機体が襲い掛かった。
突然の事に対応を取れなかったレイラはそのまま機体を倒してしまう。
『これで終わりだ』
鈍器を持つ機体。それがレイラ機に対して振り下ろそうとした瞬間、何かを感じてその場から跳んだ。その時ラルド機が大剣を振るって攻撃するが空振り。
『レイラ! 無事か!』
『ええ』
近付くラルド。その時ラルド機に向かって炎の球が襲い掛かる。他の場所から攻撃をしてきたのだ。さらにさっきの機体がラルドに向かって強襲してきたのでそれを受け止める。
『何をしているか、シュトム! 早くその者を倒せ!』
『五月蠅いよミハル。だったらお前が戦え』
距離を取ったシュトム機。その間にレイラ機が立ち上がった。
『シュトム……なるほど。私たちは嵌められた、というわけね』
『そういうことだ。じゃあね』
四肢を太くしている上に機動力もあるシュトム機。ラルドの方を狙うと同時に周囲に合図を送ってミサイルをレイラに向ける。
回避したレイラだが、その時彼女の機体が何者かに貫かれる。
『レイラ!』
幸いな事にコックピットを貫かれたわけではなかった。一瞬前に気付いたレイラが気付いて上昇した事でコックピットは回避できたが、今ので彼女の機体は完全に戦闘不能になる。そしてラルドもまたシュトムの攻撃に吹き飛ばされた。
その姿を見て勝ちを確信したのかミハルは最後に言った。
『お前の息子が自殺を選ばなければお前たち夫婦もここで死ぬことは無かったろうに』
『……どういうことよ』
『簡単だよ、我々魔族が真に警戒していたのはベイル・ヒドゥーブルのみ。一部にあの少年がバケモノであると知り、殺そうとする様は滑稽だった』
ミサイルが飛んでくるのを見たレイラだが、コックピットを吹き飛ばして外に出てバリアを張ってなんとか防ぐ。
『まだ抗うか』
『当然じゃない。ジーマノイドはそっちの言う通り慣れていないだけ。戦闘ならばそれに限らない』
『愚かな。だがその愚かさに感謝している。お前たち人間がベイル・ヒドゥーブルを消した事で我々は思う存分お前たち人間を断罪できる』
さらにミサイルの雨が降り注ぐ。レイラはそれをなんとか防ぎ続けるが、ミサイルの1つがバリアの許容量を超える。
その光景を見ていたマリアナは唖然とする。まさか自分の両親がやられるなんて思わなかったのだ。
『……そんな』
自分の両親がこんなところでやられるなんて信じられなかったマリアナは唖然とする。だが少しするとウォーレンに笑顔を向けて言った。
「戻りましょう、陛下。ここに留まっては両親が身体を張った意味がありませんから」
ただそれだけ言ったマリアナ。ウォーレンは頷いてハンフリーにそこから離脱するように伝えるのだった。
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