第22話 昔助けてもらいました
ずっと意固地になっていたが、こちらに来てからの彼を見ていると自分の狭量さが恥ずかしくなった。
彼はエミリアの事業所の為に惜しみなく力を貸してくれている、真面目で誠実で・・・そして恥も外聞もなく好意を伝え、力を尽くしてくれているのに。
「これまでの言動も含めてお詫びいたします。申し訳ありませんでした。」
「や、止めてください。エミリア様は悪くありません。僕が悪いのですから。もし・・・僕がしたことを許してくださるのなら、エミリア様も自分を責めないでください。そして・・・また一から関係を始めさせてもらえないでしょうか。」
「・・・私など・・・」
「僕は・・・ずっと前から。幼いころからあなたを探していました。」
「え?そんな事全然言ってなかったじゃありませんか。」
「はい、出来れば一緒に私の領地に行った時にお話ししたかった。でもそれまでにあんなことになってしまって・・・」
「バランド様の領地?」
「まだ小さいころ、バランド領に来られたことがありませんか?」
小さなころ、祖父や父親に連れられていろんなところに行った。ただどこの領地に行ったとか一切記憶に残っていない。
「ごめんなさい。覚えてなくて・・・」
「幼いころの私が野犬に襲われていた時、どこからか日傘をさしたご令嬢が現れて日傘を広げて立ちはだかってくれたのですよ。」
「ええ!覚えておりますわ!あれはバランド様でしたの?!」
あれは祖父と出かけたときの事だ。
馬車の中からヨハンが襲われているのが見えたエミリアは馬車を止めてもらうなり日傘を持って飛び出した。
小さい可愛い男の子が今にも野犬にとびかかられそうだったから。
襲い掛かろうとする犬を威嚇するために、エミリアは日傘で地面をバンバン叩いた。
傘もボロボロになっていったとき、遅れて走ってきた男の子が石を投げつけて追い払った。
気が付くとエミリアもワンワンと泣き、駆けつけてきた男の子に抱きついた。
その後をフウフウ息を吐きながら祖父がやってくる。
「エミリア!一人で走っていったらダメじゃないか!それにこんな危険なこと!」
「ご・・ごめんな・・うっく・・・だって・・だって!」
ヴィンセントはエミリアを抱きしめてあやすと、ヨハンにも怪我がないか聞いた。
ヨハンは転倒した時に膝をすりむき血がにじんでいただけで、二人のおかげでかまれずに済んだ。
「うっ・・あ、ありがとう・・・ぐすっ・・ございます。」
ヨハンは恥ずかしかった。自分より小さなこの泣いている天使のような優しい女の子が体を張って助けてくれたのだ。それをその兄が騎士のように守る。
「それに・・・ごめんなさ・・い。」
泣いているエミリアとボロボロになった日傘を見てヨハンは謝った。
「君が謝る必要はないよ。エミリアが勝手にやったことだから。二人とも怪我がなくてよかった。」
そう言うと祖父はエミリアを抱き上げようとしたが
「おじいさま、ぐすっ・・ちょっとだけ待って。」
自分もまだ涙が引いていないのに、エミリアはハンカチをヨハンの頬に当てた後、擦りむいた膝に当てた。
そこに数人の子供がやってきて
「何やってるんだ、本当にどん臭いな。お前が怪我したらまた僕が怒られるじゃないか。」
「だからお前と遊ぶの嫌なんだよ。」
怪我をしている男の子に好き勝手なことをいう。
「ちょっと!この子はその気になったらこの壁に登って逃げられたのよ。そうしたら逃げていったあなたたちが襲われると思ったから自分が囮になったの!この子を助けずに逃げたあなたたちより、よほど勇敢で賢くて優しいわ!」
子供たちにそう言い放ったエミリアは、最後は泣き顔のヨハンににっこり笑って
「とても素敵だったよ。」
そう言った。
壁を見上げて一度は上りかけたヨハンが、逃げていった兄たちを見て登るのをやめたのが目に入っていたのだ。
そのままハンカチをくれたエミリアの笑顔にヨハンの心は持っていかれた。
それまでずっと兄や友人たちに馬鹿にされてきたヨハンはエミリアが真意を告げてくれたおかげで、周りの見る目が変わった。それを聞いた親もヨハンの人とは違う行動の意味を考えてくれるようになった。
おかげでヨハンは馬鹿にされることもなく、実は優しくて賢い子だと理解者が増えてこれまで順調にやってこれたのだ。それもこれもすべてエミリアのおかげだった。
それから、エミリアという名前だけを頼りに初恋の相手を探し続けたのであった。
「その時からあなたを忘れられなくて、ずっと探して・・・やっとあなたに出会うことが出来たのに。僕が馬鹿だったせいでこんなことになって・・・でも、それでもあきらめられなかった。幼い時に泣くしかなかった僕を救ってくれて、周りには情けないと言われていた僕の心の内までわかってもらえて。あなたの優しさ、勇気、可愛らしさ。そして再会した時のあなたの美しさと凛々しさ、変わらぬ優しさをあきらめきれないのです。エミリア様は・・・こんなに付きまとう僕が気持ち悪いと思いますが・・・本当に駄目だと分かるまであきらめたくない。」
「・・・ありがとうございます。」
「じゃあ!」
「・・・もう少し考えさせていただけますか?必ずお返事させていただきます。」
そういうエミリアにヨハンは悲し気な顔をしたが、
「・・・分かりました。お待ちしています。」
エミリアの返事次第で、これ以上想うことを許してもらえない可能性がある。
それでもヨハンは沙汰を待つしかなかった。
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