蕎麦の輪廻
二条にひき
蕎麦の輪廻
風になぶられ鰭をひらめく噴水の奥にしずかな食欲がある
ふいに雨。爪をなくしたような気がして手を見れば描写がうすい
窓を這うしずくのどれが兄さんか判らないけど次で降ります
どしゃぶりの雨にわたしのつま先のかつて貝だった場所はよろこぶ
淋しくて丈夫な橋が架かるように立ち食い蕎麦へ兄はかがんで
花曇り 蕎麦の輪廻のひとときにわたしのぬくい消化器はある
膝立ちで月がえずいているような晩はことさら清いはらわた
日々は鱗 肩から腕を流すときのシャワーを怒りの河、と名づける
ぜんしんをお湯で包んでいっぴきの餃子のように夜へ慣らした
気を抜けば千円札にほどけそうベランダというひかりの区域
梨色の壁を這うユウレイグモを両肺が冷えるまで見つめる
バタフライスツールは捧げもつ手のかたち午後ほろほろのたましい載せて
降霊の度にこころをうしなってゆくすずしさをお伝えしても?
やや長いサロンで風鈴に見えるいもうと、忙しそうに笑いな
にくむべき夕ぐれなのに目を伏せた顔が長寿の孔雀のようだ
あなたにも作者は透けて海老を剥くゆびたちがこんなにも饒舌
甘辛いあぶらつやめき金星にひとの住めないことはうれしい
月光がねむるあなたの耳たぶを白木蓮に似せてごめんね
世界から見えない温室で使う盥はもっと深くてもいい
ベッドから頸をさかさに垂らすとき雪とは海にいたころの泡
蕎麦の輪廻 二条にひき @two_anacondas
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