第6話

 後期初日、高校までのように始業式とかはなかったけど、大学全体が浮き足立っているようだった。私も新しく買った白とスカイブルーのスニーカーで登校すると、他の大学生のように正門をくぐり、手入れのされた通路を進んだ。敷きブロックの段差に足を取られるのもスキップのようで楽しかった。

 その日は2限からの3コマで、昼食も第3校舎の下の学食でロコモコ丼を食べて、いつもどおりのような日常だった。

 次の日は3限からだったので、家で冷凍うどんを温めて食べて、大学へ向った。お腹が空いていたので2玉食べたら、お腹いっぱいでちょっと気持ち悪かった。

 水曜は1限からだったので、ちょっと早く着いちゃうけどお姉ちゃんと一緒に家を出た。

図書室で30分くらい時間をつぶして授業に向った。午前2コマ授業を受けたあと学食に行ったら珍しく混んでいて、お腹もあまり空いていなかったので、お昼ご飯抜きで3限を受けて家に帰った。

 木曜になると疲れが出てきて、朝起きるのがつらくなってきた。それでも「あと2日で休みだからがんばろう」とテンションを上げて家を出た。帰りの電車では爆睡した。

 「お姉ちゃん早く早く」と金曜はちょっと寝坊したお姉ちゃんを私が引っ張りながら家を出た。4限目は苦手な統計学の授業だったが、あまり居眠りせずに終えることができた。

 土日はダラダラと家で過ごし、映画会は大好きな中条あやみの恋愛映画を観た。泣いた。お姉ちゃんも泣いていた。「お姉ちゃん泣いてる」って言ったら、「あんただって」って言われて笑った。

 異変は突然起きた。日曜の夕食後、席を立ったときに視界がブラックアウトするほどの強烈なめまいに襲われ、テーブルに両手をつくと、次に吐き気が攻めてきた。

 お姉ちゃんは会社の人から電話がかかってきていて、居なかった。「見つからないようにしないと」と咄嗟にトイレへ駆け込んだ。食道を逆流する気持ち悪さよりも自分で自分に何もできない切なさで涙が流れた。それでも、逆流は終わらない。お姉ちゃんが裸足で駆け寄ってくる。背中をさすってくれる。水を渡してくれる。「大丈夫だからね。大丈夫だからね」と声をかけてくれる。頬がびっしょり濡れてきた。楽しい日常は何でこうも簡単に崩れてしまうのだろう。

 その日はトイレの近くのソファーで夜を明かし、翌日は大学を休んだ。

 火曜日はなんとか登校できたが、後期に登校したのはその日が最後になってしまった。

 16時の回も間に合わず、結局、18時40分の回を観たので、映画館を出ることには外はたっぷりと夜に包まれていた。自動ドアが開くと、涼しくなった風が過ぎていく。

「フードコート閉まっちゃったかな」

 心なしかワントーン華やいだ私の声が人通りが疎らな連絡通路に木霊する。

「じゃあ、ファミレス行く?」とお姉ちゃんも笑った。笑ったときに膨らんだ涙袋が暖色系の明かりに照らされる。お姉ちゃんの笑った顔が好きだった。

「わたし、中華がいい。駅ビルで半額の買ってこ」

 珍しくワンピース姿のお姉ちゃんがベルトの細い腕時計を確認して、「そうしよっか」てまた笑った。

 グルメバーガーもチーズたっぷりのドリアもいいけど、やっぱり早く家に帰りたくなってしまった。回りを気にせず、お姉ちゃんと向かい合って座って、ご飯にしたかった。

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