第2話 寝苦しい夜の話し相手
これは私が大学に通っていたの時の話です。
この頃の私はある日を境に毎晩のように金縛りに
金縛りは骨格筋が
よく金縛りの時に心霊現象を体験すると聞いていましたが、私のそれは金縛りが始まって一週間ほどが経った頃に起きました。
その日の夜中も金縛りで目が覚めました。正確には意識だけが目覚めた訳ですが。
ああ、また今日もか…そんな事を思いながらも苦しんでいると……。
みしっ──
みしっ──
──!?
はっきりと部屋の外の階段を、誰かが上がってくる音が聞こえてきました。
みしっ――……
その足音は何度か聞こえた後に聞こえなくなったのですが、金縛りはまだ続いています。
何か得体の知れないモノへの恐怖心と自由が効かない焦りが重なり、かなりの息苦しさを感じていました。
目覚め切っていない状態のぼぉっとした意識のまま、さっき聞こえた足音は何だったのかを考えていると、その思考を遮るような事が起きました。
ブツブツブツ……
ブツブツブツ……
耳元で誰かの何か呟く声が聞こえました。
すぐ傍で誰かの気配も感じます。
誰かが私の寝ている枕元で、耳元に顔を近づけて何かを話かけているように感じました。
目は開きません。
心がそれを見てはいけないと警鐘を鳴らしていたので、たとえ瞼が開くのだとしても、見たくはありませんでした。
金縛りで意識は起きてるといっても、半分は寝ているようなものなので、これも全て自分の頭の中で勝手に創り上げた夢のようなものだと懸命に言い聞かせようとしましたが――やはり怖いものは恐いのです。
やがて――
──ずしっ!!
胸の辺りに感じる圧迫感。
顔のすぐ傍まで何かが接近している気配。
次に両肩を上から強く押さえつけられるような感覚。
耳元では相変わらず何を言っているのか聞き取れない呟きがずっと聞こえていました。
今までに感じた事のない質の恐怖感に襲われ、早く朝になれ!それか眠ってしまいたい!!
全身が急速に汗ばんでいくのを感じながら強くそう思っていました。
しかし――本当に怖かったのはこの後でした。
夢で、妄想で、そんな事で片付けて眠る事が出来ないことが起きたのは。
──ばさっ。
それは突然、布団のめくられる音。
両足が一瞬涼しくなりました。
これは掛け布団の足元がめくられたのだと思いました。
そして次の瞬間――
――がしっ!!
うわぁぁぁー!!
はっきりと両足首を握られた感触がありました。
もう怖さを飛び越してパニックです。
動かないからと目を閉じている場合ではなく、とにかく身体を動かさなければと思い、どうしたら良いのかも分からないまま気合いだけで目を開こうとしました。
もし他の人がその状態を見たとしたら、ただうなされているだけにしか見えなかったかもしれませんね。
その間も足首を掴まれている感触は続き、押さえつけられている重さも耳元で聞こえている声もそのままでした。
があぁぁー!!
心の中で何度も叫びました。
何とか身体を動かそうと、人生で最大の気合いを入れて頑張りました。
そして──
何度目かの心の叫びと同時に目を開く事に成功しました。
しかし、そこにはただ真っ暗な自分の部屋の天井が見えただけ。
胸の上にも枕元にも誰もおらず、汗だくになった身体を起こして足元を見ても当然掴んでいる手はありませんでした。
ただ──
布団の
感触というのは夢の中の出来事を自分の意識で残す事も出来るようですが、布団の状態は寝相でどうにかなるようには思えません。
この時に何が起きていたのか、何も起きていなかったのかは分かりませんが、それ以来同じような経験はしていません。
金縛りもこの夜を境に起きなくなりました。
結局のところ、この夜に私は何も見ていませんし、半分は寝ていた状態なので夢だと言われれば、それはその通りだと思います。
私自身、霊の存在をそれほど信じていませんので、あれは全て夢だったのだと今は思っています。
これはあくまでも私にとっての体験談であり、それがそのまま実際の出来事ではないと思っているからです。
ただ、自分の見えないところでも世界は動いていますし、たまたま目撃者がいない所で非科学的な出来事が起きていても良いとも思っています。
ただ自然に布団がめくられていた――そんな些細な事であっても……。
第2話 寝苦しい夜の話し相手 ─ 完 ─
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