第十一話 ダンジョンと目的

「はじめまして冒険者の方々、わたくしのことはオールとお呼びください」


 白皙で白髪、白服で目が蒼く、髭がなく、肌に艶がある。見ただけなら青少年だと勘違いしそうだが…。人を第一印象で決めつけてしまうのは危険だ。


 その第一印象によって事がより深刻になる可能性がある。しっかりとこの人物が何の目的を持って行動するのかを理解しなければならない。


 絶対に誰も死なせてはならない。だからこそ慎重に行動しなければならないのである。

 そう思考を巡らせながら、次々と長椅子ソファーに座っていくマールネたちに続いて俺も長椅子に座った。


 「はじめまして、貴方のお名前はかねてよりお伺いしております…オール様」


 「お噂はかねがね…なんでも、善意の持ち主でありその上目端が利いていてお世辞も上手だとか」


 マールネさんが最初にそう言葉を切り出すと、オールは眉をピクリとも動かさず、特に気にしていないかのように言葉を続けた。その様はまさに泰然自若であった。


 「ははっ…最後のは皮肉でしょうか?確かに商売に置いてはある程度のお世辞は必要ですが…今回はそういったものは必要ありません」



 「……」



 「まぁ、そう堅くなる必要ないですよ…私にとって貴方方はお客様に等しいのですから。気楽に行きましょう、丁度ここには最高品質の紅茶が揃えてあります、お望みならば…」


 沈黙したマールネさんに一切の揺るぎも見せずにオールは話を続ける。こういった雰囲気に慣れているのか、それともただ単にお気楽なだけかは知り得ないが、彼の喋り続ける様子を見たマールネは途中で言葉を遮った。


 「悪いですが…私たちはお客様ではなく、ただの依頼人です…そこまでしていただく必要はありません、早速本題に入りましょう」


 「…そうですか……でしたら、本題に入らせてもらいましょう」


 「今回、貴方達に頼みたいのは…古代の遺跡…俗に言うダンジョンへと入って頂きたいのです」


 古代の遺跡、それはダンジョンとも呼ばれていて…いくつもの階層が地下に向かって伸びているものである。最初の世界にも二次元世界でこそあったが…そういったものの存在があったことは事実であり、そのダンジョンと何ら変わりのない物である。

 唯一の違う点が魔物の有無だ。この世界にはそもそも魔物がいない。冒険者とという職業があまり認知されていないのもこれが原因だ。


 私たちがよく知る冒険者とは程遠い存在となってしまっているのは、今の僕たちを見れば一目瞭然だろう。


 であるのなら、ダンジョンには一体何があるのか…。かの有名な"四色方位群"の調査によるとダンジョンには罠とダンジョンを守る役割をしている守衛がいるらしい。

 これは単なる噂だが、ダンジョンの最下層にはお宝があるんだとか…。


 「何の目的があって私たちにそれを頼むのでしょうか」


 「率直に申し上げましょう、私は貴方達に視察をお願いしたいのです、私は今とある物を探していましてね…それがどうやらこのダンジョンにあるらしいのです」


 真剣な面持ちでそう語るオールにマールネさんは躊躇せず言葉を返した。


 「つまり、捨て駒という訳か」


 「平たく言えば……ですが、危険と分かり次第逃げてもらっても構いません、それに報酬も一応、二億ゾルとはしましたが、それ以上を望むのなら可能な限り、私の懐からお出ししましょう」


 「少し時間をくれないか」


 マールネさんはそう言いながら少し口を尖らせて席を立ち、握った手の甲から親指を出して扉の方に向けると一言も喋らずに扉に手をかけた。


 俺たちはその合図に頭を縦に振って応え、マールネさんの後についていき、皆が扉の外に出た。一人の青少年と一人の老人を残して…。



 「どうしたんだ?」


 最初にそう切り出したのは素知らぬ顔をしたギガルテだ。


 「言わせるな、お前も気づいてるだろう」


 マールネさんのその一言で皆が推し黙った。皆が気づいているにも関わらず、何も話そうとしないのは俺と同じ理由なのだろう。


 あの商人には生気が感じられなかった。俺たちへの殺気も出ていなければ、喜怒哀楽すらあの商人には感じなかった。まるで機械のようだった。


 「あの商人…それに執事もだ。あいつら、俺たちの命なんてどうでもいいって顔してやがる」


 ギガルテは唇を少し噛んでそう呟いた。ギガルテですら彼らの本性を見破っていた。正直嫌な予感しかしない。


 たが、断るわけにはいかない…もし、奴らの思い通りにはならずに報酬を受け取れるのなら…。貧乏な俺たちにとっては、これ以上いい話はないだろう。


 「君たちの意見を聞きたい」


 マールネさんのその問いに皆が順々に答えていく。皆が私感あるいは私見を述べた。


 「これは単なる僕自身の意見だけど…やめておいた方がいいと思う…なんだか、悪寒がするし…」


 と、珍しく弱気なアポカルト。それに続いて鼻息を荒々しく吐いたギガルテが。


 「俺はいいと思うぜ!あいつらに面食らわせてやりたしいな!」


 最後に俺は一言だけ。


 「俺はマールネさんについていきます」


 一見、責任を放棄しているように見えるかもしれないがちゃんといろいろ考えた結果だ。結局、俺は新人でしかないし。彼らの行先を俺が決める訳にはいかない。


 俺はマールネさんたちの意見を聞いてそれに従うだけだ。



 マールネさんはしばらくの沈黙の後に、覚悟を決めた顔で俺たち三人を見て再びドアノブに手を掛けて、扉を開いた。


 マールネさんは虚空を見つめていた商人を視線を釘付けにし、一つの言葉を……いや、選択の結果を口にした。


 「依頼…受けさせてもらおう」


 




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