第二章 7 『小さな少女の優しさ』
静寂の中、リアの光魔術が空間を優しく照らしていた。
「よし、これだけ話し込んでても何も起こらないんだし、脅威もいないでしょう。手分けして探そうか。何かあったらすぐ声出してね」
リアの案を承諾し、目的のガーディアン五人を探すことになった。
リアとルミナは回収自体したことがないため、見つけ次第報告。アリス達オムニシアは見つけ次第データを取り回収と言う手筈だ。
リアの魔法のおかげで視界も良好、広さもそこまで大規模では無いため探索は捗ったこともあり、程なくして空間ほぼ全域を探索し終えた。
「私達はクラリアス三名を回収しました。いずれも身元がわかる状態ではありませんでしたが」
「私の方は一人も見つからなかった。ルミナが見つけたみたい」
「一人見つけたよ、完全に機能は停止してるけれど、損傷具合はそこまでじゃなかった」
ルミナに「こっちこっち」と誘導され、アリス達は目標地点へ向かう。
「これで四名ですね。あと一人いませんが」
探索に出たガーディアンは五名だ。
危険度の高い依頼であれば、五名ともクラリアスによる構成であると推測していたのだが、違うのだろうか。
「状況を整理しようか。まず、四名のクラリアスを回収済み。この遺跡に探索に来たガーディアンは五名。考えられる可能性は大きく三つ。一つ、クラリアス一名がまだ生きており、どこかに避難している。二つ、その一名がクラリアスでなく、生きて避難している。三つ、その一名がクラリアスでなく、既に死亡している」
光魔法で生成した光源のひとつを手で弄ぶリアの話を聞きながら、アリスは光源を目で追っていた。
「そうだねー。五人のうちの四人がこの様子だし、一人だけ逃げている可能性は低いんだじゃないかなー。
とすると、リアが言う必然的に三つ目になるよね、ただ……」
「──この人達がやられた理由が分からない」
ルミナの言葉にリアが続いた。
「言いたくないけれどさ、それって残りの一人がこのクラリアス達を壊したってことじゃない?」
「で、でも、生物がゼノン化するには前提として心を失う、すなわち死を意味するわけで、外的要因がなければそんなことにはならないんじゃ.……」
「そう。不可解なのは、残りの一人がゼノン化してクラリアス達を壊滅させたとすると、誰がその一人を殺したのかって言う話だね」
「ちょ、ちょっと、待ってよ。その残りの一人がゼノン化して仲間を壊滅させたとは限らないじゃない」
リアは否定したかった。
ルミナの言うことは理解出来る。ガーディアン四人を壊滅させるほどのゼノンと化すには、元よりそれなりの能力を有した者である可能性が高いからだ。つまり、それなりに能力の高いガーディアンということ。
もし、下界を守護するガーディアンが戦いに敗れ、本来の脅威であるゼノンと化し、味方を壊滅させてしまったとしたら。
私達はなんのために戦っているのだろうか。
「あ、あの……」
そんなリアの思考を遮ったのは、アリスだった。
リアは「どうしたの?」と確認する。
「このクラリアス達の損傷を確認しました。
私達はもう何千体ものクラリアスを回収しているので何となく分かるのですが、損傷を見る限り戦いを躊躇した形跡が見当たりません」
「アリスちゃん、私達はガーディアンだ。仲間がゼノン化したって、殺さなきゃいけなければ殺すんだよ」
ルミナは小さな少女に冷徹な表情を向けた。それはきっとルミナなりの優しさなのだろう。
「それは、違います。確かに殺すことはできるでしょう。それでも……いくら自分を偽ろうとも、事実は心に傷として刻まれます」
はっきりと言い切るアリスの瞳には曇りひとつなかった。
その言葉の本質はアリス達にしか理解できないだろう。だが、本質を理解せずとも、言葉の重みは二人を説得するには十分すぎた。
「事実は心に傷として刻まれる……か。私達には響く言葉だね……」
ルミナは柔らかな表情をしていた。
心は無形である。
魔道式戦闘人形『クラリアス』。
心の在処は誰もが探し求めてるはずのもの。その一端を垣間見たとするならば、それはとても価値のあることだ。
リアは「アリスちゃん、ありがとう」と、ほっとしたように胸を撫で下ろした。
「これが私達の仕事なので」
アリスは目元で分かるように微笑んだ。
一つ嘘をついた。
四人のクラリアスと離れた壁沿いに位置する場所に落ちていた短剣のことである。
短剣には名前が刻まれていた。名前は壊滅した四名のクラリアスのうち一名の持ち物と同じだった。
その短剣が何故そのような場所にに落ちていたのか。
クラリアス四人を壊滅した存在を誰がどうやって倒したのか。そして、倒した残りの一人ははどこへ行ってしまったのか。
果たして、さほど実力差の無い一介のガーディアン一人に、クラリアス四人を壊滅させた存在を倒すことが出来るのだろうか。ゼノン化したガーディアンが自我を保っていたとすれば、あるいは……
真実は分からない。
ただ、無慈悲に放棄された短剣が、その切先がこちらを向いていた。
何かを語りかけるかのように。
ただ、静かにその答えを示すかのように。
「アリスちゃん。回収後は多分クロスティア学院へ向かうんだよね? 準備出来たら向かおうか」
リアに無言で肯定したアリスは真実を胸にしまい、後を追っていく。
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