第3話

「パインとメロンどっちがいい?」

「ん。パインかな」

 渡したパイン味のアイスを、お姉ちゃんはエプロンで手を拭いてから受け取った。

 「わたし押す」と食洗機のスイッチを入れて、テーブルにつく。

 お姉ちゃんがイスに座り、アイスに口をつけるのを眺めた。

「なに?」

「いえ。今日もお仕事お疲れ様でした」

「なに、急に」

「なんでも」

 笑った。

 お姉ちゃんのアイスの方がおいしそうだと思った。


 幸いなことに、うちは共働きだったので、アルバイトを辞めてもお金には困らなかった。あと、お姉ちゃんと二人暮らしだったので両親にもなんとかバレずに済んだ。

 ただ、困ったのはその後のお姉ちゃんの慌てぶりだった。病気ではないかと都内の病院で検査を受け、私はことごとく正常値を記録し続けた。

 お姉ちゃんの会社では夏休みを3日間自由に取れるらしいが、その3日は私の検査の付き添いに当てられた。

 3日間の夏休みが終わり、検査結果が届いた日のことは割りとよく覚えている。

結果が郵送で届き、それをお姉ちゃんとふたりで開封するというのがセレモニーだった。その日もB3くらいの封筒で届き、私がハサミで封を開け、お姉ちゃんがその結果を取り出す。金曜日だったこともあり、夕飯の前に開けようという話になった。

その結果は実に簡素なものだった。数値は正常値、「内容を詳しく知りたい場合は、予約をしてから来院してください。」だけだった。

お姉ちゃんはそれを見るなり、一目散に自室へ飛んでいき、大きめの紙袋を持って帰ってきた。

「お姉ちゃん、なに?」

 紙袋から次々とデパ地下のお高めの(と言っても値引きシールは貼ってあった)サラダと惣菜とドーナツが出てきて、私は驚きを隠せなかった。今日は誰かの誕生日?

「病気じゃなかったんだから、そのお祝いよ。おめでとう」

「お姉ちゃん、泣いてる?」

「どうかな」

 お姉ちゃんは泣いてた。お姉ちゃんも泣くんだと思った。うれしいな。

「お姉ちゃん」とくっついた。今日は跳ね除けられなかった。

 その日は2人でキッチンに立って、色とりどりの惣菜やらドーナツやらをお気に入りの器に移して、時間がわからなくなるまで食べて、話して、食べて、話した。2人で暮らすようになって、1番楽しい夜だった。

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