#7 休暇をください

 ベイルが襲撃した後、魔族たちは脱出艇で外大陸に存在する魔王が統治する地――魔王国アワードーンへと帰還していた。

 報告の為に今回の代表者であるシュトムとラジスラフが呼び出される。


「何か、申し開きはあるか?」


 そう魔王に問われた事でラジスラフは口を開こうとしたが、その前にシュトムがピシャリと言った。


「無い」

「しゅ、シュトム様!?」

「完全敗北。油断した。それだけ」


 あっさりと答えた上に礼儀もなにもあったものじゃない。そんな態度に周りは眉を顰める。そして魔王もまたため息を吐いた。


「お前はもう少し礼儀を覚えろ」

「でもヴァイザーはそんなこと気にするなって言ったじゃん」

「……あ、言ったな。だがせめて公の場では体制的に一応は礼儀を払ってくれとも言ったが?」

「…………報告会って、公の場だったんだ」


 そう言ったシュトムにヴァイザーと呼ばれた玉座に座る男が噴き出す。


「ああ、もう良い。そもそも公の場にお前を出すつもりは全くなかったからな」


 それは無理な話なんじゃと思ったラジスラフ。しかしそんな考えは無視してヴァイザーは尋ねる。


「それで、どうだった?」


 その質問の意図はわかったのか、シュトムは笑みを浮かべた。


「……面白かった」

「そうか」


 ヴァイザーは内心戦慄する。

 というのもこのシュトムという男は彼が直々にスカウトをして立場を与えた魔族。周りからはあまり気に入られていなかったが、その代表をボッコボコにした事で閉口するしかなかった。それほどまでに強く、その時もつまらなさそうにしていたシュトムが笑ったのである。


「それと一つ報告がある」

「何だ?」

「あの少年は亜人に興味がある。それとたぶん、もう人間じゃない」


 その言葉を聞いた瞬間、その場が沈黙で支配された。


 ベイルがサイラスの醜態に晒させてから数日が経過し、王宮内にある会議室。そこでは今回の議題に上がっているヒドゥーブル男爵家の事が話題に上がっていた。


「即刻、取り潰して領地を没収するべきです!」


 そう叫ぶように言うのはフレデリック・イーストン。イーストン侯爵家の当主で王国軍を率いる人間でもある。しかしそんな彼をハンフリーはもちろん、ウォーレンも冷めた目で見ていた。


「だが、あそこはある意味重要な場所だ。むしろあのまま彼らにはあそこにいてもらった方が良いんじゃないか?」

「しかし! 彼らがした事を考えれば当然罰は下すべきです! 実際陛下もサイラス殿下に対して酷い目に遭わされているではないですか!」


 しかしそこで待ったをかけたのは、アメリアの父であるアーロン・バルバッサだった。


「……その件に関してだが、私には殿下の発言もまた問題だとは思うが?」

「何?」

「なんでも私の娘が気に入らないのか、彼は他にも女を抱えるつもりのような発言をしたと言うではないか? その真偽を是非とも問いたいのですがね、陛下」


 そこでウォーレンではなく、その娘のシャロンが答える。


「申し訳ございません、バルバッサ公爵。アレは愚弟が勘違いしていたそうで」

「シャロン、何故ここにいるんだ?」

「勘違いとは何でしょうか、殿下?」

「いや公爵、そのまま話を進めないで頂きたい。そしてシャロン、君は早く出ていきなさい」


 ウォーレンはシャロンを追い出そうとするが、シャロンは首を振る。


「別にここから出ても良いですが、その時はアメリアを誘ってベイルと既成事実を作りに行きますが?」


 とんでもない発言をしたシャロンにその場は凍り付いた。


「待て。本当に待ちなさい。何故そこでアメリア嬢を話題に出す」

「そもそもサイラスのあの発言は陛下が3人も女性を囲ったから起こった勘違いによるもの。本当に笑えますよね。ベイル君と違ってあんな雑魚が複数の女性を囲う気でいるなんて」


 サラッと弟に対して酷い事を言うシャロン。元々彼女は王位を求めるがあまりサイラスに対して毒を仕込むほどであるが、今回のはある意味酷い発言である。


「公爵、これを機にあんなクソ愚弟と娘さんの婚約を破棄して私と一緒にベイル君と婚約するのはどうでしょう? 私はむしろそちらを推奨します」

「何を言っているんだお前は! そんな勝手な事を認められると思っているのか?!」

「なんなら姉妹揃ってでも構いません。こちらもすべての妹を差し出すつもりです」


 そう宣言したシャロンに会場にいる貴族たちが驚きを隠せない。


「シャロン、お前は一体何を言っているんだ!? そんな事が許されると本当に思っているのか?!」

「陛下、国を思う立場にいながら何故彼らを取ろうとしないのです? もはや宮廷魔導士や王国軍など存在価値が無いと彼らが示したではありませんか」


 その言葉にいち早く反応したのはフレデリックだった。


「その発言はどういう意味ですかな、殿下?」

「そのままの意味です、侯爵。彼の言葉を使うなら、ハイエナでしょうか」

「その言葉の意味を理解しているのか、小娘」


 キレたフレデリックに対して周りは抑えようとする。


「落ち着いてください、侯爵!」

「相手は姫殿下です!」

「黙れ! あの小娘は――」

「ですが事実、王国軍はヒドゥーブル家に敗北した。彼らはまだ理性があったので今の体制を続けられているだけであり、本来なら私たち王族はもちろん、他の方々も蹂躙されてもおかしくない状況。違いますか?」


 そう問われた瞬間、誰も何も言えなくなる。


「ええ、私も本当に驚きましたよ。実際彼はキマイラが解体されたと聞いた時には激怒していたのですから。良かったですね、彼に命が繋がれて」

「だがその少年は結局我々に戦果を提供しませんでしたね。それに関してはどうするおつもりで?」

「それに、あのキマイラ、というのもどこで製作されたのか不明でしょう。そんなものは当然解体されてしかるべきでは?」


 と研究者関係の貴族が笑みを見せる。しかしシャロンはクスッと笑い言った。


「日頃から無駄に金を貪っている癖に随分と言うじゃないですか? どこで製作されたものすら判明できないなんて余程無能が集まっていると言わざる得ないようね」

「シャロン、いい加減にしないか! さっきから突拍子も無い事ばかり言って。我々を困らせたいのか?」

「発破をかけてあげているのよ。いつまでも新しい風を受け入れようとしないあなたたちにね」


 猫被りは止めたのか、シャロンはハッキリと物申した。


「さっきから聞いてみれば古臭い風習ばかり気にして処刑だ断罪と騒ぐばかり。高が一男爵家に戦闘スペックやジーマノイド技術に負けたからってそんなに悔しい? そう感じる前に少しは自分たちのすることを見直したらどうなの? 無礼以前の問題じゃない。結局私たちは彼らがいなければ今頃魔族に負けて王国が滅ぼされていたのよ? そんな事にまだ気付けないの? だったらまだあの家を唆してこの国を滅ぼした方がマシよ!」


 そう宣言するシャロンに周りは驚きを隠せない。兵士たちは突然の反逆発言にシャロンを捕まえるべきかと迷う程だ。


「だってそうでしょ! 私は、私たち子どもはあなたたちみたいに何十年も生きて来たわけじゃない! たった10年前後しか生きて来ていない子どもなのよ! それなのにあなたたちの方針にばかり従って早死になんてしたくないわ!」


 シャロンの言葉に場が沈黙する。しかしそこに意気揚々と口を挟んだ男がいた。そう、フレデリックだ。


「ふざけるな! あなたにはわからないだろうが、彼らがどれだけ秩序を乱しているのか!」

「ふざけているのはあなたじゃない! それとも何? あなたたち王国軍は彼らを止められると思っているの? 魔族にも対抗できると? それ以上のジーマノイドが作れると? 宮廷魔導士なんてそれこそ経費の無駄でしょうが。一体何人あの家の人間に勝てるって言うのよ」

「だ、だが、ベイル・ヒドゥーブルがジーマノイド技術を隠し持っているのは明白! それに対して然るべき裁きを下さなければ我々は団結できませんぞ!」


 その言葉を聞いたシャロンはため息を吐いた瞬間、その隣に座っていた男が咳ばらいをした。


「ならばその件、私に任せていただきませんか」

「ジョセフ殿……?」


 視線が一気にジョセフと呼ばれた初老の男の方に集まる。


「な、何故あなたが……」

「これでもあの家には縁があるのでね。ついでに少しお灸をすえておきましょう」


 そう宣言するジョセフ。ウォーレンは「わかった。任せる」とだけ言ったが内心思った。――無理だろ、と。


 ウォーレンが執務室に戻り、椅子に座ると同時に机に突っ伏した。後から執務室に入ったハンフリーがそれを見てため息を吐く。


「お疲れ、とだけ言っておこう」

「ああ。正直疲れた」


 この2人は歳の差はあれど幼い頃から行動を共にすることが多い。だからこそ、2人だけや側室ではあるがハンフリーの妹でもあり、シャロンの母親でもあるジュリアナがいるくらいならば割と砕けた態度で接することが多かった。


「シャロンの奴め……」

「だが良い傾向にあるだろう」

「それでもだ、あそこまでズケズケと言って相手のプライドを刺激してヒドゥーブル家を攻め始めたらどうなる!」

「…………」


 無言で考えたハンフリーだが、どうしても王国軍が勝てる未来が見えなかった。


「何人生き残るかを考えた方が良いだろうか?」

「ハハハ……。止めてくれ。シャレになってない」


 実際、ベイルを含めてヒドゥーブル家に対して罰を下した方が良いというものも多い。しかし結果として見れば彼らが示した功績はやはり称えるべきものともとれる。特に結果的に見ればベイルがいなければ王国が終わっていたのもまた事実だ。

 それを周りに言われるがまま罰したとして、その見返りでヒドゥーブル家が裏切るリスクを考えれば多少の事は目を瞑らせるのが良いのではないかと考えてしまう。


「だがあのシャロンがあそこまでベイル・ヒドゥーブルに対して行動するとは思わなかった」

「それは確かに、な」


 2人が知るシャロンという王女は、王位を獲得する為ならば自分の弟たちを殺そうとする。そんな女だった。

 しかし魔族の船から帰って来てみればあそこまで入れ込み、今では好きな男をどうやって出世させようかと考える始末。


(いや、正直感謝しているのはしているのだが……)


 確かに、情報を提供してほしいという気持ちはある。特に魔族の機体の情報は今後の国力を上げるという点においても大きなアドバンテージになるのは目に見えている。そんな機会を逃すのはやはり問題だと感じた。


「ともかくだ、私としては一度あの家の人間と話をしたいのだが……流石に王が行けば色々と問題が起きるよなぁ」

「まぁ、起こるとすればマナーなどの面だろう。一度交渉したいという書面を別口で送ってみてはどうだ?」

「そうだな。そうしよう」


 早速ウォーレンはウォーレンで書面を送る。できれば2人の師でもあるレイラが意図を察してくれれば、そう考えて送った。


 その頃、家に着いていたヒドゥーブル家。そこで色々と思惑を抱き、帰りを待っていたのはフェルマン・ヒドゥーブルの嫁であるリネットだった。


「ただいま」

「おかえりなさい、みなさま。早速ですが色々と聞かせてもらえないでしょうか?」


 と、少し怒りを見せるリネット。しかし周りは気にしていなかった。


「聞いてますか!? こっちは大変だったんですよ?!」

「そうなの? お疲れ」

「お義母様! いくらなんでもその態度はないでしょう!」


 そう怒鳴るリネットに対してレイラは冷たく言った。


「とりあえず落ち着きなさい。ここで騒ぎを起こしたところでどうにかなるわけじゃないわ」

「散々騒ぎを起こしておいて今更何を――」


 と怒鳴るリネットに対して待ったをかけたのはユーグだった。


「落ち着いてください、義姉さん。現状、我々が処される事はありません」

「でも……え? 無いの?」

「ええ。我々の有能性は示してきましたから」


 なんとか宥める事が安堵するユーグ。本来ならはフェルマンの仕事だが、今のフェルマンはどこか妻に甘い為、彼が率先して行っているのだ。それに関してはユーグも責任を感じている。


「ところでベイルは知りませんか? 今後の事もありますし、一応話をしておくべきでしょうが」

「え? 戻ってきていませんよ?」

「……なるほど」


 ユーグは頭を抱える。一体誰のせいでこんな事になったんだと言いたいぐらいだ。


「という事は魔の森か。ちょっと行ってこようか?」

「兄さんは行かないでください。ということでちょっと行ってきます」


 フェルマンを抑えてユーグが空を飛んで探しに行く。その姿にリネットは疑問を抱きながらも平然と服を脱いでくつろぐ家族を見て頭を抱える。


「できれば、今の状況を説明してほしいんですが?」

「俺、風呂入ってくる」


 そう言ってロビンが先に離脱。元々ロビンは身体を動かすのが得意な人間なのでそれはそれで仕方ないとして、だ。


「あ、私も……」


 まだ幼いシルヴィアがそれに続いた。まだ8歳だからある意味仕方ないとしてと自分に言い聞かせるリネット。残った面子に一体どう話をしてもらおうという事である。


「そうね。さっきも言ったけどとりあえず私たちが処刑される心配は無いわ。というか、できないわね」

「だから、それがどういうことかと――」

「簡単に言うと、軍に恥をかかせてきたのよ」


 それを聞いたリネットが唖然とした。

 王国軍は貴族やお抱えの騎士団に対してあらゆる権限を行使できる。実際、今回の件で家宅捜索など行われ不正の証拠を探された。しかし日頃からユーグを中心に帳簿を正しく付けていたのでそんな事は発見されなかったが。

 それほどまでの存在を、この家族は恥をかかせてきたというのだ。


「ど、どどど、どういうことですか?」

「ポーラに対してセクハラをした事をきっかけにボコボコにしてきたわ。ま、同時にベイルも暴れ始めた上に誰も察知されなかった誘拐事件を未遂で終わらせた上、拘束しようとしてきた軍のジーマノイドを壊滅。不意打ちも防いで最後に王子を泣かせてきた、と」

「…………ちょっと待ってくださいよ。あなた方は止めなかったんですか? というか普通、不敬罪ですよね? つまり私たちは――」

「処刑されないわよ。むしろ今後は王家を中心に積極的に取り込もうとするわね。実際既にシャロン王女もベイルを獲得しようと躍起になっているみたいだし」


 そんな事を平然と言うレイラに唖然とするリネット。彼女は段々と混乱する。


「というかできないのよ。私たちを相手にするという事はある意味自滅。どうせフレ豚が私たちを糾弾しようと動くでしょうけど、軍の動きは固いでしょうね。で、おそらく子爵ぐらいには昇進は確実。おそらく今後は戦争が増えるから伯爵くらいにはなるかもしれないわ。あー、このまま行くと次の世代であの子が王太子の子どもと結婚か」

「そ、それは良いじゃないですか!」

「まぁそれ以上に、ユーグやマリアナも狙われるかもしれないけど」

「面倒だから嫌なんだけど」


 そう言ったのはマリアナだった。その発言に驚くリネット。本音を言うならば「何を言っているんだ、この女は」というところだろう。

 実際彼女の発言は他の結婚の為に動いている令嬢たちを敵に回す程の事だ。


「な、何言ってるの? 良い家格の人間と結婚すれば贅沢なんて――」

「私、正直パーティなんて嫌なのよ。むしろ何で貴族になんかなったのか気になるくらいなんだけど」

「あのジジイのせいよ」


 そう吐き捨てたのはレイラだった。


「あのジジイが余計な無駄に貴族主義過ぎて嫌だったのよ。何が優雅な生活よ。こっちはそんなのが嫌で家を飛び出したって言うのに。そして結局魔族が攻めてきていざという時に戦えませーんだし。鍛え方が悪いのよ、鍛え方が」


 するとドアがノックされ、ヒドゥーブル家の従者であるマノンが入って来た。


「大変です、みなさま。シャロン王女殿下がご来訪です! お付きとしてジョセフ・クリフォード侯爵もお見えになっています!」


 その言葉を聞いた瞬間、レイラはため息を吐いた。


「シャロン殿下を回収して後は殺して良いわ」

「いやいや、流石にダメでしょ。相手が相手だし」

「でもあなた。実はあの男を裏で操っていたのはあのジジイ」


 そこまで聞いたラルドは自身の愛剣を持って外に出ようとするのをフェルマンが止めた。


「落ち着け親父」

「だがな――」

「そうやってこちらから殺し合いを申し出てどうするんだ。ベイルも言っていただろ、「他人を殺すとそれまでかかった費用が無駄になる」って」


 その言葉にドン引きするリネット。彼女は内心思う。この家族に嫁がされた自分が不幸だ、と。

 


 



 ■■■






 魔の森を俺の修行場所とし、魔法を独学で学びながら2年程経過した頃だろうか。俺の技が失敗して山を一部破壊した時にそれは判明した。

 どうやら遺跡があったようで俺はそこを単独で潜った。ちょっと俺の手に負えないと思った時にはフェルマン兄さんは結婚話が上がっていたからともかく、ロビン兄さん辺りに応援を頼もうと思っていたんだけどこれがまた案外順調だった。


「……これって」


 奥まで進んだところに景色が変わった。今まではまだ地下という言葉が似合う程だったが、そこからは俺が良く知る科学文明に似ていたのだから。

 段々と進んでいくと先に強力なモンスターが存在しているがそいつらを倒していき、船のドッグのようなものを見つける。アームに固定されていたと思われるが、おそらく長い年月の経過によって破損したのだろうという事はうかがえた。


(一体どれだけ長い間、ここに存在していたんだ……?)


 数百年……いや、下手をすれば数千年以上は軽く経っているだろうということは容易に想像できた。

 戦艦の中に入ると残念ながら機能は停止していた。大抵のものは灰となっているので残念ながら復元なんてものはできなかった。コンピューターも死んでいるしおそらくどうにもならなかったかもしれない。今では骨董品としてでも飾られないだろう。だが同時にこれが世界に出ると面倒になる、という事は理解できていた。

 今のジーマノイド技術というのは驚く程に後進的だということが、この遺跡を見つけて理解できた。


(規格は同じ10m級。できなくは、ないか)


 それでも途方の無い時間が必要だった。そもそもあまりにも時が経ちすぎてシステム関連はボロボロになっている。自分でやるにしてもその根幹なんて作れる程の技術は無いし、あっても設備がない。

 

「……せめて、"浄化"と"修復"のコンボでどうにかなってくれたらなぁ」


 独り言が多くなっていた頃にそんな事を言ってしまった。だがそんな事を言ったところで現状が回復されるなんて思えない。

 するとシステムが起動してモニターに画面が浮かび上がる。それを見て俺は今後絶対に独り言は言わないと、せめて言う前に落ち着こうと思った。


 そんなこんなで俺はキマイラを作れる施設や謎の機体アルビオンを調べるに至ったわけだが、その施設にいつでもアクセスできるように作った俺の家。秘密基地にして前線基地という謎コンセプトで作り上げたこの家は今では完全に俺専用のセーフゾーンだ。黒人狼の軽装備セットなどもここに作り、いずれ女性用下着すらも付与魔法によって防御はバッチリ計画も考えているが、その作業は女性にやってもらう予定だ。

 ……今思うと、かなりノリノリかつストレス発散気味に勢い余ってやってしまった感はあるが、俺のストレスが解消されるならばそれで良いじゃないかと割り切る事にした。まさか自分の家がとんでもない事になっているなど、この時全く考えていなかったのだ。






 ■■■






 時間は戻り、ユーグがベイルの痕跡を辿って魔の森を移動していると畑を見つけた。しかしそこから先は妙な魔力の痕跡はあれど姿はない事もあってユーグはスキル「看破」を使用。家のようなものが現れた事でユーグは頭を抱えた。


「……ジーマノイドを所持していた時からまさかとは思っていましたが、本当に拠点があるとは」


 しかも完全に別荘と言ってもいい程のものだ。一体いつの間にこんなものを思ったが、ここは家からもかなり遠い。拠点としては十分だろうかと結論付ける。

 そしてドアを開けようとした瞬間、ドアノブから電気が放出されてモニターが空中に展開される。


『許可されていない者の接近を感知しました。命が惜しければこれ以上の接近はお勧めしません』


 ここまでバレているのに最悪命を取ろうとしているのかと驚いている。おそらく生かして返す気は無い――そう判断したユーグはその考えに自分の家族が来ることは考えていないのだと推理する。


(どうしたものか……)


 ユーグは全面と自分の身体を覆う様にバリアを展開してドアノブに触れる。するとベイルがおそらく相手を殺す為に仕掛けたであろう魔砲を凌いで中に入っていくと、少し懐かしい感じがした。

 ユーグがまだ幼い頃の話だった。平民出身のラルドは何度か実家に帰っており、その時に何度か入った感覚に似ているが、奥にある「前線基地」と書かれているドアに関しては絶対に何かが違う気がした。

 それでもめげずに奥の、誰かが良そうな部屋のドアノブを開けると、ベッドに入って寝息を立てているベイルがいた。


(意外とこういうところは無防備なんだよね)


 今では時の人として今後たくさんの女に子種目的で狙われるであろう自分の弟がここまで無防備な姿を晒していると心配に――と考えたところでベイルの周りに薄い膜が張られている事に気付いた。


(なるほど。密度を上げて防御力を上げているということか)


 自分の弟ながらここまで高度の魔法を行使できるベイルに驚きながら咳ばらいをしてから声をかける。


「起きなさい、ベイル。家に帰りますよ」

「なんだよユーグ兄さん。もう少し寝かせてよ」

「リネット義姉さんが説明しろと五月蠅いんです。それに今回の8割はあなたが原因ですからね。ここの事を含めて色々と説明してもらわないと」

「別に説明も何も、魔の森を散策しているところに魔結晶が生えている洞窟を見つけたとか、その近くで遺物が放置されているところを見つけたとか、その遺物の中で浄化と修復を実行してしまって再起動したとか、そんなものだよ?」


 それを聞いたユーグは顔を青くする。というのもベイルはよく理解していないようだが、そもそも魔結晶がある場所はダンジョンかその付近。少なくとも洞窟の中であるもの=ダンジョン産だ。そして何より、遺物の中で浄化と修復を使用したら再起動したという点だ。

 通常、浄化も修復も生活魔法の一部でしかない。しかしベイルの場合は勢いで実行する節があるため、下手すればそれ以上の効果を発揮しているかもしれないのだ。そうなると分類が変わって光属性へと進化しているかもしれないと疑われるレベルである。


「ベイル、まさか光属性の魔法も使えんじゃ――」

「残念ながら使えないよ」


 そう答えるベイルはどこか悲しそうにしていたのでユーグはそれ以上は聞かないようにした。だが、それでもいくつか明かすべきことを明かそうとして唐突に「前線基地」と書かれたドアを開ける。そこにはユーグが知らない世界が広がっていた。

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