第3話
ランプの明かりを頼りに次の部屋まで進んでいくと床には落ち葉がちらほら落ちていた。ロンの服についていた落ち葉が走るスピードに負けたのだろう。
落ち葉はサンが次に向かっている部屋の扉へと続いていた。部屋の扉は開いており、何やら会話をしている声が聞こえる。
「あらら、困ったわね」
「ない!」
「これでは乗れないわ」
部屋を覗き込むとロンが女性を抱き上げているのが見える。
ロンが女性を車椅子に乗せようとするがうまく乗せられず、車椅子はロン達から逃げるようにして離れてしまう。それに対し、腹が立ったのか地団太を踏んでいるロンを見て、頬に手を当てて困っている女性がいた。
サンが小走りで近寄り、車椅子を支えるとうまく乗せることが出来た。
「ありがとう、助かったわ」
「いい、いい!」
「どういたしまして。その足で行くの?」
足の代わりに魚の尾ひれがついた下半身について問うと頷かれる。
「そうよ。もう、足は必要ないもの」
「シュフィはそれで不便じゃないの」
「先生がくれた足だもの」
魚の尾ひれだけでは陸を歩くことは不可能だ。立つことだって儘ならない。
「それにそんなこと気にしている暇なんてきっとないわ」
「いい」
ロンもシュフィの言葉に賛同し、着たばかりの服を脱ごうとする。
「ロン!?」
「サン、見せかけだけの王子様なんていらないの」
次々に服を脱いでいくロンの奇行を止めようとサンが近寄ると、シュフィが立ちはだかる。
「自分がそうでありたかった姿に少しの間でもなりたいのはいけないことかしら?」
「そんなこと」
「ないなら、好きな姿でいさせて。ね、お願いよ」
シュフィの部屋には義足がいくつか置いてあった。中でも、魚の尾ひれをもつ義足は特に大事にアクリルケースの中に保管されていた。
反対に、二本足の義足は尾ひれに比べて数が少なく、床に放置されている。手入れも行き届いていないのか錆が目立つものもあった。
義足のほかに、シュフィの部屋には人魚に関する本、人ひとりが入り、泳ぐことが出来るカプセルが置いてあった。
「サン、先生には感謝しているわ。救ってくれたわけじゃないけど。貴方はどうなの。救われた?」
「言っていることがよく……」
「そう」
「ない」
サンが言い切るより先にシュフィとロンが肩を落としながら返事をした。
「知ったところで救われるわけではないのでしょうけど。どう思う? ロン」
「……ない」
「そうね。やっぱり、私たちから話すのは良くないわね。忘れて頂戴」
シュフィが話を終えようとすると、サンは焦ったように声を出す。
「待って、話が見えない」
「見ようとしていないの間違いじゃなくって? 貴方以外は全員気が付いていてよ」
サンがロンを見るとロンは小さく「いい」と呟きながら頷いた。サンは目を丸ませ、顎に手を置いた。
「貴方たちってとてもそっくりよ」
にっこりと笑ったシュフィはパンっと手を叩く。
「さ、この話はこれで終わり。早くこの場から離れましょう」
車椅子を運転し、部屋から出ようとするシュフィだが、ロンと同様に鞄も何も持たず、身一つで部屋から出ようとする。
「シュフィ、何も持って行かなくていいの」
「役に立つ間もないものなんて邪魔なだけよ」
サンの言葉にシュフィは迷うそぶりを見せずに通り過ぎていく。
「ああ! あと少しで夢が叶うだなんて信じられないわ!」
「いい!」
恍惚とした表情を浮かべながら去っていくシュフィとロン。取り残されたサンはアクリルケースに入っている魚の尾ひれの義足を見ながらシュフィについて書かれた資料を取り出す。
―—名前・シュフィ 性別・女 特徴・幼いころから強く人魚に憧れていた。そのため、事故で足をなくしてしまった時も「魔女との取引」と前向きに捉えていたようだ。義足より、魚の尾ひれの方が喜ぶ――
ランプの光が当たった魚の尾ひれの義足は艶々と光り、まるで金鱗のようであった。
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