スクリーンショットした君
早乙女次郎
スクショ
10月25日18:48。修学旅行中の緑川中学校2年2組のクラスlineに、数枚の写真が投稿された。写っていたのはクラスの女子達の自撮り写真。その中には笑顔の麻由ちゃんがいた。
北川麻由。クラス1、いや学校1の美貌を誇る彼女はいつも無口で、まさしくクールビューティーと言ったところ。そんな麻由ちゃんが、にっこりとカメラに向かって微笑みかけているというそれだけで飯が食える。いただきます。とスクールカースト中層の主人公、田村和也は思った。グループLINEを開けてその写真を見た次の瞬間、彼は脊髄反射的にスクリーンショットを撮っていた。
その写真はある女子による身内自撮りの誤爆だったらしく、間もなくline上から削除され、代わりに「間違えました💦すみません🙏」という文言が表示された。
後日、博物館見学中の田村の男子グループにて、
「昨日line見たか?北川さんの笑顔ショット!俺奇跡的に見れたんだけどさあ!マジで天使だよなあ、あれ。スクショ撮っとけば見せれたのによお、」と多田。
「マジか〜見損ねたー何時くらい?」と山内。
「18:48でしたね。確か。僕も見てみたかったですね。」と武田。
「お前そーゆーのキョーミあんだな、真面目そうなのに。」
「僕の中で、北川麻由真さんは別格です。あんな美しい人は滅多にいませんよ。しかも普段は冷静沈着で、数学の木下先生のギャグにも笑わない彼女が、笑顔で写真に写っていたのですから、それを見たくない男子はいないに等しいです。」
「やっぱそうだよな〜みんな見たいよなー」
こんな会話に耳を貸さず、一人こっそり昨日撮った麻由ちゃんのスクショを眺めていた田村。しかし班のみんなに見つかってしまう。
「タム、オマエそれ、北川さんのヤツじゃねーか!見せろ!ウッヒョー!一生見てられるぜー!」
「マジ!?俺にも俺にも!」
「見せるのです!見せるのです!」
「やめろお前等!この写真は僕がスクショしたんだ!だから僕んだ!返せ!」スマホをぶん取る田村。
「なんだよ、いーじゃんか!見せるくらい!
いや〜でもやっぱ笑ってるのもかわいーなー北川さん、
あ、そーだ!タム、その写真、俺のlineに送ってくんね?」
「嫌だよ!なんでだよ!」
「いーからさあ!あ、北川さんのlineアカウントあげるから!お前持って無かったろ?」
「え、う、、、いゃ、、、、まあしゃーないな」
「やリー!」
「えーずりー!、じゃあ俺2000円あげるよ!それでいいだろ?な?」
「僕は来月の理科の範囲を教えます!一から十まで!満点不可避でしょう!」
「あーあーわかったわかった!わかったよ!多田にあげちゃったし、山内と武田にもやるよ!その代わり、もう誰にもあげるなよ?それ。俺が広めたの麻由ちゃんにバレちゃったらヤベーから」
「「「おうよ、約束だ!」」」
しかし当然約束は守られるはずがなく、修学旅行の期間中にクラス内外の男子ほぼ全員に写真は出回ってしまう。
それはそうと、田村は多田からもらった麻由ちゃんのlineアカウントからまゆちゃんと連絡を取り始め、旅行が終わる頃にはすっかり仲良くなっていた。
修学旅行も終わり、学校にいつも通りの日常が戻ってきたが、田村は別だった。憧れの麻由ちゃんと、近所のイオンでデート出来たのである。普段とは違う彼女の一面も垣間見れたし、何より写真でしか見たことが無かった彼女の笑顔を、肉眼でみることが出来たのだ
「いやあ、かわいいなぁ」
「羨ましい限りです、代わってくれませんかね?」
「いーなー、まじでいーなー」
「もともと、俺が北川さんのアカウントあげたからそう言ってられんだろ?今日パン奢れよ」
「いーぜ!奢るよ!皆にもな!」
田村はノリノリである。
と、ここで麻由ちゃんからlineが来る。
『二人で話がしたいです。天文台の裏に来れますか?』
「あ、lineだ。2人で話がしたいって!あ〜こりゃこりゃ
3人とも悪いね、急用ができちまったよ」
「ほあ!?なんだって!後で聞かせろよな〜色男!」
「いや〜悪い悪いパンは明日奢るからさ!」
田村が天文台の裏に行くと麻由ちゃんが待っていた。暗くて表情はあまり見えないが、いつも通り可愛くてクールな表情だと思う。
「麻由ちゃん、話って--------
「写真」
「え?」
「だから、写真。私の、広めたの、田村くんだよね。」
「え、えー。はい?」
「はい?って、なんでハテナなの。由香から聞いた。私の写真、男子の間で広まってるって。で、広めたのあなただってことも。」
声を振るわせながら喋る麻由ちゃんに対して、無言の田村。てっきり告白だと思っていた。予想外だった。
「なんで黙るの。私の写真みんなにあげといて、で、私とイオンでドーナツ食べてたの?隣で映画見たの?なんていうか、うん、踏みにじられたって感じ。うん、」
しばらく続く沈黙。
「あの、俺、
「言わなくていいよ。写真撮っちゃって、他の人にあげちゃうのも、それを私に黙っときたいのも分かってるもん、でも、私がそれ知っちゃったら、もう前みたいに付き合ってけないじゃん?そういうこと。私が言いたいこと。」
「、、、」俯く田村、なるチャイム。
「予鈴。降りよ?」
階段を降りている時も、2人は無言だった。田村は、麻由ちゃんの背中を見つめながら、足だけ動かしていた。何も考えたく無かった。
数年後、社会人になった田村は同窓会の招待状を受け取った時に上記の記憶を思い出していた。スマホの写真フォルダを遡ると、10月25日18:48、麻由ちゃんの笑顔の写真。まだ消していなかった。参加するかどうか、悩みながら公園のベンチに座っていた。
「行くか行かないか、僕の革靴に決めさせよう。
ここから靴を飛ばして横向きになったら、行く。
そのまま、上向きになったら、行かない、、、」
靴を飛ばす。地面で数回跳ねる。止まる。革靴は、逆さ向きになって静止していた。
スクリーンショットした君 早乙女次郎 @saotomejirou9090
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