第二章 8 『クラリアス』


 依頼を果したリア達は、クロスティア学院の南口から回収したクラリアス達を運びこむ。


 その中には大きな荷物をいくつも運び込める程の昇降機があった。昇降機と言っても、その向かう先は地下のみである。

 クロスティア学院の地下は研究施設などが存在する巨大な空間であり、特殊な用以外で立ち入ることはまずない。


「もう慣れたけれどさ、学院の施設ってすごいよねー。フェルズガレアの風情というかなんというか、全く別世界って感じ」


 巨大な昇降機に立つルミナが辺りを見渡す。

 下降しているにもかかわらず振動が一切伝わってこない。動力源は魔力だろうか。


「そうだね、フェルズガレアで一番の施設と言われてるだけの事はあるね。アストルディアとの正式な関わりもあるし、アストルディアの技術も使われているのかも」


「アストルディアかぁー、どんなところなんだろう」


「天空に存在する未開拓領域を除いたフェルズガレア全土よりも少し小さな土地。そんな大きな土地が自分達の空の上にあるなんて信じられないよ」


「天空にあるけれど、世界としては分離していて、境界線を超えない限り視認することも出来ないとかなんとか。確かフェルズガレアからアストルディアへ行く人も結構いるんだよねー」


 ルミナは普段聞いていないようで興味ある講義の内容は割と覚えているタイプのようだ。


「うん。なんでも、王都アスティルフェレスってところには選りすぐりの実力者が集まっているらしいね。この場合の実力者とは権力者、大富豪も含まれるけれど。 逆に、アスティルフェレス外部の土地には、フェルズガレア上がりの者や普通の人々も暮らしているとか」


「アスティルフェレスの暮らしってどんな感じなんだろうなぁー。街並みはどんななんだろう。行ってみたいなぁ」


 ルミナは目を輝かせながら想像を膨らませる。


 フェルズガレア取り巻く劣悪な環境。その中で生きる限り戦い続けるガーディアン。その使命を烙印の如く刻まれたクラリアス。


 もしも、この枷を壊し綺麗な世界で暮らせたのなら。

 きっと私は幸せだろう、と。


「そうだね、私も上界がどんな場所かは一度は見てみたいな。……と、到着したっぽいね」


 昇降機が静かに停止すると、正面の大扉が自動的に開く。そこは地下最下層、一面全てがクラリアスに関する研究施設である。


 昇降機から続く広い通路を奥まで進んで行くと、円柱状の巨大な空間が存在した。昇降機で降下していた時間が長いだけの事はある。

 壁沿いには円柱のガラスのような入れ物に液体が注がれた入れ物である大量のリスティルアークが並び、その中には小さな少女がいた。


 クラリアスの器となる肉体はリスティルアークの中で六歳ほどまでに成長させる。その肉体にクラリアスの核であるニュークリアスを定着させることでクラリアスとなるらしい。

 だが、ニュークリアスを定着できる程の肉体、心を持つ生物と同一レベルの器は一体何によって維持されているのだろうか。


「なんか、久しぶりに来たね。改めて見るとなんて言うか……」


 リアは周囲を見渡し、ふるふると首を振る。


「気味が悪いよ。この中の一人が私だったんだから」


 ルミナは目を伏せる。

 リアもルミナも当初はクラリアスとして生まれたばかりだったせいか、今感じる感情は当初と大きな差異があった。


「あれらはただの器。肝心なのは心だ。他のどんな生物だって、心がなければただの器だよ」


 背の高い一人の女性がこちらに向かって歩いてくる。

 明るいブロンズ色の髪で、赤紫色の瞳はクラリアスの特徴的な目をしていた。

 一つ異なるのは特徴的な瞳でありながら、リア達には無い刻印が刻まれていることである。


「ティシュトリアさん」


 真っ先に声を上げたのはリアだった。

 リアはクラリアスとして生まれてからガーディアンとして施設へ移動になる時期が他のクラリアスよりも遅く、その分ティシュトリアとの関係も深かった。


「こんにちは。リア、ルミナ。それと、オムニシアの子らもお疲れ様」


 リアを見るティシュトリアの目は優しげに見えた。


「ラミエナ、回収されたクラリアスをへ運んで」


 ティシュトリアの助手を務めるラミエナは肯定し、クラリアスの積まれた荷物を運んでいく。リアはその様子を最後まで見ていた。

 破損したクラリアスは回収部隊により回収される。その後クラリアスが具体的にどうなるかはリアは知らない。

 蘇生可能と言う噂は聞くものの、今までに蘇生されたクラリアスを見たことがないからだ。


 ティシュトリアは「リア、どうしたの?」と、ぼーっと考え込むリアを心配する。


「クラリアスの回収に携わったのが今回初めてで、考えたことも無かったけれど、回収されたクラリアスはその後どうなるのかなって」


 クラリアスの回収部隊の護衛は基本的にファースト以上のクラリアスに限定される。故にリアとルミナが任命されたのである。


「君達はクラリアスだから話しても問題ない。ただ、その選択肢はあなた達にあげる」


 ティシュトリアの話を聞くリアは未だに考えを巡らせていた。回収部隊のクラリアスは無表情だが、無論知っているだろう。

 ルミナは複雑な表示をしていた。リアと同じく、ファーストになったばかりであり、回収部隊の護衛をするのは初めてであるはず、それでも何かを知っている、そんな気がした。


 リアは「聞きたいです」と、真剣な眼差しで答えた。

 たとえ後悔することになっても、私が私自身を知るために真実を知ることに躊躇はなかった。



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