第17話

「お姉ちゃん、間に合いそう?」

 私が尋ねると、お姉ちゃんは「間に合うよ。大丈夫」とフロントガラスから視線を外さずに答えた。信号が黄色に変わり、急ブレーキを踏んだ衝撃で頭が脳ごと揺らされる。

 シートに座りなおして、乾きかけの髪をフェイスタオルで包む。

 バスルームでお姉ちゃんと話しを終えた後、こともあろうかお姉ちゃんもバスルームに入ってきて、シャワーを浴びて、滴らないくらいに髪を乾かして家を出た。服も近所のコンビニに行けるかどうかって感じのカッコだ。

 お姉ちゃんのもう一つの「お願い」はきららの学校へ一緒に行くことだった。今日の午後、きららの転校について3者面談が行われる。そこに乗り込もうというわけだ。ドラマみたいでかっこいいと意気揚々と家を出たものの、時間の経過と、お姉ちゃんの衝撃的な運転に段々と冷静さを取り戻してきた。

 感情的にならない。

 姉として堂々とした態度で。

 きららがしっかりとクラスで馴染めるようにサポートしてもらうようにお願いする。

 お父さんとお母さんにはもっときららの話をちゃんと聞いてもらうようにする。

 右手のひらで胸を叩きながら自分の中で繰り返した。何度も何度も。

 高速道路に乗って、ジャンクションを二つ超えて。そうしてる間に時間はどんどん過ぎていく。

「お姉ちゃん、がんばって!」

 時間はまだあったが、気が競ってお姉ちゃんを急かした。お姉ちゃん、早く行こう。早く行こう。今までなんとも思わなかったが、きららが今、私やお姉ちゃんと別の場所にいるのがすごく嫌だった。一刻も早くきららに会いたかった。きららの顔を見て、安心したかった、私が。

 トンネルに入った。少し長めのトンネル。いくつもの照明を超えたが、先が見えなかった。もう一度「お姉ちゃん、早く!」と急かした。


 その後すぐに高速道路を下り、いくつかの交差点を曲がったところで、きららが通う高校が見えた。

「私は車を置いてくるから、ひめはきららの教室の場所確認しておいて」

「うん!」

「絶対に先に入らないこと。わかった?」

「うん!」

 私は校門の前で車から下りると、一目散に昇降口へ向かう。途中で守衛さんに声をかけられたけど、「三者面談です」って言ったらあっさり通過できた。

「きららの教室。きららの教室」

 昇降口に貼られた避難図を見つける。

「きららの教室。きららの教室」

「ちょ、10組まである。きららって何組?」

 弱音を吐いてはいられない。これは、片っ端からだ。

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