第4話 メイドの土産

枚岡駅に着いた頃には12時半前だった。思ってたよりも早く下りてこれた。 

「次の電車10分後くらいだって」

「なぁひろ、メイド喫茶ってどんなとこなんやろう?」

「知るかよ。行ったことないんやで」

「そりゃそうだよな」

「てか、なんで行きたいん?」

「ん?まぁ社会経験ってやつかな」

「経験ね〜。便利な言葉や」

「何事も経験よ」

<まもなく電車が到着します。黄色い線の内側でお待ちください>

会話をしているうちにアナウンスがなった。

「経験ね」

僕は小声で呟き電車に乗った。


電車に乗り30分くらい経った頃に大阪難波駅に着いた。

改札を出て直人が行きたがってるメイド喫茶を目指した。

「そういえば、お前の行きたいメイド喫茶ってなんでいう名前?」

「るみなすカフェ」

「どこ?」

「オタロードの方」

「なるほどね」

オタロードとは大阪日本橋の堺筋の西側にある通りのことでフィギュア、アニメグッズなどポップカルチャーの聖地と呼ばれている場所である。道頓堀とはまた別の賑わいのある通りとなっている。

改札を出てから日本橋の方まで15分くらい歩いたとこでゲームセンターが見えてきた。

「あそこ」

直人がゲームセンターの隣の建物を指をさした。『るみなすカフェ』と可愛いフォントで書かれた看板のある建物が見えた。建物の見た目もおしゃれでメイド喫茶と一発で分かる。


あらためて店の前に立ってみると中々に緊張するものだ。

「行こうや」

「そうやな」

店に入ると中々メルヘンな世界が広がっていた。

「お帰りなさいませ、ご主人様!」

アニメや漫画の中だけのセリフだと思っていたセリフを言われ、唖然とした。

メイドさんが「こちらへどうぞ〜」と言いながら席へ案内してくれた。

席に座るとすぐにメイドの自己紹介が始まった。

「改めましてお帰りなさいませご主人様!にゃんこわーるどの超新星かなです!」

かなさんがにゃんにゃんポーズをした。

直人の顔を見るとニヤニヤを隠そうと変な顔になっていた。

その後ここで呼ばれる名前を決めさせられた。

僕がペンギンで直人がボブになった。なぜペンギンかというとただただペンギンが好きだからである。直人はなぜボブにしたのかというとなんとなくボブぽいっからと後々教えてくれた。本当によく分からない。

その後、店のシステムの説明を受けそれぞれ注文をした。僕は王道であるオムライスを頼んだ。直人はピンク色をしたカレーを頼んだ。この店では

1つ注文をするとメイドさんとチェキが撮れるというシステムで複数注文をすると少し安くなるらしい。

料理が来るまでそわそわしながら待っているとかなさんが話しかけに来てくれた。

「ペンギンさんたちはなんで今日来たんですか?」

「この人が行きたいって言ったからです」

僕は直人を指さした。

「え、まぁ、なんとなくというか少しだけ行ってみたいって思ったからです」

直人は完全に目の焦点があってなかった。

「へぇ〜そんなんですね!今日は楽しんでいってくださいね!!」

かなさんはニコっと笑い戻っていった。


しばらくするとかなさんが料理を運んできた。

「お待たせしました!こちらオムライスとぴんくカレーです!」

「うまそう...」

直人が小声で呟いた。

「このままでも十分美味しいんですけど、もっと美味しくするためにおまじないをしましょう!指でハートを作りって美味しくな〜れ

萌え萌えキューンって一緒言ってください!」

周りには数人お客さんがいるがもうこれは覚悟を決めるしかないと思った。

「行きますよ〜」

「「「美味しくな〜れ萌え萌えキューン」」」

「これでも〜っと美味しくなりました!!」

なんとかやりきった。やり終えてみるとどこか強くなった気がした。

「冷めないうちにお召し上がりください!」

かなさんは、トレイを抱えて裏に戻っていった。

「めっちゃ美味しそうやな」

「まぁ、そうなんやけどピンクのカレーってどうなん?」

「味がよければなんでもいいんだよ」

「あ~ね」

少し疑問を抱きながらオムライスに手をつけた。味とにかく美味かった。

「直人、味どう?」

「いや、普通にうまいよ。ひろも食うか?」

「僕はいいわ」

美味しいんだろうが、やめておこうと思った。

食事を終え、いよいよ待ちに待ったチェキの時間がやってきた。

僕はペンギンのポーズ、直人は猫のポーズをしてかなさんとチェキを撮った。

撮影を終え席で待っているとかなさんがチェキをもってこっちに来た。

「お待たせしました!先ほど撮ったチェキです!」

「「ありがとうございます!」」

チェキを受け取って見てみると可愛く落書きされていた。

「そういえばご主人様たちはどこから来たんですか?」

「奈良からです!でも歩いてきました!」

かなさんがきょとんとした顔でこちらを見ていた。だが直人はさらに説明を続ける。

「こいつが暗峠越えたいって言うから越えてきました。あ、でも歩いたと言っても途中までですけどね」

「え〜すごいです!!よく歩きましたね」

かなさんの頭の理解がやっと追いつき喋りだした。

「まぁこいつ、今度奈良から名古屋まで歩くらしいんですよ。バカですよね」

いちいち余計なことを言うなと心の中で思った。

「全然バカじゃないですよ!すごいですよ!頑張ってくださいね!」

「はい、ありがとうございます。頑張ります」

「またここに来てその事話してくださね!」

しばらくそんな話をしてお会計をした。

「ご主人様たちのお帰りです!行ってらっしゃいませ!ご主人様!」

かなさんのあいさつを後に店を出た。その行ってらっしゃいませには決まり文句と歩くことに対しての言葉だと勝手に理解した。

「直人どうだった?」

「もう、最高!!もう死んでもいいかも」

チェキを見ながらニヤニヤしていた。

まさに冥土の土産、いや、メイドの土産の様だった。


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