第6話 クルシッド村と怪鳥の卵

 ヴェルフリッツは町に出ることにした。

 テリオ村のルーベ村長に教えてもらった道を歩き進んでいく。

 野宿などはあまりしたことがないが、干し肉や干物でしのいでいけば大丈夫だろう。


 ヴェルフリッツは辺りの風景を楽しみながら進んだ。

 途中魔物を追い払い、途中野宿で飲めるものではないスープを作ってしまったりしながら次の町であるデオテルの町に向かう。


 そんな途中、クルシッド村という小さな村に立ち寄った。

 クルシッド村の中心には小さな教会が見える。

 ヴェルフリッツもバーイヤー家が家庭教師を雇うまでは、父であるオクトー・バーイヤーの外を少しは知ったほうがいいという考えで、教会で文字の読み書きや練習をしていたことを思い出した。


 この世界では教会は、魔力の監視者と呼ばれており、魔物の出現予想や、魔力の淀みを察知して近隣の村や、王国、冒険者ギルドと協力して、不穏な魔力を察知して警告を発す役割をしている。


 もちろん先ほども述べたように、文字の読み書きや、簡単な教育なども行っていた。


 ヴェルフリッツは、辺りの様子を尋ねるために教会に立ち寄る。

 ヴェルフリッツがドアをノックすると、受け答える若い女性の声がして、中からシスターが顔を出した。


「初めまして、旅の者でヴェルフと申します、魔力の流れを尋ねにきました、ここら辺はどの様な様子でしょうか?」


「初めまして、私はミューレと申します。そうですね、ここの所南の海岸から強力な魔力の歪みを感じていたのですが、それが突如として消えてしまいました。現在調査中です、何があったのでしょう?」


「南の海岸ですか……」

 ヴェルフリッツには心当たりがあった。やはりテオリ村のことだろう。


「南の村ではクラーケンが現れたと噂で聞きました。なんでも屈強な戦士が倒したとか。」


「まぁ‼情報提供感謝いたしますわ。」


 父親に殺されかけたのだ、あまり領地内では目立つことは控えよう、ヴェルフリッツはそう思いながら自分のことは伏せておいた。


「ところで」とヴェルフリッツは話題を変える。

「どこかこの村で泊まれるところを提供してくれないでしょうか?しばらく野宿続きで屋根の下で一晩を過ごしたいのです」


 ヴェルフリッツのその言葉を聞いた後、ミューレはまぁと言って目を見開く。

「では、教会の休憩室を使ってください、予備のベットがあるのでそちらを使用してもらうことになります。」


「ありがとうございます。」ヴェルフリッツはそう言って、教会の休憩室を貸してもらうことになった。


 ヴェルフリッツはこれからどうするかをぼんやりと考える。

「これからか……」

 ポツリとつぶやく。


 (世界をめぐる、そう考えもしたが今回の野宿続きを考えると少しだけ家が欲しくなった。)

 (どこかのキャラバンにでもなるか?)

 (商人になれば多少は馬車の中でも眠れるだろう。)


 (まぁ、なれるかなれないかの話は別として冒険者ギルドに入る手もある。)

 (だが不死の人間が冒険者ギルドにずっと在籍していれば怪しまれないだろうか?)


 (まぁ考えても仕方ない。)

 ヴェルフリッツは体を動かすことにする。

 (また村を散歩でもするか。)


 ヴェルフリッツが教会の入り口に向かうとミューレが話しかけてきた。

「お出かけですか?」

「はい、散歩でもして来ようかと」

「お気をつけて、ヴェルフさん。」

 ミューレはヴェルフリッツにニッコリと笑いかけてそう言う。


 クルシッド村は言ってしまえば平凡な村だった。


 ヴェルフリッツは村外れの石の上に座ってボーっと村を眺める。

 (不死になったからと言って大して人間と変わらない、腹も減るし、感情もあるのだ。)

 (唯一感じるのは……)

父に魔術で貫かれた腹をさする。

 (傷の癒える早さか?)


 (もしかしたら、最悪食事をしなくても生きていけるかもしれない。)

 (だけど空腹は耐えられないなぁ。)


「そうだ、飯の心配をしよう」

 ヴェルフリッツはそう独り言を言って立ち上がった。

 (やはり、食料を手に入れるには、働くか、稼ぐしかない、教会で尋ねてみよう。)


 教会に行くとミューレとおそらく3人の冒険者らしき人が話し合っている。

「東にある、ウールカの森を知らないかい?」

 冒険者のリーダーらしき女性がミューレに尋ねていた。


「ウールカの森は危ないんです、立ち入り禁止の場所です。入ってはなりません。」


 そうかい、と言って冒険者は言う。


「だけどあたしたちは冒険者だ、冒険してなんぼだろ?場所を教えてくれよ」


「ダメです、ウールカの森には恐ろしい怪鳥アルギースがいるんです、絶対に近づいてはいけません。村にも被害がでてしまいます。」


「やっぱりいるんじゃん」

 女冒険者は笑いながらそう言った。


 そこへヴェルフリッツが話しかける。

「どうしたんですか?」

「ヴェルフさん、ちょうどいいところに。冒険者の方々が怪鳥アルギースの卵を欲しいらしいのですが……」


「そう、あたしらは卵が欲しいだけなのよ」

「それがダメなんです‼」

 女冒険者の言葉にミューレが間髪入れずに言う。


「そもそも、人間が卵を奪ったなら、アルギースは見境なく人間を襲うでしょう、近隣の村の被害は大変なことになってしまいます。やめてください。」


「そんなこと、卵を奪わなきゃわかんないじぇねぇか、それに私ら大商人から依頼されてんだ‼契約破棄で違約金請求されたらシスターさん、あんたが全部はらってくれるのかい?」


「それは……」とミューレは言いよどむ。


「それは被害をあなた達が未然に防いでくれるのでしょうか?それとも被害が出たとき、賠償してくれるということでしょうか?」

 ヴェルフリッツはとっさに口を挟んでいた。


「そこの坊主、横から口を挟んで分かったようなこと言ってんじゃねぇよ。」

 女冒険者も引き下がらない。


「まぁそこまでにしとけ」

 冒険者の3人の内、弓を背中に背負った割と華奢な男が女冒険者をなだめる。


「いや、依頼は完遂されるべきだ、おれたちゃできる。」もう一人の背中に大きなハンマーを持った男がうなずいた。


 ヴェルフリッツは内心あきれて冒険者3人を見る。


「ここにいてもラチがあかない、私たちはアルギースの情報を集めるよ、こんなケチな村よりもっといい村に行くよ」


 そういって冒険者3人は去って行く。


「ヴェルフさん、ありがとうございました。」ミューレはそう言ってヴェルフリッツに頭を下げた。」


「いいえ、当然のことをしただけです。」

 ヴェルフリッツは微笑んでそう言った。


「そういえば聞きたいことがあるのですが、この村の特産品て何かありますか?」

 ヴェルフリッツはミューレに思いつき尋ねてみる。

「そうですね。」

 ミューレは考え。

「クルシッド村の特産品ではないのですが、このラッカル地方の特産品といえば、ラッカル小麦ですね、あまり認知度はないのですが、美味しいですよ?王都でもラッカル小麦で作ったラッカルパンは人気でなかなか食ることができないとか。」

「ラッカル小麦?あの黄金の小麦と言われる?」

「そういう名前で呼ばれているようですが、ちょっと大げさな気もします。」

 ミューレはそう言って少し笑う。


「ヴェルフさん。なんでしたら、少し分けますので、どうぞ食べてください」


「ミューレさん、ありがとうございます」

 ヴェルフリッツはその晩、ミューレにもらったラッカルパンと残った干し肉を食べて久々に屋根のある場所で寝るのだった。

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