龍子は思わず足を滑らせてしまった。

「あ」

 と言ったときにはもう遅かった。

 暗い夜の中で龍子は自分の足元に空いていた『大きな空洞』の中に落ちていった。

 落ちる。

 ……とても高い。

 どうしてこんなところに大きな穴があいているんだろう?

 この高さから落ちたら、私は助からないかもしれない。

 もし助かっても、足を怪我してもう一歩も動けなくなってしまうかもしれない。

 そうしたら、もう美鷹に会えないかもしれない。

 そうしたらどうしよう?

 はってでも、会いに行こうか?

 大地の上を。

 まるで、……蛇のように。

 大地の上に落っこちるまでの間、その恐怖で気を失うまでの間に、龍子はそんなことを考えていた。

 美鷹ちゃん。

 ……どこにいるの?

 寂しいよ。

 苦しいよ。

 ……ひとりぼっちはもういやなんだよ。

 龍子は泣いている。

 泣いている龍子は、そのまま大地の上に落っこちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る