第183話 王都と異種族たちとリーリエ

 国境を越え、ついにエルのいる共和国に辿り着いたリーリエは、国境を越え、共和国王都……いや元王都というべきか……にまで到着した。

 そして、彼女が驚いたのはその街の活気と様々な多種多様な異種族たちである。

 基本的に人間上位であり、異種族は明らかに下級存在として扱われている神聖帝国と異なり、それぞれの国から迫害を恐れて逃れてきた人間以外の他種族たちが、どんどんとこの街にやってくるようになったのである。


 もちろん異種族同士の小競り合い、トラブルなども多いが、彼らが恐れているのは「この国に迷惑をかけるのなら帰れ」である。

 元の国の様々な問題などからようやく逃れてきている彼らは、無理矢理強制送還させられるのを病的に恐れている。

 実際に問答無用でこの国から追放されて、行方不明になった異種族たちも存在する。

 エルたちや辺境伯からしても「可哀想だから」「理由があるから」で容赦する事はない。

 このため、逃れてやってきた移民異種族たちが悪事を行った場合、同じ異種族たちが彼らを締め上げる事も珍しくはない。

「この種族は犯罪ばかり犯してるから皆追放だ。」と言われる事を極端に皆恐れているのだ。

 そして何より、彼らは皆強大な力を誇り、無数のワイバーンや地竜を統べるエルを極端に恐れている。彼や辺境伯から種族ごと目をつけられたらたまったものではない、というのが皆大人しくしている理由である。

 神聖帝国とは別の意味で活気溢れている王都を珍しげにキョロキョロとフードを纏ったリーリエが見ていると、急にワイバーンに乗った竜騎士が修復中の物見台に飛び込んで来た瞬間、緊急事態を知らせる鐘の音が響き渡り、城壁にエルが張った地脈結界が展開される。

 そして、街内部が大騒ぎになっている中、街から「何か」が急激に上昇していくと、「何か」は急激に巨大化し、7メートルほどの巨大な竜の姿へと変化する。


「あれが……ドラゴン!?」


 それは、巨大化……というよりは、元の姿に戻るとそのまま街の外へと飛び去っていった。その人智を越えた強大な肉体が平気で飛翔し、空を駆ける姿に、リーリエは思わず憧れと共に見とれていた。

 そして彼が飛び去った後に、王都の上空に巨大な幻影魔術による映像が浮かび出された。これは、王都の人々にエルの活躍を見せて信仰を獲得しようとする彼の案である。

どうやら敵は他の竜が襲いかかってきたので、エルが迎撃に出たらしい。それを期待に満ちた瞳でリーリエはその映像を見上げていた。



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