伍
ただ、満天の星がさざめく三拍子の音色に身を委ねて舞い踊る中、おひとりばかりまんじりともなさらぬお方がおられました。北の中空を統べる
とまれ王が伴となさいましたのは、雪白の翼を持つ一羽の
中空の星辰が何周の円舞を行ったことでございましょう、明けることのない極夜の中で王と処女は飽かず湖面で肌を合わせ、狂おしいほど熱い舞踏をお重ねになられたのであられます。寒さに凍り真両つに裂けた木の梢の先で海青鶻が見守る中、王は処女の首筋を幾度も愛撫されたのでございました。
しかしやがて夜は明けるもの、遂に永い夜の終わりを告げる極光が夥しく鮮やかな羽衣を満天に広げたのであります。名残惜しげに東の空におん目をお向けになられますと、曙の光がぼのぼのと青白く地平線を照らし出しておりますではありませんか。白昼の世界に星辰が姿を見せることは、王の身であられましても叶わぬ道理。物憂げに立ち去る王の背なで、不意に翼が凍る空気を払います烈しい音を立てたのでございました。
それは誰ひとりとして声を立てることも適わない刹那のことでございます。凍る梢を飛び出しました海青鶻が、迷うことなく処女の胸にその鉤爪を深々と突き立てたのでございました。切なげに一度大きく仰け反り、白い雪の重なった湖面に血潮を打ち広げてあわれそこに息絶えたのは、天かける夜空の羽衣の見せた天女の幻なのでしょうか、一羽の
鎮まりゆく満天の円舞曲の余韻に任せ、忽ちに凍りゆく紅の湖面の上で夜明けの剣舞を舞うのは、紅玉の斑をさした白い双翼でありました。呆然と膝をお付きになられた王が大鵠に寄せた唇を鋭く嘴で貪りますと、海青鶻は北天の何処ともなくへと飛び去っていったのでございます。
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