第五話 炎国の冒険者
「思い出せたかな?( ̄∇ ̄)」
ジェスターは俺の記憶の安否を問うた。俺はそれに小さく頷き、やや体を前に倒しながら手を組んだ。
「あぁ一応…てか、今の一体何だったんだ?何か誰かの記憶?みたいなのが流れて来たんだが?」
「君の見たまんまさ!(^◇^)その記憶は君の元の体の持ち主の記憶だよ!ほら…彼女の名前、今の君なら分かるでしょ?」
ロヌス・エーテル。記憶の中に出て来た名前、あの記憶では誰かが俺…いや彼女をそう呼んでいた。
そして俺は見た彼女の死の瞬間も。あの武士に斬られ、視界が暗転した出来事を俺は見たんだ。それだけじゃない。
ジェスターとの関係性も分かった。最初にジェスターと出会った場所に横たわっていたのは友人であり、そして、どうやらその友人の師匠であるらしい。
「この現象はエーテルさんの方でも起きてるのか?」
言葉の中にさりげなくジェスターの欲していた答えを織り交ぜつつ俺は疑問に思ったことを真っ先に口に出した。
「さぁ?多分…起こってるんじゃないかな?( ̄∇ ̄)」
「えぇ…無関心にも程があるでしょ…」
あまりに投げやりな答えが返ってきたのでそれに呆れながらも俺はひとまずこれからどうするかを聞いてみた。すると、ジェスターは相変わらずの笑顔でこう言った。
「僕と君はこれから別行動だよ!✌︎('ω')✌︎」
「別行動?…え?いいのか?だって…お前、何か目的があるんじゃ…」
予想外の回答に戸惑った俺は惨めに口をパクパクさせながら、ジェスターに真意を求めたが、ジェスターはそんな俺の口を人差し指で抑えるとまるで分かってましたと言わんばかりの表情でこう言った。
「目的はもちろんあるよ!でも、わざわざ毎回君に頼る必要はないの!!(^。^)僕の今の作戦に君は必要ないってことだ!」
「じゃあ…俺の好きにしてていいのか?」
「もちろん!冒険者になるもよし!英雄になるもよし!世界の反乱者となるもよし!元の世界にその体で戻ってみるもよし!そして!本当に死ぬもよし!」
「いや、死ぬのは駄目だろ」
クソ程つまらないツッコミをした俺であるが、そんな俺の心の中は今、最高の幸福感に包まれていた。待ちに待った異世界ライフを送れるというのだ。嬉しくない訳ないだろう!
「なら、質問いいか?」
「何かな?(・∀・)」
ジェスターはきょとんとした表情で首を傾け、俺に問うた。
「冒険者にはどうやってなったらいいんだ!!??」
俺はそう言った。自分から自分の顔を見ることは出来ないが、間違いなく口角が上がっていて、恐らく俺の顔には“楽“と書いてあるのだろう。
「あ!(^^)ちなみに異世界人だってことはバラさないでね!君の見た目はあくまでもエーテルなんだから!(^。^)」
⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎
俺は今、灰色に身を纏われた石畳の上を歩いている。
そして周囲を見渡せば、…無数の
それらはまるで中世ヨーロッパを彷彿とさせる景色だった。日本からでは見ることが出来ない景色に俺は高揚感を得ていた。
ここがジェスターの言っていた…。
「この国の名前は確か…」
俺は何とか高揚感を抑え、この体の元の持ち主であるエーテルの記憶を辿り、答えを導き出そうとした。
その瞬間、突如右隣に気配を感じたかと思えば、耳が割れそうになるほどの爆音でその人物はこの国の誇りとその名をを呼んだ。
「灼熱を司る王を元に栄えた国!」
「うわぁぁぁぁ!?」
「代々の王は一人を除き、灼熱を司る三心を得ていた!その代々の王に忠誠を誓う我々国民によって成り立っているこの国の名!灼熱を意味する言葉からあやかられたラヴェンナ帝国!」
唐突に真横大声で叫ばれたのだから、驚かない訳がない。
俺はドクドクと鳴る心臓を触るように手に胸を置いた。そうして何とか冷静を取り戻し、隣に居た人物に少しの畏怖の念を持ちつつも話しかけた。
「えーと…誰ですか?ていうか何でわざわざ公用語で?」
公用語…最初の世界では英語みたいなのがそれに当たるが、この世界ではもちろん違う。この世界の公用語はコルプス語である。このコルプス語を使えば大体の人と会話は可能だ。
エーテルさんの子供の頃の記憶にそれを母に教えてもらっていた記憶があった気がする。だがしかし厄介なことに、子供の頃の記憶など大人になれば忘れるも当然だ。だから詳しくは思い出せなくても仕方ないものだろう。
そんなことを知ろうとするよりまずはこの目の前にいる男からの回答を聞く方が大事だ。
「そりゃぁもちろんあんたの………いや…まぁ服装!服装が外国人っぽいからだよ!ていうかそんなこったぁどうでもいい!」
大男が何かを言おうとすると、ハッと何かを感じたのか、恐らく俺の頭に生えてるであろう角を見つめるとその男は一呼吸置いて話を無理矢理すり替えた。
何か隠したいことでもあるのか、それともただ単に気を遣ったのか…。もしや、この角か?そんな疑念は当然その大男には聞こえていないので、大男は言葉を続けた。
「聞いて驚け!俺様は冒険者組合に所属していて、その中でもSクラスの座に付く者だ!」
「えーと…Sクラス?冒険者組合?」
俺は聞き覚えのない言葉を復唱し、その男にそれは何かと問うた。そうすると、その大男は呆れた表情でこう言った。
「おいおい…知らねぇのかぁ?」
その男がそう言うと、痩せ細った眼鏡女が見るからに体格に差がある筈のその大男を軽々と突き飛ばし、俺に向けて謝罪の意味を込めた一礼をし、大男の方を向いてこう言った。
「知らなくて当然です…冒険者組合は二日前に出来たばかりじゃないですか…外から来た人は名前すら知らなくて当たり前です」
「えーと貴方は?」
「あ〜…すみません、名を名乗るのを忘れていました…こっちの大男がギガルテ、そして私はマールネと申します」
その礼儀正しい眼鏡はそう言って左手を差し伸べて来たので俺も左手を伸ばして互いに握手を交わした。そうすると、少し嫌そうな顔をした大男…ギガルテは俺の肩を叩いてこう言った。
「…!それなら!…いや、何でもないです」
ギガルテが何かを言いかけて口を噤んだのでどうしたのかとふと目を右に向けてみれば、そこにはギガルテを睨みつける怒り顔のマールネがいた。
俺はとっさにその光景から目を逸らした。
どうやら第一印象とは違う認識を持ちながら対話を望まないといけないようだ。
「あ…あのぉ僕冒険者になりたいんです。その冒険者組合って何処にあるんですか?」
俺がそう言うと口を噤んでいたギガルテが目を光らせ、俺に近寄ってきた。
「本当か!?…それなら……ぁ…」
ギガルテが何かを言いかけた瞬間にマールネがギガルテを押しのけて、考えているのかは分からないが、しばらく手を眉間に当てるとこう言ってきた。
「本当に冒険者になりたいんですか?」
「は、はい!」
「……はぁ…分かりました、ギガルテに脅された訳ではないのですね…なら、こちらに……」
マールネは溜息混じりにそう言うと仕方ないと言った表情で俺を冒険者組合本部へと連れて行ってくれた。
そして俺は冒険者組合本部に着いた。いよいよ冒険者組合本部を見ることが出来る!そう思っていたのだが……こんなこと言っちゃいけないのは分かってるんだが、言わせてくれ!
今にも崩れそうな木材で作られた建物…。
「ボッロ…」
なるべく抑えようとしたが、つい我慢出来ずにそう言ってしまったが、マールネはその発言に聞き慣れたのか特に何の反応もせずこう言った。
「これでも、まだ冒険者をやりたいと思うのか?」
確かにこんなボロい家見たら、果たして儲かることが出来るのかと不安になるだろうな…。仕方ない、冒険者は諦めるか…。
な訳あるかよ。
「そんなの決まってますよ、これだけの理由で冒険者を辞めたいと思わないですし!」
むしろ、こういうどん底状態からやる方が面白いでしょ!
ーーー最初こそ、俺はそう言っていたが、この先には更なる地獄が待っていた事に俺は知る由もなかった………。
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