第11話
きららから次に電話がかかってきたのは、その翌日だった。
「やっほー、きらら」
『やっほー。まいお姉ちゃんは?』
「ちょっとコンビニ行ってる。あと10分くらいで帰ってくるんじゃないかな」
明日は祝日なので、この間録った映画を観ようという話になり、お姉ちゃんはお菓子を買いに行っていた。私が買いに行くって言ったが、他にも買いたい物があるというので、お姉ちゃんが行くということになった。家を出てから20分くらい経つので、もうすぐ帰ってくると思う。
『そうなんだ』
「どうする? 話しながら待つ?」
『いいや。忙しいからまたかけるね。おやすみ』
「そう? おやすみ」
変なきらら。スマホをポケットに入れてすぐに、お姉ちゃんが帰ってきた。お姉ちゃんにきららから電話があったことを伝えると、お姉ちゃんは私にエコバッグを渡してすぐにきららへ電話をかけた。けど、きららは出なかった。ほんとに忙しいようだ。社会人も忙しいが、高校生もまた忙しいようだ。エコバックの中でアイスを見つけたので持っていこうとしたら、お姉ちゃんに取り上げられた。
3連休中もきららから電話があったが、運悪くお姉ちゃんは急な仕事で呼び出されてきららと話すことができなかった。その分、私は3日で5時間くらいは話したと思う。もしかしたら実家にいたときより色々なことをおしゃべりしたんじゃないかってくらい。
今日もかけてくるかな。そしたら、新作のアイスの話をしたいな。さっき買ったバニラと生チョコのアイスがひとつづつエコバックの中で揺れる。
お姉ちゃんに頼まれて行ってきた地方庁舎からの帰り、新しい洋菓子屋を見つけて新作アイスを買った。こんなこともあろうかと、クーラーバックのエコバックを持ってきたのは日頃の行いが良いとしか言いようがない。お姉ちゃんはバニラを取るだろうから、私はチョコだな。でも、バニラもおいしそうだな。半分こにしてくれないかな。
クーラーバックとは言え、夏の日差しは容赦なく私とアイスを襲う。帰路に向かう足が速まる。
「きらら?」
電車に乗ろうとホームで待っていると、1つ向こうのホームできららの姿を見つけた。こちらには気づいていない。「きらら」と呼んだけど、目の前のホームに電車が飛び込んできて、一瞬にしてきららの姿を消してしまう。視界から消える直前のきららの表情が気になって、ホームの階段を駆け上った。
改札で追いつきそうになるも私のチャージが足りずに時間をロスし、改札から出たときには見失っていたが、知っている駅だったこともあり何とか見つけることができた。
フードを被る背中を見た時、きららだとわかった。でも、その姿がいつもと違いすぎて、すぐに声をかけることができなかった。
建物の影がベンチに座るきららに届きそうだった。公園には他に誰もいない。
影を辿るようにきららの傍らにそびえる建物に視線を戻す。このあたりで最も大きい総合病院、ここの別館2階に私が何度も通った、今でも通っている精神科がある。
きららが、なんでここに?
きららがフードを被りなおして、頭を垂れる。肩を落とし、気持ちを落としていくのがわかった。
声をかけようとしたとき、きららは思い出してバッグから薬を取り出して口に含んだ。もう一度中身を漁るが、水が見つからず薬だけ飲み下した。もう一度、下を向く。その薬は私のよく見覚えのあるものだった。
もしお姉ちゃんだったら、きららに近付きやさしい言葉をかけて抱きしめてあげるだろう。でも、私にそれが許されるだろうか。私にきららに声をかける資格があるだろうか。きららも私と同じ――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます