第4話

 普通の大学生にしても、私の朝は早い。

 お姉ちゃんに起こされるためだ。

 7時2分発の急行に乗るお姉ちゃんは15分前には家を出る。

 それまでに朝食、お弁当を作るお姉ちゃんをパジャマのまま見届けて、お見送りして布団に戻る。それから、昼頃起きて、お姉ちゃんが作ったお弁当を食べて、掃除をして本を読みながらお昼寝して、19時ころにお風呂を沸かす。週に1日か2日は買い物に行ったりもする。

 不登校と行っても、別に部屋から出ないわけではないし、日がなゲームに明け暮れているわけでも、SNSで世間に喚き散らしているわけでもない。大学に行っていない以外は至って、健康的な生活を送っているわけだ。

 今日は土曜日だったが、映画を観に行こうという話になり、平日と同じ時間に朝食をはじめたときだった。

「うん。うん。うん。…わかった。ちょっとだけだからね。わたしも予定あるんだから」

 電話はどうも実家からのようだった。

「うん。うん。うん。ちょっと待って」

 電話をミュートにしてから、「保奈美が今日退院で、実家に赤ちゃん見せに来るらしいんだけどどうする?」と聞いてきた。私は首を横に振る。保奈美さんはお姉ちゃんの2つ上の従妹だ。

「大学だから無理だって。わたしだけ行く。うん。10時ね。うん。じゃあ、また」

 お姉ちゃんは電話を切った後、スマホをベッドへ放った。濃いめの青いタオルケットの上でスマホが跳ねた。

「ごめん」

「いいのいいの。さっさと片付けてくるから、そしたら16時の回の映画観に行こう」


 私は休学の手続きをしていない。休学の手続きをすれば授業料の一部が免除になる。大学の授業料ってけっこう高いから当分行かないのならそうした方がずっといい。ただ私が両親に言うことができなかっただけ。お姉ちゃんは「1年の留年くらい私の給料でどうにかしてやるわよ」って言葉にずっと甘えている。

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