第175話 竜語魔術の解析。
その後、竜語魔術を目の前で経験した知識神の神官たちは、血眼になって竜語魔術の翻訳へと取り掛かっていた。
竜語魔術は、根本的に人間には使用できない。そもそも発音器官が人間とは異なるのだ。見せかけで人語を話せているのは、彼らの魔術による物に過ぎない。
だが、その言語を翻訳して、人類でも多少なりと使えるようになったらどうなるか?
それは人類全体に大きな貢献になるはずである。竜語魔術と古代語魔術を上手く併用できれば魔術の威力も根本的に変化する……かもしれない。
だが、やる気満々に神官たちに対して、エルに恩義を感じているアヴリルはあまり乗り気ではないのが意外だった。
彼女は、主にエルが導いた地脈活性化による大地の精霊力・魔力向上の方を研究している。地脈の増幅した大規模なエネルギーを上手く利用すれば、当然魔術師も大魔術を使いこなすことができる。土地が豊かになるだけでなく、他に王都に貢献できる様々な魔術を使いこなすことができる。彼女はそこに目を付けたのである。
だが、そこでエルはある事に気づいた。つまり『竜語魔術を人間が解析するのまずくね?』問題である。
『と、言うわけなんだけど……これってまずいかな……?』
竜的に問題があるのなら、止めさせる必要があるか?とエルは再び大量の食事と引き換えにティフォーネを呼び出して事情を説明した。
ふむ、と椅子に腰かけて優雅にエルのおごりの高級な紅茶を飲んでいる彼女は、実にどうでもよさそうな口調でこう答えた。
「ふむ、私個人的に言わせてもらえば……『別にどうでもいい』ですね。」
「例えば……そうですね。そこらへんに子猫がいたとする。子猫が人間の言葉を少し話して、少しだけ跳躍力が高くなったりする。あるいは爪が少し鋭くなったとする。
これに対して貴方達人間は脅威を覚えますか?珍しいと思うでしょうがそれだけです。私たちにとっては別段何事もありません。」
確かに彼女ほどの実力の持ち主ならば、人間が多少力をつけようがどうでもいい、と切り捨てられる。それに人間が竜語魔術を解析して疑似的に発音するのも長い時間(人間基準)がかかる。むしろ、同じ言語を話す存在に対して暴力を振るうのは、さすがの竜族でもためらうのではないか?というのがティフォーネの考えだ。
(ちなみに、彼女自身は同じ言語を話そうが関係なく気に入らなければ叩き潰すとのことである)
「むしろ、竜と人間との共存関係を望むなら、お互いの言語の解析は当然といえるでしょう。……まあ、これは竜と人類の共存派の言い分ですね。人類を敵視する竜族から貴方はまさしく竜の誇りと言語を売り渡した竜族の恥さらし!と怒り狂って襲い掛かってくるでしょうね。せいぜい頑張ってください。私がちょくちょく手助けするのも自立になりませんし。」
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