13
白い蛇の流した涙によって、白い蛇を焼いていた美しい炎は消えた。
白い蛇は、赤い目をゆっくりと閉じて、……その暗い闇の中で息絶えた。龍子は白い蛇が息絶えるまで、ずっと、その白い蛇の姿から目をそらすことができなかった。
白い蛇の死体は、その真っ暗な闇の中に残された。
白い蛇の体が、蛇の命が失われ、その魂がその体から離れたあとであっても、なぜか今も、真っ暗な闇の中で、淡く白い光を放ち続けていた。
龍子は闇の中で立ち上がり、ゆっくりと歩いてその白い蛇の死体に近づいて、そっと、その白い蛇の体に手で触れようとした。
……そうすれは、自分があのいまさっき自分の眼の前で息絶えたばかりの『白い蛇の死体』と完全に同化できるのではないか? と龍子は思ったのだった。
美しくなりたい。
あの、白い蛇のようになりたいと思った。
美しい炎の中で、美しくもがく、美しい白い蛇のように、……美しくこの世界の中から消えていきたいと思った。
龍子のふるふると震える指先が、ちょっとずつ、でも確実に、その白い蛇の死体に近づいていく。
……もう少し。
あと、……ほんのちょっとだけ。
そう龍子が思って、にっこりと笑ったときだった。
誰もいないはずの龍子のひとりぼっちの闇の中で、ふいに龍子の白い蛇の死体に指先を伸ばしているほうの手ではなくて、その反対側にあるもう一つの手を、『誰かがしっかりと捕まえた』。
え?
龍子は、驚いて後ろを振り返った。
そこには真っ暗な闇の中で、かすかにだけど、その『見覚えのある』女の子の手が見えた。
龍子の目にはその女の子の手だけしか見えない。
その自分の片手をしっかりと捕まえている女の子の見覚えのある手を見て、美鷹ちゃん? と龍子は思った。
するとやがて、完全な闇に支配されていた、真っ暗な龍子の夢の中の夜の中に、うっすらと淡い、綺麗な、きらきらと光り輝く粒子のような、そんな一筋の白い光が差し込んだ。
その突然の白い光は、……その闇の中にいる女の子の姿を、龍子の目に見えるように、……しっかりと、闇の中に照らし出してくれた。
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