第167話 辺境伯の後ろ盾

 その後、エルはユリアたちを連れてルーシアの元へとやってきた。アヴリルが提案した竜神殿の神官というアイデアの話を通すためである。

 当然、ルーシアは良い顔をせずに思わず眉を潜めた。


「ううむ……。このまま象徴としての王家でいてくれたら全て丸く収まるんだが……。他の神殿系、特に至高神と弓神の神殿とは冷戦待ったなしだぞ?それでもいいのか?」


 象徴として存在しているお飾りの元王家ならばどこからも文句は言われないだろうが、エルに肩入れすれば当然どこかしら強い反発が出てくる事になる。

 だが、ユリアもレイアも強い意志を秘めた瞳でルーシアを見返してくる。

 それを見ながら、自室の椅子に座っている私服のルーシアは、深いため息をついた。


「やむを得ないか……。確かにそれならこちらの約束を破っている訳ではないしな。王家の血筋が竜神殿に仕えるなどあれやこれや問題になることは目に見えているんだが……。ともあれ、そうなるといかに金を稼ぐか、そしてどうやって住人を集めるか、それらを行わないとすぐに潰れてお飾り王家だぞ。きちんと考えろ。」


 その言葉に、皆が腕を組んでううむ、と考える。信者は今の王都ならばそれなりに来てくれそうではあるが、問題はそれを維持する金である。

 ただ単に金を儲けたいだけの新興宗教ならば、徹底的に金を絞り取る、ネズミ算などを使って信者を集める、勧誘に新興宗教などという言葉を使わない、など典型的な悪徳宗教にして金をかき集めればいい。

 だが、王家の末裔がそんなことをしたら信頼がた落ちで元王家の威厳も地に落ちる。さらにエルの竜信仰も徹底的に弾圧されてしまうという本末転倒になるだろう。

そうなるのを防ぐのは、地道にやっていくしかない。まずは配信などをさらに行って人々を集める。そうすれば信仰も自然に金も集まってくるはずである。


「仕方あるまい……。しばらくはこちらが竜信仰の維持費を出そう。君たちにはお世話になっているし、君たちがいなければ王都奪還もミストルティン破壊もできなかった。それぐらいの面倒はみよう。至高神の神殿や弓神の神殿と何とか折り合いをつけるようにしなければな……。」


腕を組み、深々と溜息をつきながら、ルーシアはそう答える。

なんだかんだで彼女やエルたちの力がなければここまでは来れなかったのだ。

彼女たちの後ろ盾となるのは、辺境伯としての使命と今までの恩を返すために、今までエルなどの力で王都奪還やミストルティンを破壊できたのだから、それくらいは当然だろう、とルーシアは考えていた。




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