第21話 これほど感謝する日が来るとは

「悔しい!」

 順調に回っていた仕事だが、急激に客が減少した。さらに、案内人の態度が悪いなどのクレームも入るようになった。


 エミリアとヨハンが調べると、似たような観光案内所が近くに出来ていた。

 しかも紛らわしく店舗名まで似せて、安価で請け負う。

 大々的に宣伝をうち、客引きをするため客がほとんど流れていった。アルテオ国で評判を聞いてきた者でも、誤解してそちらを利用しているケースも頻発していた。

 エミリアは名前が似ていること、案内ルートが酷似していることから、勇気を出して変更を求め話し合いに出かけたが、門前払いをされた。


 確かに、観光通訳案内の仕事をまねされても仕方ない。

 しかし、自分が歩き回って作り上げた観光ルートやサービスなど内容もほとんど真似をし、店名までとなれば確信犯だ。

 そしてそちらで客の具合が悪くなった時の対応が悪いとトラブルになり、エミリアの事業所だと勘違いされアルテオ国でも悪い噂が流された。

 心配したヴィンセントやソフィアの手紙でそれを知り、エミリアは落ち込んだ。

 悔しくて涙が出た。



「エミリア様。大丈夫ですか?」

「・・・ええ。ごめんなさい、ちょっと取り乱しちゃって。」

「褒賞を下さった領主様に訴えたらどうでしょうか?」

「だけど真似をしただけだわ。何かを取られたり壊されたりしたわけではないもの。あちらの努力だと言われてしまったらどうしようもないと思うの。私も泣いている場合ではないわね、また信用を取り戻すために一から頑張るわ。」

 気丈に笑って元気を装おうエミリアに胸が痛む。

「少し・・・お待ちください。ちょっと何とかできないか調べてみます。」

「バランド様・・・」

 期待するような目で見られヨハンはどぎまぎする。

(エミリア様が最高に困ってるときに力になれないなんて男じゃないよね!頑張りますっ!エミリア様の笑顔の為に僕はやります!)


 ヨハンはレイノー国の法律を勉強していた。

 こちらの弁護士資格を取ろうといつも勉強していたのだ。その中に、技術や物に対する特許というものがあった。それに形のないアイデアやルートなどが含まれるのか関係各所に問い合わせ、特許取得の手続きを済ませた。そのうえで、真似をした事業所を訴えた。

 相手はそこまで対処されるとは思わず、すぐに撤退した。

 撤退したがヨハンは追及の手を弛めず、不利益を被った分の賠償金と慰謝料を請求した。そのうえで、謝罪と誤解を招いたことを広く通知するよう求めた。

 それをしなければ慰謝料を上乗せするとの通告に、相手はアルテオ、レイノー国両国に謝罪の広告を出し、エミリアの事業所の名誉を回復した。

 結局人の努力と成功を横取りするような真似をした店は手ひどい痛手を被ったのだった。


「バランド様・・・ありがとう。心から感謝いたします。本当にありがとうございます。」

 涙をこぼしながらお礼を言うエミリアにヨハンは胸のときめきが止まらない。

 小躍り部隊が出陣し、お祭り騒ぎだ。

(よし!よくやった!ヨハン!もう一押し、もう一押しだ、ヨハン!)

「いいえ、たいしたことではありません。僕はここの従業員です、この事業所を守るために手を尽くすのは当たり前の事ですから。」

「それでもレイノー国の法律を勉強してくれていたのでしょう?お給料だって十分ではないのに・・・本当にありがとうございます。」

「きょ、今日は、二人でお祝いしませんか?食事に行って乾杯しましょう。」

「はい。ぜひ、お礼をさせていただきたいわ。」

(よっしゃああ~~!ああ、神様!聞きました?是非って!エミリア様が是非って言いましたよ?!ありがとうございます!こんな機会を与えて下さりありがとうございます!トラブルよ、どんと来るがいい!)

 有頂天も有頂天。小躍り部隊に追加隊員合流!

 いつにも増して賑やかな小躍りが披露されたのだった。



 少し高級なレストランで乾杯した。

「改めて、ありがとうございました。」

「当たり前です、僕は従業員なのですから。それにレイノー国の弁護士資格を取ろうと勉強していたのでタイミングも良かったのです。」

「バランド様は努力家で優秀ですのね。それに私がこれまで礼儀を欠いた態度をしていたのにもかかわらず助けて下さって・・・・心から感謝しています。」

「いえ、そもそもの原因を作ったのは僕ですから。それに僕がやりたくてやっているだけなのでエミリア様は気にされることはありませんよ。」

「バランド様が私に負い目を感じているのをいいことに、私はあなたの能力を搾取しているのと同じです。反省しております。」

「そう言って下さるのなら!僕をずっと雇ってください、必ず力になります。」

「いいのですか?こんな小さな事業所で?バランド様なら弁護士としてすぐに開業もできるでしょう?」

「まあ、副業では考えていますが本業はこの事業所の従業員ですから!」

「本当にバランド様は・・・」

 どれだけお人好しでやさしいのだろうか。

 エミリアは深く頭を下げた。

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