第一章 6 『神秘に満ちる』
リア達は、目的の大空洞に繋がるであろう入口に足を踏み入れる。
そこは薄暗く、直線でありながら出口がはっきり見えないことから、それなりの距離があることが推測出来た。
ぽつりぽつりと点在する結晶のようなモノが発光し、足元をほのかに照らしている。
しばらく歩いていると、周囲は徐々に明るくなる。
出口付近は、差し込む反射光により青白い光に包まれていた。
「あれ出口だよね…もしかして外に出るのかな?」
その光景は、リゼが外に繋がる出口と錯覚してしまうほどだった。
確認するように小走りでリアは出口へ向かう。
「なに……これ……」
出口に立つリアは呆然と立ち尽くしていた。
目の前に広がる空間は地下とは思えないほど広大で、至る所に存在する大量の結晶は発光し、神秘的な空間を作り上げている。
リアに続いて出口を出たリゼ達もまた、その光景に目を奪われていた。
「きれい……だけれど……」
ルミナは小さく声をもらす。
いつものルミナなら飛びつくような光景だが、そうさせない確たる理由が存在したのだ。
一面が青の神秘に塗られた空間。
その光景はあまりにも美しかった。だが、何かおかしい。
それはここが不可侵領域であるからだろうか。
不可侵領域とは、ガーディアンを統括する上層部が定めたものであり、実態は不明である。故に、領域内であることが原因で何かが起こる、とは考えにくい。
だとすると、特別なのはこの空間そのものだろうか。
「あれは……」
リゼは辺りを見渡すと何かを見つける。
そこには人体の一部が乱雑に落ちていた。腕、足、どこの部位が分からない破片。
見た目はヒトの身体の一部だが、腐敗は進んでいなかった。否、問題はそこではなかった。
「なんで……なんでヒトの身体が……」
「行方不明になったクラリアスの部隊だろうね」
ルミナは怪訝な表情をする。何度見た景色か、クラリアスにとっては衝撃的でも悲観的でもなかった。
それでも、何度見ても気分の良いものであるはずがない。その感情のギャップが今のルミナの表情をつくったのだ。
リアは人体の一部を確認するように調べる。
何かを探しているようにも見えた。その仕草は心做しか必死に見えた。
探し終えたリアは諦めたように、
「……完全に壊れてる」
冷徹な声色は、切り取れば業務報告か。または、自らの感情を押し殺すが故にそうなってしまったのだろうか。
「ちょっと待って、完全に壊れてるってどういう意味? そもそもなんで死んだ人の一部が残っているの?」
リゼは取り乱す。そこまで大きな声では無いが、地下の広大な空間は声を反響させた。
リゼは恐らく、完全に破損したクラリアスを見たことがないのだろう。
生物は死亡した時、例外を除きゼノンへと変質するか、その肉体は完全に消滅する。肉体がそのままの形で残っていること自体不自然なのだ。
「クラリアスは魔導式戦闘人形……『──命として定義されていないんだよ。』」
ルミナが言いかけると、冷徹なリアの言葉によって遮られた。
生物として定義されていないと、その事実を世界のシステムが物語っている。生物として世界に否定された存在というやつだ。
リアにとっては当たり前のことだが、到底納得は出来なかった。
「そんなっ……でも……」
リゼは否定する言葉を探素が見つからない。
リアが、ルミナが、心を持っている生物から外れた存在であるはずがない。
自分と同じ志を持ったガーディアンとして世界を守っているのに。戦っているのに。その世界が、リアたちに心なきものであると、そう言っているのだ。
「そんなことより、クラリアスが完全に壊れるなんて普通じゃないんだけれど、これをやったのはアレでいいのかな」
ルミナは場を整えるように呼びかけ、ある一点を指さす。
大量の結晶が一際目立ち、中央には天井まで届く程の巨大な結晶。その中心、結晶の中に囚われたヒトの姿があった。
そのヒトは、白髪で中性的な顔立ち、一糸まとわぬその姿はおそらく少年であることが推測できた。
神秘的なこの空間で結晶に閉じ込められた少年の姿、その光景を一枚の絵として切り取ったのであれば、名画と賛美されるほどに神聖で美しかった。
「きれい……もっと近づきたい。もっと近くで……見たい……」
タリアは進む、神聖な光景に目を奪われ、少しでも近づきたい。そんな感情が背中を押したのだ。
リア達も同じ感情はあった。
それでも、神聖な以上にとても不気味、不吉な、禍々しいなにかがその裏に常に存在するような予感がした。幸せな夢の最高潮で、どん底に突き落とされることを予知する時の感覚にも似ている。
何も起きて欲しくない、このままであって欲しい。そう願う他なかった。
「あぁ……なんて美しいの……神様……」
タリアは進める足を止めなかった。もう自制が聴くような状態ではない。
「タ、タリア!! 気をつけたほうがっ……」
リゼが感情を振り払い、忠告する。
──刹那、タリアの胸は背後から貫通され、四肢は飛散していた。
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