第172話 運命共同体

「おい本当か!竜語魔術が見れるっていうのは!?」


「いやいやそれよりも竜が地脈を操作するなど、我々とは恐らく異なる魔術体系の構造で行うだろう……。ぜひともそれを解析しなければならん!知識神の名において!!」


 どこからか……というか盾神神殿からの連絡を受けたのか、わらわらと今までとは異なる研究員のような神官たちが部屋へと入ってくる。

 それは、知識と真理を求める神、知識神の神官たちである。

 知識神は現世の権力関係など無縁とばかりに超然としている象牙の塔ではあるが、こと新しい知識に対しては興味津々である。

 伝説に聞く竜の言語、竜語魔術を目の前にできるとは!!そんな機会を彼ら知識神に仕える者たちが見過ごすはずもなかった。

 今まで彼らが静観を保っていたのは、エルに対してツテがなかったからである。ツテを得ればそれに飛びつくのは当然だった。


「ええい落ち着け!!術式の解析・分析は俺たち盾神神殿で行う!!こっちは市民の命と都市の防衛がかかってるんだぞ!!こっちが優先だ!!」


「お前たちそんな事言って真っ先に術式の知識を独占しようというんだろうが!都市の防衛という大義名分の元にな!我々が協力すればもっと……!!」


。」


 ぴたり、と辺境伯ルーシアの言葉で神官たちの言葉が止まる。

 他愛のない言い争いではあるが、ルーシアの迫力ある言葉はそれを制止する力があった。


「我々はこの王都防衛のために協力する必要がある。知識神の知識、盾神の防衛ノウハウ、大地母神の豊穣と食料供給、私の軍の兵力、そして竜様の地脈による結界。

 これら三つが揃えれば、この王都を防衛する大きな力となるだろう。

 ……さて、こうして王都防衛のために駆けずり回っている我々に対して、何もしない所か『我々』を敵視している至高神の神殿と弓神の神殿は市民からどう思われるだろうか?」


 それは当然、ただでさえ人類至上派の事変の際に何もせずに黙り込んでいた両神殿だ。ただでさえ市民から厳しい目で見られているのに、さらに厳しくなるだろう。

こうしたイメージ戦略がこちらの大きな力になる、とルーシアは理解しているのだ。さらっと自分たちも「我々」に含まれた知識神の神官と盾神の神官は嫌な顔をするが、事ここに至っては中立気取りをしていてはどうなるか分からない。生き残るためにはお互い力を合わせる必要がある、という事は彼らも理解している。つまり、何だかんだで我々は運命共同体である、とルーシアは知識神の神官と盾神の神官をこちらに引き込んだのである。そのルーシアの言葉に、大地母神の神官は頷いた。


「……まあ、いいでしょう。我々大地母神の神殿は竜様に全面協力する事を誓います。豊穣をもたらし、農地を豊かにし、農民たちを守護するのが私たちの役目。地脈が豊かになればそれが叶うとなれば、断る理由はありません。」

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