第182話 リーリエ、エルの国へと密航する。

「はあはあ……。こ、ここまでくれば何とか……。」


 神聖帝国の皇帝であるはずの少女リーリエは、自らの宮殿や国から抜け出して、そこらへんの冒険者の少女に変装してエルの国の手前までやってきていた。

 神聖帝国から皇帝が逃げ出して他国に向かうだのそれだけで神聖帝国の内部は大混乱だろう。だが、その大混乱に陥っているなどという話は一切聞こえてこない。

 恐らくは影武者を立ててそれで上手くやり過ごしているのだろう。むしろ、自分がいないほうが上手くやれているのかもしれない。

 とはいうものの、神輿だとはしても外征に行く際にガチガチに守られる際に上手く警備の目をすり抜けて冒険者として脱出できたのは、彼女の有能さが発揮されたのだろう。

 リーリエはそのまま女性冒険者としての旅を続けながら、神聖帝国内部を自らの目で見ることになった。そこで見たのは、いつもの順調にいっているという定期報告からはかけ離れたものだった。

「神聖でもなければ帝国でもない。」それが人々の口から出るありふれた言葉であり、重税をかけられ、その重税によって苦しむ市民や農民たち、そして奴隷たちだった。人類至上主義の軍事国家を目指すため、それによる軍の増強や武器の増強、さらに貴族の優雅な生活を保つために、下の人々が犠牲になっているなど、リーリエの全く知らない世界だったのだ。


(まさか自分の国がこんなになっていたなんて……!誰もそんなこと教えてくれなかったのに!!)


 女性冒険者として化けていたので、彼女を狙う者たちもいたが、そこは皇帝でも護身術として鍛え上げてきた武芸、そして自らの魔術などで身を守ったりサバイバル訓練などを受けた経験などを活かし、さらに魔術で結界を張って休んだり自分の身を綺麗にしたりすることで、何とか乗り切った。

 当然、皆皇帝の顔など知る人々などいるはずもない。都市間を行きかうキャラバンに乗って彼女は何とか旅を繰り返していったのである。

そして、ついにエルの住む国の近くまで来た彼女は、そこで予想外のものを見た。

それは、ワイバーンに乗って空を飛行するいわゆる「竜騎士」である。竜を乗りこなして華麗に空を駆るその姿。それは皇帝という自分の身分に縛られたものではなく、自在に空を駆ける自由さは、彼女の胸を打つものがあった。

さらには、地上を駆ける地竜たちと、それを使役する竜人の人々の姿。これが竜が支配する国か、とリーリエは興奮で己を抑えきれなかった。




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