放課後
八月 猫
第1話 放課後
これは私が学生だったころの話です。
当時中学三年生だった私は、その日の帰りのホームルームが終わった後、鞄に教科書を無理矢理詰め込み、帰り支度を急いでいました。
私の教室は三階建て校舎の三階にあり、廊下の突き当たりが音楽室で屋上まで続く階段を挟んで私の教室、それから他のクラスが三部屋並んで、その先に別の階段がありました。
廊下とは反対側、教室の奥の窓の外にはその階の全ての教室を繋いだベランダがあり、そこには胸の高さぐらいまでコンクリートの壁がついていました。
ベランダへの出入口は教室の後ろ側にあり、その時はちょうど開いていました。
私の席は廊下側の窓際の一番後ろの席だったので、その開いていた出入口から外のベランダが見えていました。
鞄に荷物を入れ終わる頃に、いつも一緒に帰っている友達二人がやってきて、帰りの寄り道の相談を始めました。
今考えると、この時に教室を出て歩きながら話してれば良かったのかな?とも思います。
クラスのみんなも帰り支度をしながら雑談をしていました。そんな賑やかな教室の中で話していると……。
教室の奥の窓の外――ベランダを隣の教室の方からこちらに向かって歩いてくる女の子が見えました。
その子をぼんやりと視界の端に入れながら友達と話を続けているうちに一つ気付いた事がありました。
その日は夏休みの少し前でしたから、同じ学校に二年と少し
学年の生徒全員とまでは言いませんが、小学校からの同級生も多いですし、そんなに大きな学校ではなかったので、少なくとも同学年の生徒の顔は全員知っているはずでした。
でも、その歩いて来る女の子の顔に見覚えがなかったのです。
ん?誰かな?って。
その子が向かっている先にある音楽室では吹奏楽部が放課後に部活動をしているので、そこの下級生かな?とか。
そんなことを考えながら友達と会話していたので、ちらちらとそちらに送っていた目線に友達二人が気付いて、彼らもふっと――条件反射のようにベランダへと視線を移しました。
ちょうどその時、その女の子は後ろの出入口の辺りまで来ていましたが、顔は正面を向いたままなので、そのまま音楽室の方へ行くのだなと思った次の瞬間でした。
開いていた扉の前を通り抜けた彼女は――
コンクリートの壁の向こう側を、つまりこちらからは肩から上だけが見える状態で通り過ぎて行きました。
校舎の三階にあるベランダの向こう側を……。
うわっ!!
三人揃って大声を上げたので、近くにいたクラスメートは驚いたと思いますが、そんなのは気にも留めずにベランダに向かって私たちはダッシュしました。
ベランダに出た私たち三人ですが――そこには誰もおらず、部活動の始まっていなかった音楽室への出入口の扉にも鍵もかかっていて、部屋の中にも誰もいませんでした。
慌てて走ってきた私達三人に他の子らが何だ?と聞いてきたので、今見た事を説明したのですが、窓際にいた人も含めて――誰もその女の子の事を見ていたクラスメイトはいませんでした。
その日の帰り道、三人でこの不思議な体験を話しながら帰りましたが、何故か次の日には三人とも彼女がどんな顔をしていたのか思い出せなかったのです。
あれから結構な時が過ぎましたが、ふと――人と話しをしている時に思うことがあります。
向こうを歩いている人は本当に実在する人なんだろうか?
他の人にも見えているのだろうか?と。
そして――あの時の少女とはあの後も、いつかどこかですれ違っているんじゃないだろうか?
本当は私たちに何か伝えたいことがあったんじゃないだろうか?と。
だから――叶うならばもう一度彼女に会ってみたいと……今はそう思います。
第1話 放課後 ─完─
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