ファミレスにて② 疑念
「ふぅ…。久々にこんなに話したから少し疲れたな。一旦休憩させてくれ」
「あ…あぁ、そうだな」
俺は浅原の言葉でふと我に帰る。腕時計を覗くと、まだ数分しか経っていないのにもう何時間も映画を観続けているような気分だった。
浅原の話術と言ったらいいのか。話す声のトーンから緩急、仕草や表情に至るまでその全てが効果的で、俺は浅原の人生を追体験しているような不思議な感覚に陥っていた。昔から話は上手かったが、社会人になって更にもう一段階上のレベルにいったようだ。
「てかお前仕事辞めてたんだな。そんなこと全然知らなかったよ。あ、休憩するなら甘いものでも頼んどく?」
浅原は大の甘党で、どれだけ料理を食べても必ず締めのデザートは欠かさなかった。
「まあ敢えて言うことでもないからな。それに、今の時代転職なんて珍しくもないことだし。…そうだな、えぇと…。このイチゴのパフェでも頼もうか」
浅原が指差したのは期間限定の特別メニューで、そういう目新しいものを選ぶところはあの頃からちっとも変わっていない。
「ほんと好きだよなぁ、そういうの」
俺は昔を思い出して思わずニヤけながら呼び出しボタンを押すと、絶妙な不協和音が店に鳴り響き、すぐに喧騒の中に消えていく。
「しかし、会社をクビになって変な女にも付き纏われて、散々な1日だったな」 「はははっ。本当だよ。それで終われば只の笑い話なんだけどなぁ」
この含みのある言い方は、やはり他にも何かあったということだろう。会社をクビになっているのにそれすらもただの笑い話とは、一体浅原の身にどれだけのことがあったというのか。
「それにしても山盛りポテトとサラダ遅いな。あんなの温めて盛り付けたら一瞬だろうに。店員来たら聞いてみるか」
「いや、それは止めとこう。あまりしつこくして迷惑がられても嫌だしな」
浅原は俺の提案を即座に断ると、手を伸ばして俺を牽制する素振りを見せた。相変わらず変な所を気にする奴だ。だが、それは間違いなくかつての浅原と同じであることの証明であり、やはり先ほど感じた違和感は俺の気のせいだったのかもしれない。
「しっかし今日が日曜日とはいえ、ちょっと混み過ぎだよなぁ。みんな他に行くとこないのかよ。あと声のボリューム大き過ぎ」
「俺もそう思うよ。煩いのは大半が調子に乗った学生とお喋り好きなマダム達だな。ああいう輩は他人の迷惑なんてこれっぽっちも考えない。居るだけで害だから早々にご退席願いたものだな」
浅原はさっきよりも大袈裟に顔を歪ませると、本日2回目のお馴染みポーズを取る。浅原の奴、話ぶりだけじゃなくて毒舌の度合いも上がっているな。まあ、かつての浅原も決して口が良い方ではなかったのだが。とにかく話の続きを聞けばそうなった理由も何かわかるかもしれない。人生誰にでも自暴自棄に陥る時はあるものだ。
「俺が会社をリストラされてから…」
浅原が話し始め、俺は再び物語の世界に浸っていく。
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