旧友の話③-4 13日目

 浅原がここに連れてこられてから13日目の朝の事だった。その日は急に気分が悪くなり、嘔気と手の震えが起きて水も食事も身体が受け付けなかった。

 施設内には診療所も薬もなく、聖女はいつも決まった時間にしか現れないため、浅原は寝室で寝ていることしかできなかった。

 彼女が普段どこで何をしているのか浅原には知る由もなく、その時初めて漫然とした不安が湧き上がった。

 夕食の時間には体調が少し回復し起き上がれるまでになっていた。汗がとめどなく流れてくるせいか無性に水が飲みたくてたまらない。彼女が水と食事を運んでくると、水分を欲していた俺は女から引っ手繰るようにして水を受け取ると、それを一気に飲み干した。

 いつもは彼女と最低限の会話しか交わさないのだが、水を飲んで細胞が活性化したのか今まで抑えつけられていた疑問の数々が沸々と湧き出てきて、彼女に矢継ぎ早に質問を浴びせていった。

 ここは一体どこなんだ?告解室を訪れる者達はどうやって連れて来られているのか?訪れた彼らのその後は。会議室にいた白装束のもの達は。そして何より、一体いつも何処で何をしているのか。

 彼女は浅原の突然の行動に少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐに元の表情に戻ると浅原の質問には答えずにサンドイッチを手渡してすぐ部屋から出て行ってしまう。

 部屋の扉が閉まる直前、彼女は振り返りもせずただ一言「死にました」とだけ答えた。それが誰のことなのか、何を指しているのかわからないまま、俺は再び眠りに落ちていった。

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