第7話 怪鳥の襲来

朝、ヴェルフリッツはゆっくりと起き上がる。

 布団の中で起きるのはとても幸せだった。


 ヴェルフリッツは難しい顔をして考える。

 (どうしよう、食料が底をつきそうだな。)


 今まで旅をしたことがないヴェルフリッツは、食料を使いすぎていた。

 (死ぬことはないが、空腹に耐えながらデオテルの町に向かわないといけない。)

 ヴェルフリッツは何か食べ物を入手する方法を考え始める。


 (まず、冒険者ギルドに入れば、町まで行けば職はあり金も調達できる、だがこの様な農村だとどうだろう?)

 (食料は物々交換か、労働力と引き換えだろう。)


 (引き換えることのでき物はない、なら労働だろう。)

 (宮廷魔術師なのだから、やはり魔術を提供するか?)

 (あの変な3人の冒険者のおかげでミューレさんに聞くことを忘れてしまった。)

 (また明日何かないか、相談してみよう。)


 翌朝ヴェルフリッツはミューレさんに何か仕事がないか尋ねた。


「そうですね、どのような仕事が得意でしょうか?」

「魔術なら使えます、後今は金よりも食料を分けてもらいたいので、物々交換できる仕事がいいですね。」


 ヴェルフリッツのその言葉にそうですか、とミューレは考え。


「実は教会には食料の予備があるのですが、今回だけはヴェルフリッツさんが稼いだお金か、物々交換してもらった物と、教会の食料と交換してもらうのはどうでしょうか?」


 いい話だとヴェルフリッツは思う。


「そうですね、そうしていただければ助かります。」


「では、お仕事なのですが、風車の魔術陣が壊れて麦をひけなくなっている風車の魔術陣の修復か、街道に出た魔物の退治もあるのですが、どちらがいいでしょうか?」


「魔術陣の修復と、魔物の退治ですか、そうですね、とりあえず風車の修理をして時間があれば魔物の退治をしようかと思います。」


 ミューレは少し驚いた様子だった。

「まぁ‼無理をなさらないで下さいね?」


「とりあえず風車の場所を教えてください。」


 ヴェルフリッツにかかれば風車の修理は1時間もかからず直ってしまう。


 ミューレはすごいですね、と驚いていた。


「こんなに早く風車を直してしまうなんて、貴方はどちらから?」

 ヴェルフリッツはマズいと思いながら、平静を装う。

「いえ、親がちょっとこういう魔術陣に詳しくて、それを隣で見ていただけですよ。」


「そうなのですね、感心しました。」


 苦しい言い訳だなとヴェルフリッツは思いながら、食料を分けてもらう。


「次は街道の魔物退治に行ってきます、場所を教えてくれませんか?」

 ヴェルフリッツがそう言うと、ミューレは街道の簡単な地図を出して場所を教えてくれた。


 ヴェルフリッツは、街道に出る。

 久しぶりにまともな道を歩けるのだ、少しうれしい気分になった。


 街道に出た魔物はウサギに角が生えた姿をしているらしい。

 (倒すのは簡単だろう。)

 その場に着くと、魔物化した角の生えたウサギがいた、ヴェルフリッツには朝飯前だ。

 計5匹、魔術であっという間に片付く。


 クルシッド村に帰る途中、大きな影が空を飛んでいるのを見た。


 ヴェルフリッツのはるか上空を通り過ぎて行く。


 (何だったのだろうか?)


 (何もなかったので気にしても仕方ない。)


 しかし、クルシッド村に着く直前に違和感を感じた。


 何かが、焼けるようなにおい。


 クルシッド村の一部が燃えている。


 村は慌ただしく、必死の救助と消火活動が行われていた。


 ヴェルフリッツは、急いでその場にかけつける。


 魔術を発動し、魔術陣を展開。

 雨を呼び寄せた。


 ヴェルフリッツの呼んだ激しい雨が、一気に辺りで燃えていた家の火を消していく。


 急いでヴェルフリッツは教会に向かう。

 教会には、怪我人が5人ベットで横たわっていた。


 ミューレは魔術で彼らの治療を行っていたため、ヴェルフリッツは、ミューレの邪魔にならないように、静かに彼女の治療が終わるのを待つ。


「ヴェルフリッツさん、怪鳥が、アルギースが村を……」

「ミューレさん、何があったか教えてくれませんか?」


「私にもわかりません、でももしかして、あの冒険者が?」


 ヴェルフリッツもあの3人を思う。


「アルギースを止める方法は無いんですか?」

 ヴェルフリッツは恐らく倒す以外ないと思いながらミューレに尋ねてみた。


「アルギースはこの一帯で一番強い魔物です、鎮めるのこも出来なければ、勝てるはずもありません。」


 やっぱり、ヴェルフリッツの予想通りの答えが返ってくる。


「わかりました、僕がやります。」


「ヴェルフさん、確かにあなたは優秀な魔術師です、貴方のお気持ちはありがたいのですが、やめて下さいあなたには勝てません。」


「アルギースの巣に向かいます、巣に行けばアルギースは地上に降りてくるはずです。」


「アルギースの巣に行くなんて、怪鳥の怒りは止まらなくなりますよ?」


「すでに止められる状態ではないですよ、巣の場所を教えて下さい。」


「わかりました、アルギースの巣であるウールカの森を。」


 ミューレが言うにはウールカの森はクルシッド村の東にあるらしい、その場所にアルギースの巣があるという。


「ですが、ウールカの森はなぜか夜にしか現れないんです。」


「夜にしか現れない?」


「はい、魔術の類で隠された森と言い伝えでは語られています。」


「そんな森をあの冒険者たちが見つけたとは思えません。」


「そうですね、私もあの冒険者達が見つけたとは到底思えないのですが、誰かがウールカの森の話をしてしまった可能性もありますね。」


 ですが、と言ってミューレは話を続けた。


「アルギースは夜にしか現れません、村などを襲うこともなく、夜に狩りをしていました。」


 これにはヴェルフリッツも頭を痛める。

「つまり、怪鳥の怒りはとても強く、そして地上に下す術はないと……」


 ミューレが短くうなずいた。


「だけど、地上に降りて休む場所はあるはずです、そこを狙えば。」


「そうですよね。」


 ヴェルフリッツ自身降りた場所を狙うという手は現実的でないと思っていた。どこで怪鳥が降りるのか、それは怪鳥にしかわからず、飛んでいる怪鳥にも追いつけないのだ。


 だが、あきらめるわけにはいかない。

 燃えた村の片隅を見ながらヴェルフリッツはそう考えた。

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