第一章 5 『神樹の導』
リア達は神樹麓の大空洞に繋がる地下迷宮に辿り着いた。
地下迷宮は様々な位置に点在し、古代から形状を残したと言われている。
フェルズガレアにおいてガーディアンが主に活動する範囲内の多くは、ある程度探索済みであり地図も存在する。
「なんだか不思議な場所だね。神樹の付近にこんなに大きな迷宮があっただなんて知らなかった」
地図を見ながら黙々と進むリア達の静けさに耐えかねてリゼが言う。
リアは「そうだね……」と肯定するが、言葉につまる。
何かを言いたそうにしているリアをルミナは優しい表情で見ていた。
「……あのね、リゼ」
「どうしたの?」
リアはゆっくり目を閉じ一呼吸おくと、
「リゼが今回私達についてきてくれたこと、考えても理解できなくて。でもね、なんだかここがほっとしたというか、嬉しいんだ。危険に巻き込んでるんだから、そんなこと思っちゃだめなのにおかしいよね」
何かを確かめるように胸に手を当てる。
分からない。
けれど、冷めきった胸の内は確かに僅かな熱を帯びていた。
「おかしくないよ。そもそも、私の行動は本来褒められたことじゃないんだから。これは私が自分の意志を守るためにやっているんだ。だから、私のわがままなん……」
リゼは唐突の衝撃に「──きゃっ!!」と、身体を震わせる。
その衝撃は優しくも、柔らかった。
後ろからルミナに抱きつかれていた。
「二人とももどかしいなぁ。リゼのそう言うところ好きだよ。もしリゼに何かあっても私が守ってあげるからさっ、任せなさいっ!!」
柄にもなく張り切るルミナ。
嬉しくも、もどかしい気持ちはリゼの背中に向かったのだ。
そんな三人のやり取りを他のメンバーは微笑みながら見ていた。
「それにしても、魔獣もゼノンもいないですね。まあいない方が良いに超したことはないのですが」
アルテアは辺りを見渡す。
魔獣とは自然に生息する生物であり、その肉体には心を宿しているとも言われている。知能が低く、攻撃的な個体も多く存在する。
ヒトを含めた心を宿した生命は、例外を除き魔力を生成、消費することができる。
魔力を消費する手段は多岐に渡るが、その大半は消費することなく生活している。むしろ、リア達のように異能力を行使できる存在は少ない。
一概に心と言っても、その実態はエネルギー体とも言われており、その副産物として、感情や意識が芽生えるという説もある。故に、心を持つものは、異能力を行使できる素養を持ち合わせているのだ。
「逆に不安になってくるね。帰ってきていないガーディアンも気になるし……」
リアは不安の色を露にする。
洞窟の天井から滴る雫の音が、微かに聞こえる風の音が、不気味に感じた。
「たしかクラリアスの部隊だったよね、何か情報は入ってきていないの?」
「それが全然なんだよねー。クラリアス専任の任務であれば、リゼが編成に入ることは不可能だっただろうし、本当に未知の探索って感じ」
ルミナは呆れるように答える。
クラリアスがわけも分からない探索を強いられるのはいつもの事であり、深く考えるだけ無駄だ。
しばらく歩くと、もどかしそうな顔をしていたルミナはついに足を止める。
「ねえ、ねえ。この結晶みたいなの綺麗だよね、ちょっと持って帰っても良いかな?」
そわそわしながらリアの肩をつつく。
ルミナの瞳は結晶にも劣らぬ輝きを宿していた。
「ルミナって意外に女の子っぽいところもあるんだね」
リゼがにやけ顔で言うと、ルミナは赤面する。どうやら押しに弱いタイプらしい。
「ルミナってほんとキラキラしたものに目がないよね。確かに見たことない素材だね。何かのためになるかもだし、少しくらい大丈夫じゃないかな」
リアは特殊な道具をルミナに渡す。
小型で鋭利な槌のような形状で、衝撃時に一点に魔力を集約し力を倍増することで、鉱石を砕くことが出来るのだ。
ルミナは「よしきた。せーのっ」と、ウキウキで作業を始める。
「……って、、あれぇ……、。全く砕けないどころか傷すらつかないんですけれど……」
「使い方合ってる? 原石ならオリハルコンでさえ時間をかければ採取出来る道具だよ」
リアは信じ難いと言わんばかりの表情。
それもそのはず、オリハルコンと言えば、加工後は最高の硬度を持つ物体へと変化する自然に存在する鉱物であり、自然界で最も強固な鉱物とも言われているのだ。
それを砕ける道具で傷さえつかないとは正直信じられない。
「合ってるよ!! すごく気になるけれど先に進むしかないなー。残念」
ルミナは落胆するが、諦めたように先に進み始める。
しばらく進むと、リア達は開けた場所へ辿り着く。
そこは先程と変わって地面や壁の至る所が砕けており、激しい戦闘が起きていたことが推測出来た。
「ここで戦闘があったようですが、様子を見る限り大型の魔獣と言ったところでしょうか。ゼノンがこのような場所にいるとは思えませんし」
タリアの説明を聞いた後、リゼは推測するように、
「探索に出たガーディアンが帰ってきてないって話、これをその子達だやったんだよね。大きな血痕もないし、かなりの手練だと思うけれど、どこに行ったんだろう。この地図にマッピングされてない方向に行ったのかな」
そんな中、一人の少女は迷わずに足を進めていた。
「リア。どうかした?」
ルミナが声をかけるとハッとしたように振り返る。
「あっ。ごめん、ぼーっとしてて。先の入口が気になって」
「ここから先に進める入口ね。マッピングされてないけれど、方角的には神樹の方向……だね」
リゼは言葉を詰まらせる。
嫌な予感がした。この先のリアが感じた違和感こそ、不可侵領域なのではないだろうか。
この先に何があるのか、考えたくなかった。
ただ、それでも潜在的に前に進みたいと感じてしまう。
各々がそう感じていたのだろう、時間が停滞していた。
その停滞を破ったのはリアだった。
「みんな、行こう」
リゼ達は頷き、決心した眼差しで歩き始める。
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