この気持ちとどけ!

ゆる弥

この気持ちとどけ!

 今日はずっと憧れている間宮先輩の卒業式。

 在校生として出席する為に入念に鏡の前で身だしなみをチェック中。


 一度だけ転んで膝を擦りむいた時に心配して声を掛けてくれたことがある。

 話したのはそれっきり。

 

 鏡の前私を見たお母さんが鏡越しに話す。


「卒業式ね。私も昔は先輩から第二ボタン貰ったりしたのよぉ」


「へぇ。お母さんにもそんな時代があったんだ」


「そうよ。遅れるわよ?」


 慌ててカバンを持って玄関を出た。

 いつもの家の先にある交差点で真希と待ち合わせ。


「おはよー」


 真希とは親友でいつも恋バナをしてる。

 真希は私とは違う先輩が好きで今日もカッコよかったぁといつも話している。


 朝お母さんから聞いた第二ボタンの話をしてみると「卒業式の定番なんだよねぇ」と知っているふうだった。

 

 昔からある儀式みたいなものらしいよ。とは真希のお母さんの言葉。

 なぜ儀式かと言うと大抵告白されるような先輩には彼女がいて、後輩の女の子達は告白をすることを目的としている節があるとか。


「あれ。間宮先輩じゃない?」


「そう。みたいね?」


 何やら親しげに女の子と歩いている。

 二人の距離が近い。

 一緒に歩いているあの人が誰なのかと考えていても、答えがわからないことが頭を巡る。

 

 一緒の方向から来るってことは、幼馴染とかなのかなとも勘ぐってしまう。

 二人で歩くその様はまさに恋人同士のよう。


 先輩のあの笑顔に胸がザワザワする。

 あの人とは幼馴染だから仲がいいのだと思いたい。

 告白するチャンスは今日しかない。


 卒業式中、あの間宮先輩と謎の女の人の映像が頭から離れなかった。


 卒業式が終わり、バラバラに先輩達が校舎から出てくるのを真希とジッと待つ。

 一人じゃどうしても来れなくて真希にお願いした。

 

 そこに友達と肩を組んで笑い合いながら校舎から出てきた間宮先輩。

 肩を組んで歩いてきた。

 友達と間宮先輩が私達の正面に迫る。

 近づいてくる先輩を見ながらも足がすくんで前に進まない。


 私の足は安全という名の道路に保身という磁石でくっついてしまった。

 自分の力だけでは磁石から剥がせそうにない。

 目をギュッと瞑って動けない自分が嫌で震えてしまう。


「あれ? あの時の。膝の傷。跡が残んなくてよかったね?」


 誰に話しかけているのかと疑問に思い、目を開ける。

 目の前には間宮先輩が立っていた。

 そして腰をかがめて膝を見てくれている。


 その目を少し垂らしてクシャとする笑顔が好き。

 最初に話しかけてくれた時のあの時の気持ちは今でも忘れることは出来ない。


 私の事を覚えていてくれたなんて。

 あんなにちょっとしか話さなかったのに。

 そういう所も好き。

 

 急速に心臓が高鳴り、私の全身に大量の血を送り出した。

 自分でもわかる。

 顔も耳も全てが赤くなっている。


 真希が私の背中に手を置いて少し押してくれた。


「間宮先輩! 私、私、す、好きです!」


 言えた。

 私の口から言ってしまった。

 足がガクガクと震えて立っているのがやっと。


「ありがとう。卒業式に告白されるなんて嬉しいな。でも、ごめん。今付き合っている人がいるんだ」


 やっぱり朝見たあの人と付き合ってたのかな。

 断られることも想定していたのに挙動不審になってしまう。


 真希が横から「第二ボタン」と呟いた。


「第、第二ボタン、くれませんか!?」


「うん。僕のでよかったら」


 着ていたブレザーの第二ボタンを取ると私の目の前に差し出した。

 手で器を作るとそこにボタンを置いてくれた。


「じゃあね! ありがとう!」


 そう言うと友達の元へと戻って行った。

 手に残るボタンは妙に冷たく、私の体温の熱を表すようだった。


 最後に見た間宮先輩の背中は大きく、きっぱりと断られた私の間宮先輩への気持ちは傷を残すことなく消えていった。

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