第156話 復興と信仰。

 レギオンや人類至上派によってメチャクチャにされた王都だったが、それにも負けず急激な復興を遂げつつあった。

 それには中立派が持っている大量の物資、そしてそれを迅速に運べるエルのワイバーンや疲れ知らずの地竜たち、さらに炊き出しに使用されるシュオールの杯から生み出される無尽蔵と言っていい食料である。

 この杯の力によって、この王都では飢えている人間は存在しない。

 むしろここから無尽蔵に出る麦を格安で王都にいる商人たちに販売して、商人たちがこの麦を他に安めに販売して輸出するぐらいのことまで行っている。

 災害が起こった土地から、飢える人が出ずに逆に食料が輸出されるなんて前代未聞なことに周囲の商人たちも目を白黒させているが、それでも値崩れしないように王都の商人もルーシアも気を付けるようにはしている。

 竜の魔力を食料に変換するこの杯は、実は中々使いどころが難しい。

 無尽蔵にバンバン麦を出してしまっては、周辺の農家が余波を食らって麦の値段が極端に下がり次々と破産、農地の放棄が起きる可能性が高い。

 そんなことを辺境伯ルーシアは到底認められないため、彼女の指導の下慎重に行われているのだ。


「竜様~!見てくれ~!これが新共和国の旗のデザインだ!きちんと竜様も入っているぜ!!」


 そんな感じで復興の手伝いをしているエルのところに、喜々として彼らは新しいデザインの旗を見せてくる。以前の剣と盾をモチーフにしたアルビオン王国のモチーフに加え、そこに簡略化させた竜のデザインを入れることによって、竜への畏敬と尊敬を示そうというのだ。

 これは王都の皆もほとんど賛成しており、そこに異論を放つものはいない。それも復興の大きな手伝いや無償で食料の炊き出しや復興のために麦を格安で販売したからである。

 そんな復興を手伝ったこともあって同じような属性を持つ大地母神の神殿とエルとはわりと仲良くなっている。

 遥か超古代に竜は神々の肉体を焼き尽くしたと聞くが、大地母神の神殿はそれでもエルとは仲良くなろうと努力は行っている。

 問題は、至高神や戦神の神殿などである。超古代の戦いだけでなく、特に戦神が崇めていた弓神の武器を破壊されていたという事実は、彼らの存在意義を大きく揺らがせるものであった。至高神としても、神の武器を破壊して神の権威を貶めた竜は許すことはできない。だが、それでも王都をまともにしてくれたエルとは真正面から対決することができず、いわゆる冷戦状態へと突入していた。


(問題は至高神や戦神の大神殿だよなぁ。絶対こちらを敵視してそうだし……。大地母神の神殿から働きかけてもらって何とかしてもらうか……。)

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