第十話 淵帝の使者『天舛』
「……」
しばらくの沈黙の後に今起こった現象を理解した。先程私は道化師ジェスターから謎の飴を無理矢理飲み込まされたかと思えば、武士と名乗る
私はそれに目を奪われながらも、体を再度触れてみる。やはり角はない。豊満で無駄な胸もない。詳しいことはジェスターから聞いたが、どうやらこの体の主と私の意識は死ぬたびに入れ替わるようだ。
ジェスターが言うには宝石を食べて手に入れた新しい力によるものらしい。些か理解に苦しむが…。
「……」
ロヌス・エーテルは少し考え込んだ。普通、人というものはこういった突発的な行動に少しながら戸惑うはずだ。だからこの行動は当然なものだ。
しかし、彼女は違う。本来であればこういう突発的な出来事に関しては理解する思考もせずすぐに行動に移すタイプなのだ。単純に馬鹿だからとか…そう言うことを言っている訳ではない。
こういった感覚を持つのは生得的によるものだ。エーテル含めた龍人の全てに言えることで、言わば人間でいう反射的なものなのだ。龍人のその感覚は人間の反射より優れたものだ。
そんな彼女がこうして深く考えるのはこの場所が安全だと認識したからである。見るだけで悍ましいこの空間を龍人は安全だと認識したのだ。
何故か?理由は単純。この体の持ち主は普通に人間だからだ。彼女はきっとこの体は龍人と同じ感覚だと思っているのだろうが、そんな訳ない。
これつまり、彼女は今完全無防備状態なのだ。
この先に起こりうる出来事に抗うことが出来ないのだ。
「ここで待っていても仕方がないか」
龍人エーテルは一歩一歩と歩みを進める。途中、人が首を吊っていたのが見えた。彼女はそこで足を止めた。
「これは…魔力?」
首を吊った死体から魔力と呼ばれる生物が魔法を使う上で必ず必要になるものがそこからは漂っていた。
ジェスターからはここは異世界だと説明されたが…。どうやらこの世界にも魔力は存在していたようだ。ならば、もしや魔法も?
いろいろな憶測が彼女の中で飛び交っていた。終わることのない自分との論争に諦めかけていた。その瞬間。
一秒にも満たない頭痛が起きた。
何が起きたかと、自分の頭に触れると…。さらに強い頭痛が絶え間なく起こり始めた。その頭痛により、思わず膝を地につけ、頭を抱え込んだ。
「何だ…これは…っ!」
金色の光、それらが自らの頭を貫き、入り込んでくる。想像を絶する痛みであったのだろう。彼女は意識を取り戻すことも出来ず、そのまま気絶したーーー
ーーーー大量の記憶が駆け巡る。自分が何者なのかさえ分からなくなる程の情報が彼女の脳内を駆け巡った。かなり朦朧とした状態で外側から見れば記憶喪失の状態と一緒に見えるだろう。
周囲の状況など見ることすらせず、自らの脳内の情報の取捨選択を着実に行うことに集中した。やがて記憶が鮮明になってくる…。自分が何者なのか、ようやく思い出してきた。友に裏切られ、彷徨い続ける哀れな女。それがロヌス・エーテルであると。
無の空間にいたような感覚が解け、ようやく現実の世界に戻ってきた気がする。一つ、瞬きをすると一気に視界が広がった。
辺りを見渡せば、そこには見慣れた景色があった。友、アラマスと出会うまでは長い間ここにいた。
「遺跡…」
通称ダンジョンと呼ばれる場所だ。……待て。
「何故私はここにいるのだ?」
体の全身が疼いた気がした。本能が言っている。考えるな、手を動かせと、これは紛うことなき脳からの信号。
咄嗟に一歩退がり、前を向いた。そこには邪気を見に纏い、奇妙な面をつけた"何か"がいた。
その何かがつけたいたお面は純白に包まれており、口を異常な程に歪ませ、不気味な笑顔を浮かべている。そのお面からは黒い霧が吹き出ており、まるで人の形を模しているかのような何か。見ているだけで全身が逆立つような感覚に襲われる。
私は…"これ"を知っている。
出会ってはならないと呼ばれた存在であり、数十年前、最強の部隊と呼ばれる"四色方位群"により目撃されたのが最後だった。
そして、"これ"はこう呼ばれていた…。
深淵から来た帝王の使者が天に叛く、という意味を込めてーーー淵帝の使者『
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