#11 1年半後
ホーグラウス王国、王国軍ジーマノイド研究施設。そこでは一機の黒い機体がハンガーセットに固定された状態で倉庫内を移動する。ハンガーセットが所定の位置に着くと底部が稼働して前にあるカタパルト射出機構が入ってきてそこに機体の両脚部が装着されると同時に機体を固定していたアームが解除されて自由になった。
そのまま前面に移動した機体だが、前面のゲートがすべて開いたのを確認した操縦者はスイッチを入れた。
『聞こえますか、ベイル君』
「ええ、通信は良好です」
『これより新型機ドレイクーパーの可動テストを行います。すべての行動はモニタリングされているという事を頭に入れておいてください』
「なるほど。これによって俺の評価が分かれるわけか」
そう言ったベイルは本人的には満面な笑みではあるが邪悪そのものをオペレーターに見せた。オペレーターはあまりの怖さに震えるが、咳払いして言い返す。
『何を企んでいるのか知りませんが、余計な事はしないように』
「約束はできないな」
『してくださいよ』
時間になったのでベイルは頭上のランプを見る。それが3回のレッドランプ点灯を見ながら素早くスイッチを入れ、すべてグリーンランプに切り替わったのを見てペダルを踏むと連動してカタパルト射出機構が稼働し、ドレイクーパーと呼ばれた黒い機体が外へと飛び立つ。
ベイルは自由に飛ぶことを体感しながらさらに操作してそのまま飛び回る。
『ベイル君、今目標を展開しました。すべて破壊をしてください』
言われるがままベイルは腰部後方にマウントしているライフルを抜いて現れた的をミスなく次々と撃破。それを飛行しながら行えるのだから周りは唖然とする。
その光景を見ていたサイラスは悔しそうな顔をしていた。
本来ならば王子である自分があそこにいて操縦技術を披露しているはずなのに、と。だがどっちにしろ彼が王子である以上は最悪を想定しておかないといけないので彼が選ばれる事は絶対にない。あり得るならば隣にいるブルーノだろう。そして周りにいる技術者にとってもベイルと言う存在は重宝していた。どんなものでも物怖じしない性格。いざ事故が起きた場合には転移を行えるので生還率が高いという点。おかげでシャロンからの嫉妬が増えているがベイルはどこ吹く風。というよりもまずベイルにとってもここは変態の巣窟でもあるのである意味警戒していた。
それからも試験は順調にこなされていく。近接武装はもちろん、魔力に反応する特殊な鉱石を使用した小型独立兵装も当然の如く使用も問題ない。
今後はその使用データを基に開発されていくわけだが、幸か不幸か今のベイルとドレイクーパーとまともに戦える機体は無い為、今後に期待という状態だった。
■■■
俺ことベイル・ヒドゥーブルがヒドゥーブル子爵家令息となり、様々な権利をヒドゥーブル家にある上で王家に渡すことになるという取り決めを行って家に対してある程度の貢献をしてから1年半が経過していた。
今は春頃で俺も12歳になったが仕事漬けの日々を送っている。幸いな事に忙しさのあまり王宮に部屋を準備してもらえているのでそこまで不便はしていない。やはり王国としても俺を手放したくないからかそこそこ優遇してくれているようだ。
あの日、俺が倒した男は王国軍の総司令を務めていたようだが今回の件で色々とあって降格となった。なんでも私的にとある場所に金を使用して今は嫁さんと冷戦状態だなんとか。王家としてもそんな事で処分しても色々と困るようで降格させ、今は別の部隊に配属されているらしい。それで会うたびに睨まれてくるがウチの両親程じゃないから全然怖くなかったりする。
そんな日々を送っていたある日の事、目を覚ました俺に覆いかぶさるようにホーグラウス王国の第一王女、シャロン・ホーグラウスが寝ていた。そんな彼女を退けてベッドから降りた俺は服を着替えて外に出る。
所謂ジャージ姿に運動靴を履いた俺は軽く四肢を動かしてから徐々にスピードを上げて行く。そして森に行って遊んでいると俺に対して喧嘩を売ってくる奴がいたのでタクティカルグローブを付けてボコった。生身でボコる。
俺の戦闘用の魔法術式「アガートラーム」は右腕を技に多用するというだけで実際は四肢をフルに使用する体術に近い。実際、左腕で技を使う事も多いし。
その敵を倒した俺は異空庫に入れた後に王宮に戻ると、最近トレーニングを始めたというオッサンことこの国の王、ウォーレン・ホーグラウスに挨拶をした。
「おはよう、オッサン。今日もトレーニングとは感心だね」
「……ああ、おはようベイル君。今日も清々しい朝だ。君もシャロンとやったのだろう?」
「おかしいとは思っていたんだが、やっぱりテメェの仕業だったか」
相手は王様。子どもからすれば偉大且つ尊敬するべき人間だが、何故か俺に執着して俺と自分の娘を結婚させようと企んでいる。
「ああ、そうだ。それに最近、シャロンのおっぱい大きくなってきているだろ?」
「そりゃあ……じゃねえよ! 何言ってんだオッサン」
これまでの間、このオッサンは何度も俺が寝ている場所に王女――シャロンを派遣してきた。前世に据え膳食わぬは男の恥という、変態野郎の言い訳代表の状況に何度も追い込んで来ているのだ。
「お前だって本当はおっぱいに埋もれたいだろ?」
「…………そういうわけじゃないんだよ」
そう言い、俺はその場から去る。そう、別に俺は王女に手を出したいというわけじゃない。それに最近、俺は自分に自信が無くなってきたんだ。
この世界にはホーグラウス王国を含めて内大陸と言われる人間のみが住まうとされる場所には5つの国が存在する。
1つはご存知戦闘力が大したことが無いホーグラウス王国。
2つ目はホーグラウス王国から北部に位置する軍事国家、パルディアン帝国。
3つ目その帝国から西部に位置するブリティランド魔導国。魔法使いが多いらしく、なんと国の長が女王でモルガンだと聞いた時には美人を期待した。
4つ目はそのブリティランド魔導国の南西部に位置する宗教国家にして女神信仰の総本山レリギオン神皇国
5つ目はホーグラウス王国の西部に位置するブルーミング共和国
今では魔族の脅威の為にこの5国が同盟を組んでいるのだが、やはり国同士のいざこざというものはあるらしい。特に本来ならば俺が持つ技術は他の4国に提示されるべきものらしいが、俺が嫌がった事と研究しきっていない事もあってまだ開示していない。暗に開示しろと言われている段階なのは何故か気になるところだが、大方俺たちヒドゥーブル家……というよりも俺の暴走だろう。
あのオッサンが俺をさっさと自分の娘とくっつけたい理由の一つとして、彼女を俺の憩いの相手としようと画策していると思われる。そうすれば俺を飼い殺しにできて更なる技術を手に入れて来るだろうと思っているのだったら甘いな。
俺は13歳になったら冒険者生活を始めるつもりだ。元々10歳と少しまで野生児に近い生活を送っていたから今更文明が劣化したところでなんとも思わない。そして何より今日は帰宅が許された日だ。
あまりにも俺に対する拘束が長かったので全力で申請したら通ったので帰る事になったのでその準備、なのだが。
「……何やってんの?」
俺の部屋に戻ったら俺に抱き着いたシャロン。一体何をしているのだろうかと疑問を抱く。
「私もあなたの家に行こうかなって」
「俺は休みに行くんだよ。ましてや改築したらしいけど所詮は子爵家の家だぞ? 一体何が楽しいんだ」
案に迷惑って言っているとシャロンは俺の頬にキスをする。
「何でそうなるの?」
「マーキングするからもっと脱ぎなさい」
「何でそうなる?」
「だってベイルの家にも従者はいるでしょ? だとしたらベイルの事を穴として狙う女の子なんてたくさんいるかもしれないんだから」
「無い無い。前は専属いたけど俺が魔の森に入るようになってから今はシルヴィアの専属になっているから。女同士だし、元々俺と一緒に寝る事も多かったから仲も――おい! 何で俺を押し倒そうとしているんだよ!」
今こいつが組み伏して来るのは色々とヤバいのだ。ただでさえ第二次成長が顕著になって胸も大きくなってきた。寝る時はブラを外しているみたいで今もその延長上にあるからこそダイレクトな感触を味わえてしまう。
いつの間にかベッドに後退していた俺はそのまま倒れる。
「大人しく抱きなさい!」
「絶対に嫌だ!」
そんな取っ組み合いをしているところに、ドアの方から声がかかった。
「朝から何をやっているんだ!?」
声がかかったというか怒鳴り声。俺たちはそっちを向くと顔を赤くしているサイラス殿下が。それに気付いたシャロンは近くにあった物をサイラスに向けてぶん投げる。綺麗なフォームだがその勢いで俺の角度から見えてしまったのでブラジャー代わりに影を纏わせる。これでサイラスに見られる事は無くなっただろう。
(………うわぁ)
自分の感情が処理できずに拒否反応を起こす。そしてどうにかして元気になったあるものをバレないようにした。
「今すぐ出ていきなさい。夫婦の営みの邪魔よ」
「いや夫婦じゃないだろ」
「良いじゃない。私たちが夫婦で」
「良くねえよ。年齢と稼ぎを考えろよ」
と突っ込みを入れるが向こうは全然そんなの気にしていないようだ。
「別に良いわよ。年齢なら若い方がたくさん子どもを仕込めるし、稼ぎなら引っ掻き回しているのが王家なんだらサイラス含めて払わせればいい」
「な、何言っているんですか姉上⁉」
「そんなのただの迷惑だろ。それに自分の子どもくらい自分で面倒を見るのが筋。乱れ切った金銭感覚を身に着けさせてみろ。将来絶対ろくな大人にならない」
そう言うとシャロンもサイラスも固まった。その隙に離脱するがちょうど窓の近くに移動したところで気付いたシャロンが俺を抱きしめた。
「もうあなた以外と結婚しないから!」
「何でそうなる⁉」
本気で目の前にいる女の思考が理解できない。さっきから頬ずりしてくるし。
「ねぇ、本気で私と子どもを作りましょう?」
「そういうのは良いから!」
その時、ドアがノックされた。シャロンは少し不快そうに振り向くと顔を青くする。
「お、お母様……?」
「朝から何をしているのですか、あなたは?」
「ベイルと子どもを作ろうとしていますが?」
さも当然と言わんばかりの態度だが、流石にその相手――ジュリアナ様はとても受け入れられないようだ。俺に対しても侮蔑の視線を向ける。
ちなみに王族のシャロン関係の中で実はジュリアナ様は俺に対して良い感情を抱いていない。俺は綺麗でおっぱい大きくて芯がしっかりしている女性だから割と好感を持っている。
「そもそも、ベイルとの子どもを作る事は陛下の意思でもあります。その邪魔をする方がよほど――」
「いや、邪魔するだろ普通」
ため息を交じりにそう言った。
「え? 何で?」
「子どもを産むことに関して言えば女性の方が知っているに決まってるだろうが。産むための身体もできていないのに、娘が暴走して迫っているし、俺も本気でそれを阻止しない。ましてや俺が本気になればどんな女も簡単に怪我や骨折された上で無理矢理されるんだ。そんな相手を親と警戒しない方がどうかしてる」
と言うと本気で驚いた顔をしているジュリアナ様。その隣で口をあんぐりと開けているシャロン。ジュリアナ様の後ろではあたふたしているサイラスがいる。
「そりゃあ、普通の男なら王女に相手をしてもらえてラッキーと思うのが一般的だよ。ましてやシャロンは母親に似て綺麗になっていっているんだし、俺の存在がいなければおそらく男どもが群がるのは容易に想像がつく。こっちとしてはそんな奴らと同じ思考を持っていると思われるのは不快だが、だからといって警戒しないわけにはいかない。周りからの評判はあるし。ただそれを差し置いても俺の将来的にしたい事と王女としての金銭的感覚を持った女性を養える自信が無いからどうにかこうにか理性で性欲を抑えているのが現状なわけ。そうじゃなかったら俺みたいな色欲や煩悩にまみれているケダモノがお前を襲わないわけが無いだろ」
「でも私はベイルとの子どもが欲しいの!」
「時期尚早だ。お前が18ぐらいになってからでも……俺がまだ17だからもう1年待つ――」
必要があると言う前に頬にキスされた。最近、それくらいなら良いかと思っている俺もいる。生前の俺が結局童貞のまま死んだのもあるかもしれない。
ため息を吐きながら、なんとか解放された俺は帰り支度をした後に食事をした後に俺は馬車に乗って帰っている。本来なら転移でいくらでもできるのだが、今回はそういうわけには行かない。何故ならバルバッサ家の兄妹が同乗しているのだ。
本来なら同行する理由は無いが、グレン様のご厚意という名の強制だ。
「それで、一体何の用です?」
「ああ。君にはこのまま一度我が家に来てもらおうと思ってね」
「……はぁ」
何故今更と思っているが、俺の正面に座るアメリア様は如何にも不機嫌ですと言うオーラを出している。この二人もこれから帰宅だそうだ。
アメリア様は王妃教育、グレン様は貴族としての仕事がある。公爵家となると他の家の仲裁とかもあるから色々と面倒なのだそうだ。
「君が来てくれたらカリンが喜ぶんだ。ここしばらくはずっと王宮で仕事しっぱなしだったろ?」
「でも明日には実家に帰りますよ。久々に怠惰を貪ろうと思っているので?」
「1日は作ってくれるんだね?」
「ええ、それくらいは」
世話になっている家からの頼みというのもあるが、何より俺も久々にカリンちゃんに会えるという事に喜びを感じている。前世を持っている者の特権なんだろうが、幼い子どもが懐いてくれるというのはやはりどこか良い物なのだ。性的にではなく、純粋に癒される。ペットを飼えば癒されるアロマセラピーみたいなものだろうと思っているが。
ちなみに他の男がカリンちゃんに首輪をして連れ回している奴がいたら惨殺している自信がある。
「それは良かった。カリンも喜ぶよ」
「……何かあったんですか?」
「いや、純粋にカリンが君に会いたがっているんだよ」
少し前に彼女の誕生日パーティがあったが、俺は顔を出している。何でも彼女の強い希望でファーストダンスのパートナーに選んだそうだ。
俺を選ぶこと自体不思議で仕方なかったが、これでも俺は時の人らしいので一部界隈では人気らしい。
「不思議な事もあるもんですね」
「言う程不思議では無いわよ。私も女子会にたまに顔を出すけど、たまに紹介してくれって頼まれる事はあるし」
「……その話、来た事ないんですけど」
「頼まれる事はあるけど、相手はこの国随一の我儘王女。政治力に長けていて最近は護身術も身に着けているらしいわ」
「へー……あのシャロンがねぇ」
俺に対して積極的なあの女がそこまでしているのは素直に驚いている。と言うか普段はそんな事をしていたのか。こっちは激務で全然会話できていないし、寝ている時に入っているから案外彼女は俺に対して何もしていないのではないかと思い始めた。
すると不思議な事にアメリア様は俺にジト目を向けて来る。
「シャロン殿下と随分仲が良いのね」
「……そういうわけじゃないですよ。ただ、放置したらそれはそれで後が面倒って思っていますけど」
例えば拗ねたり、一緒に寝る事を強要されたり、何なら親子で協力してきたり。下手すれば俺、背後から刺されるんじゃないかって思ってすらいる。
「でも何でアメリア様がそれで不機嫌になっているんですか? 別にシャロン殿下と仲が悪いとか、そういうわけじゃないでしょ? まぁ、アレがあそこまで弟君に対して敵意を剥き出す事に関しては謎ですけど」
「……それは王位継承権が原因でね。実は彼女には継承権が無いんだ」
「え? 長女なのに?」
「というよりも、基本的にこの国は女性の王位継承権はよほどのことが無い限り得られる機会が無いんだ」
それを聞いて俺は疑問を抱いた。
「それが一体何の問題に……もしかしてアイツ、国王の座に就きたかったとか?」
「そういうことだ。社交界では有名だが、彼女は昔は真面目だったんだけど自分が王位を継げないと知ると途端に何もかもしなくなってね。それで一度怒られた事があるんだ。その時逆に王位継承権を求めたけど認められなかった上に勉強する事を強いられたから弟たちに毒を盛ってね」
それを聞いた俺は唖然とする。
「というかそれ、俺に聞かせて良いんですか?」
「社交界では有名な話だよ。それに君は別にその程度の事で殿下を否定したりはしないだろう?」
「そうですね。むしろ感心しているところです」
その言葉に驚く2人。俺としては弟を殺してまで王位に就きたいと思う程だとは思わなったと感心している程だ。
「俺にしてみれば、領主とか王とかってなる方が面倒だと思うぐらいなんですよ。そういう意味で自分に兄姉がいるというのは本当にありがたいんです。良いスケープゴートがいるからこっちは好き勝手できるんだし。ましてやこの国の貴族の戦闘レベルって低いからいざ戦争となれば負ける可能性高いし、そんな奴らを纏めるとか被虐的行為ですよ。自分の事だけ考えていればいい立場って本当に楽です」
「……君って意外と自分勝手なんだね」
「ええ。皮肉だろうって理解していますが、もっと褒めてください」
むしろ何故、俺が他人の事を考えて動かなければいけないのか。難しい事を考えるくらいならあらゆるものを破壊した方が楽に決まっている。
「でもこのままだと、冒険者ランクを上げた後は楽隠居ってわけには行かなさそうですね」
「それどころか、君は下手すれば飼い殺しかもしれないけど」
「それは嫌だなぁ」
思わずため息を吐く。そんな事をされるなら俺は早めに旅に出た方が良いかもしれない。
「全く。面倒な世の中になりましたね」
「仕方ないさ。これからは私たちで引っ張って行かないといけないんだし――」
「だとしても理解できませんよ。未だに他の国も技術情報を開示しろって五月蠅いんでしょ」
「……まぁね。実際帝国や神皇国はここ最近、君の身柄も要求している」
「王女や聖女があてがわれるって言うなら考えてあげましょうか?」
と冗談を言うと、何故かアメリア様が睨んで来た。それを見てグレン様がため息を吐くもアメリア様は厳しめの口調で言った。
「ベイル、あなた変ったわね」
「だとすればそれはお父上のおかげですよ」
「……どういうことかしら?」
「あなたのお父上が私を拒絶した事で私は弱者が集う社交界なんてものに参加を強制されず、自分を高める事に集中できました。そのおかげで様々な技術を持ち帰る事ができたので感謝していますよ」
その分奪われたし、何故か王女に引っ付かれるし、彼女の婚約者には睨まれる生活を送っているけど。グレン様が複雑そうな顔をしている。
「ベイル君って、意外と言うよね?」
「そりゃあ、喧嘩を売られたから買った上で徹底的に潰す主義ですから。でも私は感謝しているのは本当ですよ。他人と交流を深めるよりも魔の森に入って自分が好きな事に熱中できたのは確かですし、自分の基地の近くで俺に会う為に魔王の娘が現れたんですよ。そりゃあ感謝しないわけがないでしょう!」
「……もしかしてベイル君って、可愛い女の子が好きなのかい?」
「逆に聞きたいのですが、可愛い女の子が嫌いな男っているんですか? いるとすれば性格的に遭わないとかそう言う事だとは思いますけど」
俺の言葉に驚く2人。そしてその表情はバルバッサ邸で再び見る事になる。
俺たちがバルバッサ邸に到着すると、一目散にカリンちゃんが現れて俺に抱き着いた。
「ベイル!」
相変わらず可愛いカリンちゃんを俺は反射的に撫でまわしたい衝動に駆られたが、なんとか押し殺して抱きあげる。
「お久しぶりですね、カリン様。ですがドレス姿で抱き着くのはあまり推奨できませんし、走るのも問題ですよ。こけてしまったらどうするんですか? 今なら私が近くにいれば引き寄せることができますけど、そうじゃなければ大怪我を負うのはそちらですよ?」
「耳が痛いわね」
後ろでそんな事を言うアメリア様。頬ずりするのを堪えている俺は敢えてその発言はスルーする。
それにしても相変わらず可愛い。そのまま頬にキスしたいけどシャロンの事を考えて自重しよう。あれ、される方って結構きついんだよ。
「でもベイルにずっと会いたかったのよ。前もまともに会えなかったし」
「今日は1日はいれます」
だがそれでもカリンちゃんは不服そうだ。もしかしてもっと一緒にいたいとか……ないな。そんなことあるわけがない。
「もっと一緒にいようよ」
「別に良いんじゃない? どうせ家に帰ってもくつろぐだけでしょ?」
「具体的に言うと、魔の森にある家でダラッとするだけですけどね。あそこ、結構居心地良いんですよ」
「でも長い間いなかったら埃とか溜まるんじゃ――」
そんな事をいうアメリア様に対して俺は思わず鼻で笑ってしまった。
「何よ?」
「この私がそんな事をするわけがないでしょう。当然、あの家は魔石を組み込んで常に浄化していますし、影分身も掃除してくれているのでそんなヘマはさせていませんよ」
と自信満々に言った。少しばかり引き気味なアメリア様だが、カリンちゃんはむしろ俺から離れなくなった。あれ? おかしいな?
「カリン様、そろそろ私から離れましょうか?」
「嫌」
「ですが、この様子が世間に知られればカリン様の評判に関わってしまいます。それは私としても流石に困ってしまいますよ」
「私、ベイルとなら勘違いされても良いよ?」
そっかぁ。じゃあ仕方な――危ない。意識が飛びそうになった。
「戯れもそこまでにしたまえ」
そう言ったのはバルバッサ家の当主アーロン様だ。彼の後ろには妻のレティシア様が控えており、こちらに笑顔を向けている。相変わらずお美しいと思うが、それよりもまずカリンちゃんだ。
彼女だって今年で10歳。正直前世ならばそろそろ成長を意識するところだが、彼女はわがままな部分が残っている。心を鬼にして彼女を降ろす事にする。
「そうですね。じゃあ降ろしますね」
しゃがんでから解放したが、何故かカリン様が離れてくれない。
「あの、カリン様? 何故離れてくれないのですか?」
「だってベイルったら、離したらそのままどこかに行くじゃない」
「今日は1日ここにいさせてもらう予定ですよ? グレン様に許可は頂いておりますし」
「でも今日だけでしょ? 明日になったらそのまま家でダラダラ過ごすでしょ?」
「そ、それは……」
目を泳がせているとアメリア様がカリンちゃんに言った。
「そろそろ離れなさい、カリン。ベイルも迷惑でしょ?」
「お姉様は王宮で会えるけど、私はそうじゃないもの」
とどこか悲しそうにしているカリンちゃんを撫でまわしたい事を真剣に我慢する。正直俺の理性は限界だ。
「別に良いじゃない。ベイル君、そのままカリンをどこかに連れて――」
「何を言っているんだ、君は」
「でも久々に会えたんだもの。好きにさせてあげるのも良いと思うわよ」
「だが――」
「それに悪い噂が出て来たというのであれば、そのままベイル君に責任取ってもらってカリンを側室に迎えてもらいましょう。彼にはその資格はあると思うわ」
側室なら良いのだろうか? いや、ダメではなかろうか? というかカリンちゃんから漂って来る匂いが良すぎて正直俺はこのまま抱きしめておきたいと思い始めたので流石にマズい。
「カリン様、一度離れましょうか」
「じゃあそのまま手を繋いでくれる?」
「それは……別に良いか」
こんなこともあろうかとグレン様が馬車から降りる時にウェットティッシュを渡して来たのでそれで一度拭いているのでセーフだろう。
「ベイル君。あんまり無理しなくて良いんだ。素直になりなよ」
「いくらグレン様と言えど、無責任の発言を繰り返すなら潰しますよ?」
「おお、怖い怖い……もしかして本気?」
「場合によっては」
安易に素直になれとか言わないでもらいたいな。というかこの場で素直になったら普通に姉妹丼ルート直行できる自信がある。
「止めてくれよ。君が本気になったらこの家が完全に消し飛ぶ」
「甘いですね。あの時から私も進化してますから」
「え……えぇ……」
そんな会話を聞いていたアメリア様がぼそりと言った。
「あれ以上強くなるの?」
「そりゃあ強くなりますよ。魔王や魔族の兵士にも一人、俺と戦える奴がいるんですからもっと強くならなければ」
するとグレン様がカリンちゃんを持ち上げて彼女の胸に当たる部分を俺の頭に乗せる。
「とりあえず、君はしばらくの間休みなさい。1週間くらいはゆっくりして良いから」
「それ本当に大丈夫です? 今だけでもアーロン様から微小ですが殺気が漏れているんですよ?」
「ベイル君。確かに君にとっては微小かもしれないが、これでもあの人は全力なんだ」
「まさかグレン様もあの程度だったりするんですか?」
「君って本当に遠慮しないよね?」
そんな事を言われても遠慮する必要がわからないんだ。仕方ない。
「こうなったら貴族の令息集めて魔の森で強化合宿するのも良いかもしれませんね」
「落ち着いてベイル君。君の感覚がおかしいだけで本来なら魔の森ってかなりの難易度だからね? 各家の騎士団が総出で乗り込んで数人戻ってこれば良い方だからね?」
「それはいくら何でも弱すぎません?」
そう返したが全員が全力で否定する。
「大丈夫。あそこの森は欲望があればなんとかなりますから。この俺が保証しますよ」
実際俺がどうにかなったから保証できる。しかし何故か周りはカリンちゃんを外した時、気まずそうな雰囲気になって一部の人間は顔を逸らしていた。
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