第160話 シュオール全開のダダこね。

 さて、王都から離れた大迷宮近くのとある深い森林地帯。

 ここらへんは多少開拓された程度で、まだまだ深い数多くの森林によって守護されている。そして、その前人未到の奥深い森林地帯で、一人の竜人の女性がジタバタと手足を動かしながら地面に倒れこんでダダをこねていた。


「嫌じゃー!!」


 当然、こんなところにたった一人でいられる竜人がただの人間であるはずがない。

 彼女は、エルの母親であるエンシェントドラゴンロードの一柱である地帝シュオールである。彼女は竜族の頂点に立つ存在という威厳も何もかなぐり捨ててダダをこねていた。そして、そんな彼女と瞬間転移してここまでやってきたティフォーネは、呆れた表情で見下ろしていた。まさかここまで全力で大人げない事をするとはティフォーネにも予想外だったからだ。


「嫌じゃ嫌じゃ!!我が子が神に近しい存在になるなんて嫌じゃー!!妾は異議申し立てを試みる!!」


そんなダダをこねる彼女を見て、ティフォーネは、はぁ~と深いため息を見ながら腰に手を当てながらシュオールを見下す。


「いい加減子離れしなさいな見苦しい……。それに神と言っても別段、貴女神に対して敵意も隔意もある訳じゃないでしょう?」


「まあそれはそうなんじゃが……。」


 ティフォーネたちにとって、人間や人類社会はおろか他種族や神々であっても「どうでもいい」という価値観を持っているのが大半である。

 自分たちに危害が及ばなければ知った事か、という無関心は、彼女たちの強さから成り立っている。

 はっきり言って彼女たちが「自分たちの役目である自然維持以外割とどうでもいい」と思ってるからこそこの世界は維持できているようなものである。

 神に対しても別に彼女たちは敵意や悪意を持っていない。言ってしまえば成り行きで戦っただけの話である。だが、息子がそちらに近づくというのは、自分から離れていく感じがして寂しいのだろう。

 そんな風にえぐえぐ泣いているシュオールに対して、ティフォーネは、呆れたような視線を向けるが、それでも可愛い弟子に対して「やっぱり無理でした~」とはあまり言いたくないので、渋々ながら説得にかかる。


「別に竜という種族から離れるわけじゃないからいいじゃないですか。そんな細かいことにこだわっていると息子に嫌われますよ?母親なら細かい事に拘らないでその程度受け止めるぐらいの懐の深さを持ちなさい。」


そのティフォーネの言葉に、うぐぐ、とうめき声をあげながらシュオールは渋々と受け入れることになった。

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