#15 浮き沈み
自分の城に戻ったレオナルド。そこで結果を聞いて彼は持っていたグラスを怒りのあまり破壊した。
「たった12歳の子どもにあっさりと負けた挙句に命を助けられただと!?」
とりあえずの目的は達成したが、とはいえあまりにも成果がショボ過ぎた。本来ならばもう少し戦力を削っておきたかったが近くにいたのか早々に自分たちの兵士があっさりとやられてしまうのだから救いようがない。
(むしろすぐに到着したあの小僧を褒めるべき、か)
白夜の棟付近で潜めていた兵も、他のヒドゥーブルの人間に倒されてしまった。ここまで力の差があるなどこれまで軍事最強を誇っていた帝国としてはプライドを粉砕されたと言っても過言ではない。
「落ち着きなされ、父上」
レオナルドを父と呼んだ、一人の少年が宥めるように言う。
「とりあえずの目的を達成したのですから、ここはそれを喜びましょう」
彼の名前はジェレミア・パルディアン。パルディアン帝国の第二王子である。
「そんな些細な事に拘ってどうする?」
「ですがこれで王国民はベイル・ヒドゥーブルに、ひいてはそれを擁護するウォーレン・ホーグラウスに対する不信感を抱かせる事には成功したのです」
それは帝国にとって本当に僥倖だった。というのも帝国は今でこそ王国を含め他の国と同盟を結んでいるものの、実際のところは気に入らなくてしょうがないのだ。これもすべてかつて王国が独断で勇者召喚を行った事。それによってなんとかこじつけさせたとはいえジーマノイド技術を確立させた王国は他国と比べて目の上のたんこぶ。それが再び技術力で帝国を抜いて同盟内で上に立たれるのは迷惑極まりなかった。
「後は崩れるのを待つだけ、か。性に合わんな」
「ええ。ですので止めを刺すのですよ」
「止め?」
「あの者たちは本当に役に立った。そして先程、偵察隊から報告があったのですが、どうやらベイル・ヒドゥーブルは人殺しに慣れていないようでコックピットを直接狙わなかったとか」
「……? 何故だ。何でもこれまで大量のモンスターを討伐し、冒険者ギルドに卸さずに自分で処理をしていたと聞くが?」
「たまにいるでしょう? モンスターを狩る事ができても人に対してはそうではない、というものが」
言われてレオナルドは思い出したかのように頷く。
「故に今一度他の3国と共闘し、ベイル・ヒドゥーブルを叩くと」
「流石は父上。王国において生身における強者は他のヒドゥーブルもそうでしょうがジーマノイドを含めるとなるとあの少年が一強となる。実際、少年の父であるラルドなるものはジーマノイドに慣れておらず、家にあるのも実質的には宝の持ち腐れとなっていたとか」
「しかしお前もよくここまで調べることができたな。感心する」
「ええ。しかしこればかりは企業秘密。ですが兄上を超え、私が皇帝となった暁にはそのシステムを見事帝国に根付かせてみせましょう」
「それは楽しみだ。お前には期待している」
その言葉を送られ、ジェレミアは笑みを浮かべていた。
(全く、最高だ)
父は戦うだけの無能で本来ならばこの国の未来を背負うべき長男は仲間を引き連れて遠征ばかり行っている。なんでもダンジョン攻略に明け暮れているそうで自分は王子として遠慮なくアピールできる機会を得れた。これで目の上のたんこぶであるベイルを始末して世界を本来の形に戻した後はその功績で自分が帝王の座に就く。そんな完璧なプランを考えながらジェレミアは内心ワクワクしていた。
ふと、ベイルは目を覚ます。妙にスッキリしているがそれはあくまで眠気の話。いつの間にか寝ていた上にいつの間にか自分の腕の中で寝ているカリンを見て本気で冷や汗を流していた。
(おっかしぃなぁ……)
自分が覚えているのはあくまで剣の調整を初めて少ししたところまで。だからいつの間にかベイルが寝ているのは寝落ちしているのはともかくだが、だからと言ってこの家の娘に手を出すなどあってはならないと思っていた。
(おかしい。俺人間じゃなくなっているから……もしかして人間から離れたから性欲が暴走して襲ってしまったのか? いや、服は着ているし可愛い……じゃなくてだな)
「あー、色々と考えているところ済まないがちょっといいかい?」
声を掛けられたベイルが顔を上げるとグレンが顔を引き攣らせている。
「グレン様、申し訳ございませんが誤解です。私は誓って手を出していません」
「それに関しては理解している。精々君が抱きしめたってことぐらいはね。まぁ、こちらとしては別に手を出して良いんだけど」
「は?」
「いや、なんでもない」
ベイルが自分の妹に対する言い分では無いと思ってキレているが、グレンはグレンでそこまでカリンの意思を曲げてまでということではないので一日でも早く気付いてほしいと思いながらベイルに伝えた。
「それよりもベイル君、君に王宮から召喚状が届いた。至急準備してほしい」
「わかりました。……えっと」
カリンを見たベイルはどうすれば良いのかと視線を向けるが、その様子にグレンは笑みを向ける。
「言伝は残しておくさ。とりあえずバレないように腕を引き抜いて」
「え?」
しっかり腕枕をしているカリンを見てベイルは可愛いと思うがどうしてもシャロンみたいな何かを感じた。
そして王宮の前にゲートを開いて姿を現したベイルとグレン。さも当然のように付いてきているグレンと共に中に入り、ウォーレン・ホーグラウスがいる執務室に足を運ぶ。
「急に呼び出して済まないな。報告は既に聞いているよ」
ウォーレンの傍にハンフリーと共に控えているユーグを見て驚くベイル。少しして少し眠そうな目でウォーレンを見てから欠伸をした。
「随分と眠そうだな」
「さっきまで寝てたんだよ」
「なるほど。だから大して綺麗にしていなかったんだな。じゃあ後でシャロンに背中を流させるように手配をしよう」
「それは全力で阻止してくれ。で、話って何?」
王に対しては普通な態度を見てグレンは驚いていた。
「先程、他の4国から正式に私と連名で君に指名があった」
「……何で?」
「どうやら君を本気で潰したいそうだ」
ベイルは書状を指だけで軽く動かして引き寄せる。その書状にはこう書かれていた。
『親愛なるウォーレン・ホーグラウス、並びにその子飼いの少年ベイル・ヒドゥーブルへ
君たちの罪の清算する機会を与える。この手紙を周知した5日後に帝国南部に存在する荒野にてベイル・ヒドゥーブルに対する決闘裁判を執り行う。もしこれを放棄するというのであれば貴殿らは魔族を庇ったとして、ホーグラウス王国に対して宣戦布告を行う』
それを見てベイルは鼻で笑った。
「なるほど。これに出ろと言うことか?」
「そうだ」
ただ短く、そう答えた。つまりそれはベイルを下手すれば犠牲にするという事を意味する。
「ベイル、もし不安ならば拒否しても良い」
「何を言っているんだ、君は」
突然のユーグの言葉に驚くハンフリー。しかしユーグはハンフリーを無視して言葉を続ける。
「ベイル、確かに君は強いがまだ子ども。ましてや今の姿になったのも望んでなったわけじゃない。ここでこの命令を拒否しても――」
「行くよ」
ユーグの心配をよそにベイルはそう言った。
「兄さんが俺の事を心配しているのは理解しているつもり。でもこれは俺に対する挑戦状だ。だから受ける」
「わかっているのか? 場合によってお前はこれで人を殺して――」
「人は極力殺さない」
そう宣言したベイルには全員が驚いた。
「一応聞こう。何故かね?」
「同情だよ。子どもを殺す為に出兵して、その子どもに殺される間抜け。その結果を生み出して恨まれるのまではまっぴらごめんだ」
ウォーレンはその質問の返答を聞いてため息を吐いた。
「……それに関しては君に任せよう。君の敵だ」
「そいつはどうも」
「だがシャロンとの子作りは絶対にしてもらう」
「何でそうなるんだ!?」
ベイルは思わず突っ込んだ。隣でグレンはカリンが側室に収まる事を予想し、それでも大丈夫かと認識する。
「当たり前だろう。場合によっては君が死ぬんだ。その前にシャロンを妊娠させてもらいたい」
「何で俺が死ぬ勘定になっているんだよ」
「君のその甘さが原因で死んだらどうなる。シャロンなんか絶対にまた王位を狙い始めるぞ。アレは君が現れて以降、絶対に君を夫にすると決めていて、他の男とは一切関係を持たないと言い切っているんだからな。君にはその責任を取ってもらう」
「それは知るか! 本気で説得した方が良いんじゃねえの!? というか母親は絶対に反対しているだろ!?」
「ああ。だが私は構わない」
それを聞いてベイルは頭を抱える。そしてグレンに肩に手を置かれて言われた。
「どうせならカリンに関しても娶ってもらいたいな。あの子は本気みたいだし」
「正気ですか?」
「本気だが?」
ベイルは顔を青くした。まさかそんな事になっているなど思わず、責任を負える程の気持ちもない。
「何でそうなるの……普通に考えて成長すればアレくらい誰でもできるでしょ……」
「いや、子どもの時点でできる方がおかしいんだよ」
「そうは言ったって、あんなの魔の森にいたら誰だって覚える事はできますよ!」
ユーグはずっとベイルに対して不思議そうな視線を向けた。
「ずっと気になってんだけどさ、ベイル。いくら私たちでもあんな近くで災害級魔法を行使すれば誰だって気付くと思うんだけど、私が知る限りそんな事はあり得ないはずなんだよね。どうしてたの?」
「え? あの森って結構不思議な空間ができているからその中で使用していたんだよ」
それを聞いてユーグは何か嫌な予感がした
というのもベイルはダンジョンとそうでない空間の区別がついていない。ベイル程の魔法使いならばできてもおかしくないのだが、何故かそんな事は無かった。
(もしかして、魔の森そのものが特殊な空間だからそのせいかな?)
魔の森が高難易度と言われる所以でもあるが、あの森は特殊な魔素形態が存在して魔獣たちが大きく育つ。ベイルが最初に狩ったダークパンサーでもあの森においてはかなり弱い敵に分類される。
そんな中で過ごして来たベイルにしてみれば周りは同じと勘違いするのではないかと思うが、考えてみればそこまで異質かと言われればそうでもないはずなのだがベイルは何故かそれを感じていないようだ。さらに言えば、下手すればダンジョンがたくさんある可能性がある。
(そう考えると、兄さんも大概だよね)
と、今ではその片鱗が見えないフェルマンの事を思い出す。
ユーグは実の所、大体の人間が今のフェルマンが普通だと思っているのではないかと危惧していた。だとしたら盛大に間違いなのだが元に戻した場合、ヒドゥーブル家が本格的な殲滅一家に転向しかねないので黙っておく。
「どういうことだ?」
「あ、いえ。今度の休みに一度帰省した方が良いなと思っただけです」
「良い話ならばかましてもらうぞ?」
ウォーレンに言われてユーグは困った顔をするが、さも当然の部屋に入ってきたシャロンがベイルを連れて出ていくのを見て、そしてそれを誰も止めないところを見てベイルがある意味とんでもない存在に好かれていると思って貧乏くじを引かされない事に安堵するのだった。
ベイルはさも当然のようにメイドに台車に載せられてそのまま移動する状態を見て思う。
(この台車、無駄に豪華だな)
なんて思っているが、本来ならば台車で運ばれている状態に突っ込んでも仕方ないのだが、今のベイルはどこか無気力になっていた。それでも掴まれた瞬間から重力魔法を使って自分の身体を軽くするという紳士的行為は忘れていないのだが。
「大丈夫なの? 偉くあっさり連行されたけど」
「連行っていうか、運搬じゃない?」
「そうとも言うわね」
「まぁ、この方が今の俺にとっては楽なんだろうけどな」
実際今のベイルはどこか無気力になっていた。
「一体どうしたの?」
「……なんて言うかさ、わからなくなってきたんだよ」
「どういうこと?」
「果たして人間として生きる必要があるのかって話さ」
そう言ったベイルは盛大にため息を吐く。次第にまるでどうでも良さげな雰囲気を見せ始めた。
「珍しいわね。割とどうでも良い理由でベイルが黄昏るなんて」
「だってそうだろ。俺にしてみれば人間の評価なんて低いどころか大した努力もしていないのに群がってくるばかりなんだぞ。それで教えを請われるならまだ努力しようとしているだって納得はできるがそうじゃない。いい加減にうんざりなんだよ」
ベイルが珍しく弱音を吐いている姿を見てシャロンは少しテンションが上がった。
「そもそも、俺に対して文句があるって言うなら俺に直接言えば良いのに、周りからチクチク攻めようってのが気に食わない」
「それは仕方ないわよ。人間の常套手段――」
「こうなったら対抗して俺もチクチクとボルテクスブラスターを撃ってやろうか」
「それはチクチクって言わないし、そんなことしちゃダメよ」
それでもベイルは不服そうな顔をする。
「こうなったら今日から私と一緒に寝ましょう」
「何でそこで「こうなったら」になるんだよ」
「だって男の人っておっぱいを揉めば万事解決するんでしょう?」
シャロンがとんでもない事を言った。流石にそれはとメイド服を着た少女が顔を引き攣らせるが、そこで以外にもベイルが真面目に返す。
「確かにそうかもしれないな。実際男にしてみれば女性の胸に対して妙な執着を覚えるが、とはいえ俺の場合は少々別だ。いや、俺も男だから惹かれないか否かで言ったら惹かれるさ。でもどうしてもそうした後の事を考えてどうしても本気で抱きしめたいと思えないんだ。だからこそ今も人として成立できていると言えるが、もしその制限が取っ払ってしまったらどうなってしまうのかわからない」
「つまりヘタレってことね」
「慎重なんだよ」
「本当に慎重な人間ならジーマノイドを密造した上に個人所有しないわよ」
とシャロンが突っ込んだのを聞いてとうとう笑いが堪えられなかったのかメイド服を着た少女が噴き出した。割って入ってきたのがそんなに嫌だったのかシャロンがメイドを睨むが、むしろそれが拍車をかけてさらに噴き出す。
「ごめんなさい……まさかあの破天荒なシャロンがむしろさらに破天荒な人間が現れて突っ込ませる人間がいるなんて思わなくて……」
シャロンを王女殿下ではなく名前で呼ぶことに内心驚くベイル。自分だけが特別だと思っているが冷静に考えればおかしい話では無いのは確かだが、ベイルにしてみればそういうのは初めてだった。
「改めまして。私はイザベラ・セルヴァ。シャロン殿下のお友達よ」
「その友達って普通、こうやってメイドになって手伝う事じゃないよな?」
「そうね。まぁでもこうして会った方があなたという人となりが理解できるじゃない」
ベイルのイザベラに対する印象は「変わりもの」だった。貴族社会において一番の変わり者が思う事では無い上、それに迫っている者は全員変わりものなのだが。
「実際、当時は大騒ぎだったのよ。どうやってシャロンを王女として元に戻そうとしたら、あなたが助け出して数日後に以前のようにちゃんと授業に出たりしたのだから」
「へぇ……」
どうでも良さげに対応するベイル。
「でも悲しいわ。そんなあなたが今は人間たちの味方になるかどうか悩んでいる」
「だったら俺を口説き落とせば良いんじゃないか?」
その言葉を聞いてイザベラはメイド服のままベイルの顔に手を伸ばす。しかしベイルはそれを素早く回避した。
「あら、随分警戒するのね」
「そりゃそうだろ。流石に初対面……いや、初認識同士。そんな相手に気安く身体を明け渡す程、この身体は安くはない」
「それはこちらの台詞。まぁ、本気で襲われたら私たち2人だと簡単に堕とされるかもしれないけど」
「安心しろ。絶対にしない」
とはいえベイルも男。一瞬彼の脳裏にそんなイメージが過ったがあくまでイメージと断じて相手を観察する。しかしそれも彼らにとっての珍客に阻まれた。
「一体何をしているんだ、お前は」
声がした方を見た3人。そこにはサイラスとその友人のブルーノがいた。
「運搬され中」
「意味が分からないぞ。ましてや女性に自分を運ばせているのかお前は」
「すっごい楽だけど」
「そういう問題じゃないだろ!」
サイラスが近付いて台車の上で浮いているベイルの服を掴んだ。
「この痴れ者が! 貴様のせいでこのような状況になっているんだぞ! 少しは反省したらどうだ!?」
「いやいや、俺が反省したらお前の姉ちゃんは魔族の人質として外大陸に渡っているだろ」
隣でシャロンが2回ほど頷く。
「大体、俺に反省する要素なんて基本的に1㎜も存在しないんだよ。外敵を可能な限り殺していないんだし」
「……いや、密造や色々とやらかしているだろうが」
「そもそも密造した理由ってお前らが技術的に雑魚だったからしているだけ。反省するなら王家の方だ」
「貴様、言うに事欠いて我々を侮辱するのか!」
その時、シャロンがサイラスを思いっきり殴った。その衝撃でベイルは解放されるが突然の事に流石のベイルも唖然とする。
「な、何をす――」
「五月蠅いわよ馬鹿。大体ベイルは戦い過ぎてナイーブになっているだけなんだから私たちが相手をするわ」
「「……たち?」」
ベイルとブルーノの2人が見事にハマった。
「ええ。私とイザベラが相手をするわ」
「お、お言葉ですがシャロン殿下! そんな事をすれば我が姉の評判は著しく下がってしまいます! なにとぞご容赦を!」
ブルーノはすぐに理解したがベイルはその段階に移行していない。というのもシャロンとイザベラが相手をするということでまずそういう行為だという事だという認識が無くなってしまったのである。
「そうかしら? でもイザベラの婚約理由は所謂王国軍内での発言力の強化。ならば別にベイルが相手でも全く問題と思うのだけど?」
「ですが――」
「え? あんたも婚約してるの?」
「ええ。羨んで手を出さないでね?」
婚約者がいるのに自分に手を出すようなモーションをかけようとしていたイザベラを見て戦慄するベイル。
「でも実際、シャロン殿下の言う通りなのよ。私の婚約はあくまで王国軍内での発言力の強化だからベイル君の側室に収まるのも間違いじゃないのよね」
「婚約者が可哀想になるから止めてくれ」
本気でベイルは自分が巻き込まれたくないという顔をする。するとシャロンはベイルの頭がちょうど自分の胸に当たるように抱き着いた。
「まぁ、ベイルの最初の相手は私が今からするんだけど」
「しなくていいし元気になったからもう大丈夫!」
「でも虚勢よね?」
ベイルは上手くシャロンから離れてゲートを開いて外に転移。そのまま逃亡を図る。
「あれがあの男の本音です、姉上。いい加減に諦めてください」
サイラスは勝ち誇った笑みを浮かべるがシャロンは一切気にしていない。
「あなたにも彼のような謙虚さがあれば少しは可愛げがあるのだけど」
「何ですって?」
「むしろ私はわからないわ。ベイルがいるからあなたは生きていられる。少しは彼の存在に感謝したらどう? それとも、アメリアが奪われそうで焦っているのかしら?」
「何だと?」
「そりゃそうよね。あなたは彼と同い年で唯一自慢できる点は自分が国内で最高権力を持っているという点。でもそれすら彼には通じず、簒奪しても王族の血は絶えていないから別に国としては大きな問題があれど彼自身が本気を出したら独裁できるから問題ない、あまりにも大きすぎる存在。あなたはただ、権力を振りかざすしかできない雑魚なんだから」
その言葉に反応したサイラスは拳を握り、シャロンを殴ろうとする。しかし目の前でゲートが開いてサイラスの拳が止められるだけでなく、シャロンにチョップが降りた。
「嫌な予感がして戻って来てみれば、お前は一体何をしているんだ」
「だって私、サイラスの事嫌いだもの」
真顔でそういうシャロンにため息を吐いたベイル。ブルーノもサイラスも突然現れたベイルに驚きを隠せない。
「同族嫌悪っていうものかしら。でも私は女でベイルの寵愛を受けられるもの。勝ったも同然ね」
「勝ち負けのレベルじゃないだろ」
周りが驚いている中、夫婦漫才をする2人。
「というかいい加減に離せよ!」
「あ、悪い」
ベイルに手を離されて引っ込めるサイラス。そしてサイラスはベイルに対して睨みつけるがベイルとしては全く何も感じていなかった。
「ふん。そんな毒女に迫られて喜ぶお前の気が知れないな。下手すればいずれお前やお前の子どもが殺されるのかもしれないんだぞ」
「そんな事はもうしな――」
「どうだかな。現にお前は俺たちを毒殺しようとしたじゃないか!」
それを聞いていたベイルは何かを考え込む。その姿勢を見て今自分が優位に立っていると思ったサイラスはベイルに対して手を伸ばした。
「どうだ? 私と共に来るなら確固たる地位を約束しよう」
「え? 普通に嫌だなんだけど」
あっさりと断ったベイルに対してサイラスは顔を引き攣らせた。
「正気か!? 私の力で要職に就く事もできるんだぞ?!」
「怪我をして身体を満足に動かせないならばともかく、俺にデスクワークに従事てろって? 冗談じゃない。ましてやお前が王になるかどうかなんてまだわからないだろ?」
そう言われてサイラスは憤慨。剣を抜いてベイルに対して振り下ろすがベイルは踊るように回避した。
「避けるな!」
「では反撃させてもらおう」
ベイルはスピードを上げてサイラスの顔面に膝蹴りを食わらせる。その威力に倒れ、転がるサイラス。
「この、よくも私の顔に――」
「先に仕掛けて来たお前が悪い。そして現にお前はまだ王になどなっていない。そんな口約束を一体どう信じろと? 今現在進行形で人間に対して不信感しかないというのに」
「何?」
「当然だろ。こっちにしてみれば尊敬する価値など全くない、思い上がりも甚だしいゴミ共に一体何を信じられる? 魔族だなんだと適当に言って自分の民を殺すようなクズを殺さないだけ感謝するのが道理だろ。ましてやお前が蹴られたのはお前が弱すぎるからだ」
そう吐き捨てたベイルにサイラスは悔しそうに拳を握る。それを見てベイルは踵を返すとそのままどこかに行くのでシャロンが後を追った。
「姉上は行かないのですか?」
声を潜めて確認するブルーノ。イザベラもまた声を潜めて返す。
「流石にあそこで私が行くのは野暮というもの。あの王女殿下があそこまで入れ込むのです。むしろどこまで行ったのか後で聞くのが楽しみですね。いっそのこと完全に堕としてくれた方が嬉しいのですが」
「姉上?」
「というか私がどれだけさっさと堕とせと願ったか。大体2人っきりになった後の愚痴を聞かされる身になってもらいたいです。なのでサイラス殿下、あの2人の邪魔をしないでくださいね?」
「あ、ああ……」
イザベラに釘を刺されたサイラスは立ち上がり、ため息を吐く。
「悔しいですか?」
「……当然だろう。これでも私はかなり修練を積んだつもりだ。なのに、全く届かなかったんだぞ」
実際サイラスはベイル相手に全敗している。一向に自分との差が埋まらない事にヤキモキしている。
「一体何を食べたらあんな化け物になるというのだ」
そう溢すサイラス。それを聞いてブルーノもまた顔を背けるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます