第151話 辺境伯と竜
「で、まあ話は元に戻るわけだが………。竜様はあの子たちをどうするつもりなんだ?我々としてはユリアたちはもう冒険者を引退させるべきだと思うんだが。」
そのルーシアの言葉にエルも思わず頷く。もう彼女たちは散々苦労してきた。危険な冒険者など辞めて街で幸せに暮らすべきだ。彼女たちが恋人を作って幸せな家庭を作ってくれれば、こちらは後方父親顔をして腕組みをしながら幸せそうな彼女たちを見ていればいい。それがエルの望みである。
『そうだな………。あの子たちにはもう幸せになってもらいたいというのが本音だ。
そして、共和国の一員になるというのも受け入れよう。だが、我にはやるべき事がある。それは大迷宮探索に戻らなければならないということだ。』
そう、共和国の一員になることに否はない。むしろ人間社会に深く繋がることで、人類社会から狙われる可能性はかなり低くなった。シュオールの杯による大量の食糧供給によって市民たちの心も掴んでいるし問題はないだろう。
だが、エルには大迷宮を攻略しなくてはならない、という問題がある。
これはシュオールがエルに対して出した宿題のようなもので、大迷宮を他のろくでもない奴らに取られてしまっては何をされるか分からない。共和国を維持するために大迷宮を攻略する必要があるのだ。それに、大迷宮から出る様々な大量の魔術的資材や宝石は共和国を栄えさせる大きな原動力となる。
その言葉に、ルーシアは、ふむ、と自らの顎に白い指を当てて考え込んだ。
「ふむ、大迷宮から様々な資材を搬出し、共和国の資源とする、か。それはいいアイデアだ。これがうまくいけば辺境と言われた我々の土地が王都以上の繁栄になるかもしれない。ぜひ私からもお願いしたいところだ。バックアップはさせていただこう。」
こうして、エルとルーシアはいわゆる運命共同体として暮らしていくことを決断した。協力して力を合わせればこの国はもっと発展できる、いい国になれる、と思ってしまうのは当然の成り行きだった。エルとルーシアはお互いに手を取り出して軽く握手をし、魔術証文に共通の宣誓をしてお互いの血で血判を押す。これである程度は裏切ることができないはずである。(無論抜け道も色々とあるが)
(しかし………。それでも向こうはこちらに対して不信があるだろう。何とかそれを解いて仲良くなれるようにしなければな。)
エルがその気になればシュオールやティフォーネの力で人類社会に大きな打撃を与えることはできる。それを過剰に心配した人類サイドやルーシアが何らかの手をエルに仕掛けてくることも考えられる。こうした誤解を解くための信頼を積み重ねていることが今は最も大事なことである。
せっかくいい感じの関係になれたのに、それを壊したくないと思うのは当然だった?
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