第21話

 9月も終盤に近付いてきたある日。異常気象というべきか、相変わらずというべきか、8月の暑さが絶賛継続中で、カーテンの越しに差し込む日差しがちょうど私の顔面を直撃している。

 「ちょっと入るよ」とノックに混ざって声が聞こえる。

「うん、起きてる」

 伸びをして時計を見ると、9時をだいぶ過ぎていた。布団に入った記憶のない頭を右手のひらでたたく。「お姉ちゃんにしては、寝坊させてくれた方か」とクセっ毛を手櫛(てぐし)で直していると、もう一度ノックされた。

 「はいはい」と返事をすると、きららが飛び込んでくる。そこで初めて、今日はお姉ちゃんときららと出かけることになっていたのを思い出す。

 きららは私のベッドの近くに置いてある段ボールから服を選んで、体に当てている。普段きららはお姉ちゃんの部屋で生活しているが、荷ほどきしていない段ボール箱が3つ私の部屋の隅に置かれている。きららは自分の服を決めると、自分の段ボールからリネン生地のシャツを私に放った。これを着ていけということらしい。

 きららの高校であったあのひと悶着の後も何食わぬ感じで転校の手続きは進み、9月から3人の生活が始まっていた。新しい学校に通い始めてまだ2週間だが、今のところは毎日通っている。私から見れば、毎日学校に通う、お姉ちゃんみたいに毎日会社に行くっていうのがすごくすごいって思う。私は相変わらず大学へは行っていない。

 「お姉ちゃん、早く着替えて行こう。朝ご飯もあるよ」と笑った。きららの顔の隈も薄くなってきて、目がきらきらするようになってきた。私が学校に乗り込んだ意味は何にも無かったが、今のきららが元気ならそれでいいなって思った。

 「きらら、抱きしめていい?」って聞くと、「え、やだ」と逃げて行ってしまった。

 何度目か、また快晴を眺めて雲を探すが、見つからなかった。

 「ひめ起きた?」「起きたよ。お姉ちゃん、むらさきのシュシュ借りていい?」「いいよ。やってあげる」という会話がリビングから漏れてくる。それに加わりたくなって、ベッドから立ち上がった。


 私が大学に行くようになるのはもう少し先の話――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

この世界のひた向きなすべての三姉妹に捧ぐ 優たろう @yuu0303

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る