第5話

 私は夏休みが終わってから、またすぐに大学へ行けなくなってしまった。

 近隣の大学と比べれば少し短いが、丸々1箇月の夏休みがあった。アルバイトも辞めて、検査に各種病院を回る以外は、家で静養した。朝起きて、朝ご飯食べて、昼ごはんを食べて、夜ご飯を食べて、シャワーを浴びて寝る。そういう時って不思議なもんで、ずっと眠れた。お姉ちゃんを見送って、布団で寝て、お姉ちゃんが帰ってきて起こされて、「また昼ごはん食べなかった」っておこられて、夜ご飯を食べてソファーで寝て、シャワーを浴びてベッドで朝まで起きない。の繰り返し。

 好きだったテレビやスマホも30分と見てられなくなった。眼が疲れて、おでこが痛くなった。

 土曜の夜はプロジェクターで映画を観るのが日課だったが、それも叶わなくなってしまった。1時間も座ってられない。

 それでも9月になってから体調は少しずつ良くなってきて、眠くなることも少なくなって来て、お昼ご飯も食べれるようになり、午前中に簡単な掃除くらいはできるようになった。お姉ちゃんが早く帰れた日には、ご飯の後に美術館の隣の公園まで散歩するようにもなった。

9月10日くらいだったと思う。後期の授業がはじまる1週間前に履修の仮登録書を提出し、必要書類と各関係企業のパンフレットをもらいに登校した。家で動けなくなったあの日以来の登校で、電車で。何度も吐きそうになって電車を降りた日々がフラッシュバックしそうで、冗談抜きでエチケット袋をトートバッグに忍ばせていた。

 お姉ちゃんが何度も一緒に行こうかと言ってくれたが、なんか大丈夫そうな気がしたし、なんなら1ヶ月前のことは何かの間違いだったんだろうと自分に言い聞かせた。

 結果から言うと、一度も気持ち悪くならずに大学に着いたし、履修届けとその他書類を事務室の棚に入れ、事務棟で必要な書類とパンフレットを預かったし、乗換えで間違えそうになったが、難なく帰宅を果たすことができた。お姉ちゃんは喜んでくれたし、嬉しくなって、金曜日だったけど、映画会をした。これで悪い夢が終わって、全部元通りになると思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る