第十二話 守衛と罠

 「ここが…」



 「では、私はこれにて…」


 地下へと続く暗闇に包まれた遺跡を見て呆けていた俺の顔に目もくれず、老人は無表情のままそう言ってこの場を去っていった。


 気のせいだろうか。老人が去り際にほくそ笑んでいた気がした。



      ーーーーーーーーーーーーー

 遺跡に潜り込んでから早一年…いや三十秒。


 遺跡を探索して感じたことがある。


 「罠、多すぎ…」


 まだ一分ぐらいしか経っていないのにも関わらず、もう数え切れない程の罠に出会った気がする。串刺しや火等の罠が何個も張り巡らされている。


 だが、今の所はそれだけだ。変な敵も特に出てこなければ、出てくる気配すらない。妙な胸騒ぎを覚えたが、時間がそれを待つことはない。どんどんと階段を降りて、ダンジョンの奥へと辿り着いてしまった。


 「ふぅ〜………罠が多くて疲れたぜ…」


 ギガルテの安堵の声がダンジョンに鳴り響くと同時に俺たちは目にした。


 「あれは…手鏡?」


 物々しい雰囲気の祭壇にポツリと置いてある手鏡。何だがそれがとても神秘的に見えてしまうのは仕方のないことだろう。


 「あれがお宝か?…ま、どうせまた罠だろ?ちょいちょいちょいちょっ…とで駆け抜けてやるよ」


 ギガルテがそう言うと俺たちに一言も喋らせる暇を作らずに突っ走って行った。その様子に呆れたマールネさんは溜息を吐き、落胆した。


 「もう少し冷静になってくれると思っていたんだがな…結局こうなるか…」


 「ククッ…!所詮、どんな姿を形作ろうとも野獣であることに代わりはない…ということだ…。ククッ…」



 どうやら、ギガルテがこうやって突っ走って行くのは初めてではないようだ。マールネさんの苦労が伺える…。アポカルトの発言に関してはガンスルーである。どうせ、あれもただの設定だろうしな。


 ギガルテが手鏡に触れたその瞬間…。


 耳が割れるような機械音が響いた。


 「キキキィィィィィン!!!!!」


 金切り聲にも聞こえるその音は終始なり続けて止むことを知らなかった。ように思えたがその音は徐々に静まり、その音が小さくなるにつれて、その音の発生源が姿を現した。


 蜘蛛のような形のそれは決して蜘蛛ではない。あれは単に蜘蛛の姿を真似したただの鉄屑だが、その大きさは尋常ではなく、自らが矮小なる存在だと再認識させるほどだった。


 機械でありながら、糸を出し、張り巡らせる。正に蜘蛛であり、蜘蛛よりも恐らしい生き物である。


 その機械が機械音を止めると…蜘蛛は糸を切り離し、地面に足をつけようとした。


 「ギガルテさん!」


 「ギガルテ!避けろ!」


 俺が叫ぶよりも先に仲間たちが叫んだ。その声に反応したギガルテは素早く足を動かして蜘蛛の機械に押し潰される前に避けた。


 「あ、危ねぇ……」


 倒れ込むギガルテを横目にマールネさんはあの巨大な存在に目を向けた。

 ギガルテを真上から踏み潰そうとしていたあの機械…。



 「あれが"四色方位群"の言っていた守衛とやらか」


 逃げようにもあの機械がそう簡単に逃がしてくれるとは思わない。それに…。


 「うわっ…!」


 アポカルトは"それ"を見て思わず情けない声をあげてしまった。それも仕方がない。あの巨体は機械にしか見えないからまだいいが、俺たちの背後に周り込み出口を塞いだのは…。


 「本物の…蜘蛛!?」


 「いや、多分機械ではあると思う…でも些か気持ちが悪い…」


 ちゃんと毛に覆われていて、タランチュラ並みの大きさの蜘蛛。しかも三匹。


 「へっ…!やるしかねぇ…ってことだな!」


 ギガルテはそう言って巨大な蜘蛛機械の方を向いた。直接的な発言はしていないが、見れば分かる。ギガルテはきっと「デカい方は俺に任せろ!」ということなのだろう。


 そして何も言わず、右足を前に出したギガルテはマールネさんに左肩を掴まれた。思わず姿勢を崩しそうになったギガルテは右足を後ろに戻した。それのおかげで転びはしなかったものの、前には進めなくなってしまった。


 「私たち女には無理だ、ギガルテ、毛の方は頼んだ」


 「え…いや、俺はデカい奴の方が…」


 「お前はさっき…私たちの忠告を無視したな?」


 マールネさんはギガルテに負い目を感じさせ、その上威圧的にそう述べた。


 流石にこれに反論できる程ギガルテは心が強い訳ではないので彼は目線を地面に向けて、肯定の意を示した。


 「…はい」


 ギガルテは男としての尊厳を失った。それと同時に過去の自分を恨んだ。


 

 意気消沈してしまいそうなギガルテを片隅にマールネさんは両方の手の平を叩いてパンパンと音を鳴らした。


 それは…戦闘開始の合図である。


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